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先日のセンター試験はどうやら二人ともなかなか手応えのあるもんやったらしく、点数も余裕で足りたらしい。それを聞いて俺も一先ず安心した。
「二次試験も油断せずに行こう」とか誰かさんの台詞パクッた謙也はもう落ちたらええのになと思う。(「ひどい!ひどすぎるで白石!」)(「冗談やんか」)

名前も二次試験に向けて更に勉強に力をいれとるんやけど、俺との時間も大切にしたいらしく、割と放課後なんかにデートに誘ったらOKをくれたりする。「図書館でいい?」とか言われても全然嫌やないし、そこは嫌でも名前に付き合うっちゅーんが彼氏のお努めや。

そんな彼氏の俺のお努めも今日はお休みを頂きたい二月十四日。世間一般で言うバレンタインデーや。

俺は昔からこのバレンタインデーっちゅーのがいるんかどうか甚だ疑問やった。貰いっぱなしで何も返さんとかいうんは俺の性格上なんか嫌で、毎年仰山貰う度に小さいながらお返しは返しよった。謙也曰く、それがまた逆効果らしいねんけど、そんなんは知らんし貰ったもん返しとるだけや。(名前がわからん分はしゃーないけどな)
謙也なんかは貰ったら貰いっぱなしやし(笑顔振りまいて「おおきにな!」ちゅーんも逆効果やと思うけどな)、財前なんかは貰ったもんを人にあげたり、なんとも卑劣なことをしとるらしい。(「卑劣も何も、欲しいなんて一言も言うてないっすから、俺」「財前、お前…すごいな」「は?」)それでも毎年貰う数は増え続けとる言うんやから、ほんまにすごいと思う。知らん方が幸せなこともあるって、多分こういうことを言うんやろな…。
過去のバレンタイン話はさて置いて、や。今年の俺のバレンタインはもう去年とはちゃう。なぜならもう付き合って10か月にもなる彼女がおるからや。

「白石、隣のクラスの子が呼んでるけど…また断っとくか?」
「おん、頼むわ」

今年からは名前以外からはもうもらわんシステムをとることにした。名前が「わたし以外の子から、貰わんで」とか可愛いことを言うてくれたわけやないけど、俺が嫌なだけやねん。なんたって名前にベタ惚れやからな!

そんな俺がベタ惚れしている名前ちゃんからは、実はまだ貰うてない。(朝一でもらえるて思うてた)
別に焦って、へんけど…いつくれるんかな、とは思う。やっぱり男やから、好きな子から貰えるまでは安心でけへん。

そわそわした気持ちはなんとまさか放課後にまで続き、もう帰る時間や。いつもやったら挨拶をして真っ先に俺が「名前、帰ろ」と誘うんやけど、あかん!今日はあかん!バレンタインは女の子が積極的になる日ィなんや…!そこんとこ理解して、名前から誘って…あれ、名前が、おらん…?

「けっ、謙也ぁ!!」
「うわっ、びっくりした、なんやねんそないでかい声で!聞こえとるっちゅーねん!」
「名前は!?どこ行ったん!?まさか、かっ、か、帰ったんとちゃうよな!?」
「ちょ、お、おお落ち着けやどないしたんや珍しい!すごい剣幕やなしかし!」

き、嫌われた?えっ、なんで?…そういえば今朝二人で一緒に登校して教室で席別れて以来、ずっと喋ってない…!やって名前お昼もおらんかってんもん!!

「名字なら、ホームルーム終わってすごい勢いで教室出てったの、見た気するけど」

なんやこんな日に喧嘩でもしてんのか?と無神経なことを言う謙也をとりあえず殴った。(「ふごぉっ!!」)(「えっ、なんで!?白石!?」)
それからすぐに俺も教室を出て玄関に向かう。途中、両手にゴミ袋を持った金ちゃんに遭遇した。

「あっ、白石やーん!なんや最近部活全然顔出さへんし、つまらんでえ!テニスしよーやテニスー!」

中学ん時と変わらない元気で明るい金ちゃん。ただ変わったのは俺が金ちゃんを少し見上げるようになったことと、その両手のゴミ袋に惜しみなく詰めこめれているバレンタインチョコの量くらいや。…も、もらいすぎやろ金ちゃん。

「ん?そういや白石、去年はワイみたいにチョコいっぱい持っとったんに、なんで今日はないん?忘れたんか?」

幼かった金ちゃんの顔は、今やすっかり大人びた男の顔に成長している。それでも変わらないのはあどけない、人に一切の壁を作らない笑顔やった。そんな笑顔でいきなり俺の今一番触れられたくない所を付いてくるもんやから、余計にダメージ食ろうた。(悪気がない分、余計な…)

「わ、忘れてへんわ!…名前に限って、忘れるとか」
「は?名前?」
「金ちゃんええなあ、そんな仰山チョコもろて」
「おん!去年よりも更に多くて嬉しいわ!」

去年もこんな感じやったんか…。金ちゃんの中3時代は俺は知らんから、なんかショックや。やって、あんな可愛いかった金ちゃんやで。成長ってほんま、怖いな。

「そういやさっき、白石といっつも一緒におるねーちゃんみたで」
「は!?いつや!」
「さっき言うたらさっきや」
「どこに向かったとか、わからん!?」
「んー、それはわからんけど、下駄箱でなんやもたもたしてて、怪しかった」
「おおきに金ちゃん!部活にはまた顔出すさかい、そん時テニスしよな!」
「ほんまか!?約束やで白石ーーーーっ!!!」

金ちゃんの低い声を背中で聞きながら、俺は急いで下駄箱に向かった。まさか彼女がおるバレンタインがこんなに辛いもんやとは思ってもみんかった。昨日(手作りやったらなんやろ…トリュフ、もしかしたら手の込んだなんとかショコラとかいうやつやったりして!)とか妄想しとった俺の夜はほんまなんやったんやろ。

下駄箱に行くと、金ちゃんの言うとおり怪しげな人影を見つけた。でもひとつやない、ふたつや。この時間帯は丁度こちら側は逆光で、相手の顔はよう見えへん。せやけどあの影は絶対、名前や。

「名前!」

名前を呼ぶと、びくりと肩を反射させて、ゆっくりと俺の方を向く。ついでに隣におる人も。

「くっ、蔵!?」

目をまん丸にして驚く名前の傍に行くと、もうひとつの人影の正体は、財前やと言うことがわかった。

「部長、久しぶりっす」
「おん、久しぶりやな財前〜、やなくて!なんで名前と財前が一緒におんねん!」

しかも今日に限って!とは言わずにぐっと飲み込む。財前は寒そうに鼻の上までマフラーをあげとって、名前の隣に何食わぬ顔で立っとった。え、ちょおこの状況説明してくれや。全然わからんのんやけど。

「今帰りっすか?」
「え?あ、おん」
「やって、名前さん。丁度よかったすね、ほな、俺はこれで」
「は!?」

元々言葉数少ない奴やけど、…せめてこの状況教えてくれてもええやろ財前!そう言おう思うたら、「財前くん、ほんまありがとう」と名前に遮られた。あ、ありがとうって何が!?俺の知らんとこで何二人で話進めて…っちゅーか財前と名前って全く接点なかったやん!

「ちょ、財前、待ちや!」
「は?…寒いんで短めにしてくださいよ」

可愛いくないのは相変わらずやな、とか思うてる時とちゃうわ。財前、なんでお前。

「なんで名前と一緒に?」
「…部長、男の嫉妬は見苦しいっすわ」
「お前ほんま可愛いくないな、質問に答えろや」
「じゃあ一気に言うんで聞き逃さんでくださいね。これ言うたら俺部活行くんで」

「え、ざ、財前くん言うん!?い、言わんでもええんちゃうかな!やってほら!ね!」
「名前さん、部長って結構めんどい性格してはるんで、ちゃんと説明せな追求してくると思いますよ」
「で、でも、わたしが悪かったんやし…!」
「俺も不注意やったからあいこっすわ」

えっ、え、ええ!?何でちょっとええ雰囲気なんやめろや!財前も普段あんま笑わへん癖に何名前に微笑みかけてんねん!めっちゃ大事な俺の彼女やで!

「先に言うてええ?」
「何です?」
「名前は絶対渡さへんで」
「…ぷっ、そんなんわかってますよ。先輩ほんまめんどいわあ。うける」
「…っ!」

こっ、いっ、つっ、はっほんまにぃいいぃ!いちいち人がイラッとするようなこと平気でしよるからな。ほんまあかんわもっと厳しく指導するべきやったかないつからこんな捻くれた子になったんやこの低血圧ピアス野郎!部活ん時はいつも謙也がおったから、一緒になって財前と弄りまくってたけど、謙也おらんかったら俺か!俺なんか!ほんっまムカつくわあ、何が『うける』やねん!なんもうけへんわボケ!

「もういろいろめんどいんで言いますけど、まず部長は名前さんからチョコもらえますから安心してええですよ」

いきなりその話題かいなんやねんもうこいつほんま嫌や…!色々言い返す隙もなく財前はペラペラと続きを話す。こいつがこんなに話すシーンとか、貴重すぎるんちゃうかな。

「名前さん今日チョコ忘れたらしいんすよ、まあ朝一緒に登校すんのに忘れるとかほんまドジっすけど。で、昼休みに取りに帰ったらしいんすわ。そんで急いで帰って来た時に廊下でぶつかってしもて。俺もよお見てなかったから」
「それでさっきおあいこって」
「そうっす。その時にわざわざ取りにまで帰ったチョコを派手に落としてしもて、中身みたらぐちゃぐちゃになっとって。なんや泣きそうな顔しとったから、そっから授業サボッてチョコ買いにいって、今帰ってきた所っちゅーことっすわ」

話がひと段落してから名前をちらりと見ると、申し訳なさそうに眉を下げてあわあわと慌てよる。ほんまドジやなあ、名前は。

「え、えと、蔵、あんな、ほんまは朝一番に渡そう思ててんけど、けど、冷蔵庫に入れっぱなしで忘れてしもて、あげくの果て、ぶつかってしもて、財前くんにも迷惑かけてしもたんやけどっ、でもっ、あの」

落ち着いて喋ったらええのに、名前の話ならなんぼでも待ったるのに、焦って早口になっとる名前はカミカミや。ちゅーか下駄箱におったってことは、もしかして俺のとこに入れて帰ろうとか思ってたんやろか?それは嬉しいようで、悲しいような。とにかく見つけられてよかったわ。

「これっ、手作りやなくて、ほんまにごめんなさい。う、受け取って、くれる?」

両手を前に突き出して頭を会釈程度に下げた名前の顔はリンゴみたいに赤くなっとる。これで、受け取りません、なんていう男がどこにおんねやろか。

「何言うてんねん、当たり前やろ。おおきに。めっちゃ嬉しい」

今までで一番、と付け足すと顔をあげてぱああっと笑顔になった。あー可愛いほんま可愛いどないしよ今日はもう俺んちに泊まるコースでいかがなもんやろか。…あれ、いやでも待てよ。俺は隣で気だるそうな目ェをしとるヤツを見た。こいつ自分もチョコもろたくせにそのチョコもう誰かにあげたんかな、やなくて。

「ぶつかって落としてしもたっちゅーチョコは、どうしたん?」

素朴な疑問をぶつけただけやった。せやけど、これは聞かん方がよかったかもしれん。

「あ、それは…」
「俺が食いました」

「は!?」

「なんかこの世の終わりみたいな顔しとったんで、仕方なく。味もまあまあでしたわ」
「えっ、ほんま!?や、やって財前くんあの時うまいって言うてくれてた…」
「あの状況でイマイチとか言えるわけないし、言うたらあんた絶対泣くやん」
「な、泣かんよ!」
「いや、絶対泣いてましたわ。あん時既に涙目やったやないですか」

いやいやいや、何を二人で俺を苛つかせる口論しとんねん。…え?は?なんて?名前の手作りバレンタインチョコ(初めての)を、財前、なんでお前が食しとんねん。普通それは彼氏の俺がぐしゃぐしゃになったヤツも全部食べて、「形とか関係あらへん、めっちゃ美味かったで」っちゅーて「蔵、だいすき」ってなる所やんか!それを…しかも!俺の名前が作った手作りバレンタインチョコ(初めての気合入ったやつ)をなんでイマイチとか言うねん円卓ショット顔面にぶちかましたろかこの阿保に!

「あれ、部長、なんかこめかみらへんがピクピクなってますけど」

大丈夫っすか?、全然大丈夫じゃないっすけど。お前の所為でたった今名前から貰うたばっかりのバレンタインチョコ(ちょっと高そうなんが逆に虚しい)を潰してしまいそうですけど。いや絶対潰さへんし大事に一人で食うけども!
明らかに財前のこの顔はわかってる顔や。俺が今悔しい思いをしとるのも、そうなるのをわかってわざと言うたんや。ほんっまに可愛いくない後輩は持つもんやないな!

いやでも俺も大人や。18にもなったし、17の財前には借りられへんAVなんかも俺は借りられる。(実際借りたことないけど)(名前おるし十分やし)免許も取ったしで、子どもの財前光くんとはちゃうんや。うん、よし。落ち着いてきた。彼氏の余裕っちゅーんを見せといたらなあかんな。それから名前には後で財前にはあんまり近づかんようによう言うとこ。ナチュラルに持っていかれそうで不安、とか、そんなんやないけど、一応。

「なんかすまんな、俺の名前に付き合ってもろて。せやけど珍しいなあ、お前が自分から人に付き合うなんてなあ。まあええわ、お前もいっぱいもろたんやろ?」
「いや、もうメンドいんで今年は全部断りました」
「…お前ほんま、相変わらず冷めたやっちゃなあ。まあええわ。ほな、部活頑張ってな」
「言われんでも」

可愛いくないなあ。そこが可愛いんやろか?いやいや、ないない。俺は靴に履き替えて名前の手を引いた。財前はすたすたと部活に向かっとる。財前もでかなったなあ。(俺よりは低いけど)

「あ、部長」
「ん?どないしてん、忘れもんか?」
「…あー、いや」
「「?」」

俺らのとこまでわざわざ戻ってきた財前に、俺と名前は思わず顔を見合わした。なんやろか。

「部活。…たまには顔出せって、金太郎が言うてましたよ」

少し恥ずかしそうに、マフラーを鼻まであげる仕草でそう言うて、「ほなまた」とまた歩き出す。
あいつも可愛いとこあるなあ、と嬉しくなった。やってそんなんわざわざ財前の口から言わんでもええことやし。明日にでも、謙也と顔出そかな。

「あっ、財前くん!」

その矢先名前が財前をでっかい声で呼ぶもんやから、ほっこりした気持ち台無しや。ざ、財前とはほんまに近づかせんようにせなあかんかもしれんな…。

振り返った財前に、「今日ほんまにありがとう!たすかりました!」とまたまたでっかい声で言うと、財前は少し笑って「部長と一緒に、顔だしに来てください」と名前にはやけに素直な返事を返した。なんやねんもう、喜んだらええんか、妬いたらええんかわからんわ。

名前の手を絡みとって、恋人繋ぎに変えたあと、俺らは止めとった足を動かした。


「名前、今日俺んち泊まり」
「えっ、い、いいん?」
「ええに決まってるやん。決まり」
「うん!」

お仕置きせなあかんしな、と聞こえへんような声でつぶやくと、「え?」と相槌を打たれて「なんでもないで」と笑顔で返す。

「おかん喜ぶでー。ちゅーか女三人全員かな」
「わ、ほんま?わたしもめっちゃ嬉しい。あと蔵のお母さんのつくるごはん、めっちゃすき」
「それおかんに言うたらあかんで、舞い上がって訳わからん創作料理作りだすから」
「え、そうなん?でもそれも食べてみたいなあ」







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