01
 


「白石君かっこええわ〜っ…きゃあ!今こっちみた!みたやんな!?」
「絶対みた!!今日は一段とかっこよかったな!髪とか地毛なんやてっ」
「えっそうなん!?地毛でミルクティブラウンってもうそれ貴族やわ!めっちゃ高貴!はあ〜ますますかっこええな〜」
「な!ますます惚れてまうな〜!」


移動教室の時に一回は耳に入ってくる女の子の『白石君かっこいい!』はわたしにはよくわからん。

「どこがかっこええんやろねえ友ちゃん」
「…言うとくけどそんなん思てんのあんただけやからね」
「いやだって、あそこまで騒ぐほどかねえ?友ちゃんやって地毛やろー?」
「白石の地毛色がミルクティなんが特別かっこよくみえるからやろ。まああたしは黒髪が好きやけどな」

白石が黒髪にしたら惚れてまうかもしれんなー、って友ちゃんは言いながら足を速めた。わあ、もうチャイム鳴ってまう!

チャイムぎりぎりで家庭科室に入ると偶然白石くんと目が合うてしもた。さっきの今で思わず顔を凝視してまう。うーん、やっぱりそんなに…タイプやない。うん、そうや!それがしっくりくる!わたしのタイプやないんや、白石くんは!
家庭科の時の席は自由やから、友ちゃんと隣同士で座った。

「友ちゃん、わたし気付いたよ」
「ん?」
「白石くんはかっこええ」
「お、やっと気付いたん?」
「うん。そしてわたしは白石くんの顔がタイプやない」
「はあ?」
「なんか美形すぎて。せ、整形?とか、してへんのかな?」
「阿保か、してるわけないやん。あんな名前、神様っちゅーんは不公平なんや。なんもかんも与えられた人間っちゅーんがおるもんなんやで」
「ほおほお。…それが白石くん?」
「そ。あんなもん芸能人レベルやで」

確かに芸能人…いやもうその中でもトップクラスに入るんやないかな。うん、認める。白石くんはかっこええ。
もう一度ちらりと白石くんを盗み見てみると、真剣に家庭科の先生の話を聞いとる。それを見てわたしも聞かなきゃ、と真剣に前を向くことにした。



家庭科の調理実習が終わってお腹も満たされた午後、わたしはとんでもないシーンに遭遇してしもた。

「あたし…蔵ノ介君が、好きです!」

えっ、えええええ!?何!?ど、ドラマの撮影か何かやってはるんですか!?いやいやここ学校やん…!ありえへん、あっりえへんよ!…とか思いながらついつい隠れて続きを聞こうとしとるわたしって一体どんな出歯亀やねん。いや、別に、白石くんやから気になるとかではなく!

「ごめんな。キミとは付き合われへん」
「なっ、なんで!?」
「うん、ごめんな」

白石くんは理由も言わんとその場を去っていってしまった。これには少し失望したよわたしは。白石くん、男らしくないなあ。とか思ってまうよこれ。
すぐに教室に戻って一連のシーンを事細かく友ちゃんに言うてみると「そんなもんしょっちゅう告白されんねんからいちいち理由なんて言うてられへんやろ」と軽くあしらわれた。えええ、ひどいよ#name3ちゃん…!

わたしが初めて、こっ、告白された時(中学二年生の時)は、それはもうこっちまで緊張が伝わってきて、へんな汗までかくハメになって、でも好きやなかったから丁重にお断りをしたのを覚えとる。
誠心誠意、ってゆーんかな。なんか、「ごめんなさい、でもありがとう」みたいな、そんな風に断るもんやと思ってたし、みんなそうやって断っとるもんやと…せやのに白石くんは、ありがとうもなしに謝って終わり。せっかく相手の子がめちゃくちゃ勇気振り絞って告白してくれたのに、それはちょっと、いかがなもんやろうか。

「見損なった。わたしは見損なった」
「もー、何?まだ白石の話続くん?」
「だ、だって!あんなに見た目芸能人なんやから、中身もかっこええと思うやんか!」
「いや白石は中身かっこええやん。ちゅーか断り方メッチャかっこええやんか。"なんで!?"に対して"うん、ごめんな"なんか中の上以下の男子は言われへんで。お前の分際で何がやねんってなるもんやわ」
「か、かっこ…どこがっ!?理由聞いてたのに、ごめんなって答えになってへんやん…!」
「それがかっこええんやろ。多分その子も白石のことより一層好きになったんちゃう?あーもー名前はほんまわかってへんなあ、その純真さってどうやったら手に入るんやろか?100万円あったら売ってくれん?あたしに」

ほんま困ったヴァージンやでー、って友ちゃん口を慎みたまえよ!ちょっと!男子が見とるやないですか!ヴァージンは禁句なんやからもうほんまやめてよね…!

「あ、ほら、白石帰ってきた」
「え、あ…えー」

何事もなかったかのように教室に戻ってきた白石くん。右手には購買の袋を持っていて、多分さっきのついでに寄り道でもしてパンでも買うたんやと思う。なんでそんな普通なんやろうか。わたしがもし白石くんの立場やったら、心臓ばっくんばっくんで、絶対購買とか行かれへんし、絶対パニックになって走って友ちゃんのとこに戻ってくる。(友ちゃんはなんだかんだ話を聞いてくれるからだいすき)

白石くんは普通だ。普通に席に着いて、仲の良い男子とパンをかじっている。いいな…わたしもパン食べたくなってきた。
その瞬間わたしのお腹がぎゅう〜と鳴る音と同時、教室の外から女の子が「白石君いますか?」と少し大きめの声で教室中に言うた。え、まさか。

がたんと席を立った白石くんは変わらない距離のままいつもより少し張った声で「おるけど、何?」とパンを友達に渡した。それから教室から姿を消して、残された友達は白石くんに渡された方のパンをやけくそになったみたいにかじっていた。

「友ちゃん」
「告白に決まっとるやろ」
「いっ、一日に二回もっ…!」

なんという男白石蔵ノ介!どういうこっちゃねん!思わず大きな声でそう叫びたいくらい。末恐ろしい、怖いよもう白石くん…悪魔的にモテるんやね。

「名前がタイプやないって言うん、なんか今ならちょっとわかるかも」
「…でしょ」
「あんなんが彼氏になったらさぞ大変やろうしなあ」
「わたしは…そうだな。1組の松岡くんとか、タイプかな」
「それは全然わからん!ていうか、マジで!?キモイやんブスやんメガネやん!」
「か、顔で言うたらやんか」
「いや顔で言うたらまずない一番にないよ!?」
「ええっ、そうなん?えー、共感してくれんのん?」
「いや誰もする子おらんと思うよ。ちゅーか名前、あんたが白石のことかっこええと思わんのって」
「え?」

「ブス専なだけやん!」

その瞬間、わたしの全身を雷が駆け抜けた。(あ、電気走るくらいショックって意味です)


そうしてわたしがB(不細工)専門女子というレッテルを貼られることになってすぐ、白石くんと席が隣になりました。





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