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クリスマスは約束した通り、二泊三日でイチャイチャラブラブランド旅行を決行した。(「な、名前長くない?」)(「ほな名前考えて?」)(「旅行に名前いるん?」)(「…い、いるやろ普通!」)

24日の東京はカップルや家族連れでいっぱいで、並んどった時間の方が多分長かったんちゃうかなて思う。(謙也やったら間違いなく死んでるわ)
それでも名前とおったら、もうめっちゃ楽しくて、時間が過ぎていくんが早すぎて、なんやこの旅行期間中だけ時間経つの早かったんちゃうかなって疑った。それくらい楽しくて、幸せやったっちゅーことやな。

旅行から帰ってからは、「遊んだ分、勉強せなあかん!」と名前はすぐに受験生に戻ってしまいよった。切り替え早いなあ。(そんなところも好きやけど)
俺は10月に推薦で大学に合格して、そっからはずっと名前の勉強を見たり、邪魔、せんように、色々我慢したり。…まあ我慢できん日もあるんやけど、名前もたまにはイチャイチャしたいみたいで、俺の我儘も欲も受け入れてくれる。ほんま、優しい子やで。

正月も過ぎて、いよいよ明日はセンター試験本番や。大阪は今日から明日にかけて雪が降るらしく、頼むから行くときに転けたり、すべったりせんとってな、名前。(「蔵!それは、き、禁句なんやで!」)



試験当日、朝早うにおかんに呼ばれて玄関に行ったら、名前と謙也が頬と鼻を赤くして「おはようさん、白石」「おはよう、蔵」と笑顔で挨拶してきた。え、何で二人でおるん。
俺は寝癖で格好悪い姿を名前に見られて、正直今すぐ歯ぁ磨いて着替えて髪セットしたいとこやけど、待たせるの嫌やし…ちゅーかなんで謙也おんねん。

「いや、なんかな、試験受ける前に、一回お前の聖書なる顔を拝んどこうかな思て」
「試験受ける前に、一回蔵にぎゅってしてもらえへんかな、って…」

いやいやいやいや名前はなんでそんな可愛いん!?いつでもぎゅってしたるよ?寝癖ついとる格好悪い俺でええなら!謙也ぁ、お前はいらんねん、キモいねん、何が聖書なる顔やさっさと走って会場行けや阿保。名前の隣は俺しか並ばれへんねんぞ、そこらへんわかっとってその場に存在しとるんか、おおん?

俺は返事も何もせんと、名前だけをぎゅううっと抱きしめたった。「えええ、白石、無視なん?なあ、なあ!」うるさいで謙也。静かにしとらんと今すぐその口にテニスボール入るほど詰め込んだる。(「い、いっこも入らへんて!」)

「頑張ってな、名前」
「ん、うん、頑張る」

冷たい名前の身体を出来るだけあっためてやりたくて、ぎゅうぎゅうと腕の力を強めたった。あー、俺も会場着いてったろかな。この流れやと名前は謙也と一緒に行くんやろうし…あかん、これから普通に学校あるやんか。…休んでもええやろか。

「お守り、もっとる?」
「うん!ばっちり!」

ポケットから、初詣の時に俺が買うたった合格祈願て書いてあるお守りを取り出して、ガッツポーズをかます名前。頼むからそれポケットにちゃんと入れときや。途中で落とすんやないで。あー、心配や!心配すぎて体捩れそうなんやけど!

「大丈夫、いっぱい頑張ったんやから、な?(そして俺も頑張った)(一回だけとか、我慢したり、ほんまよう頑張ったなあ俺)」
「う、ん」

「努力は、報われんねん」

その言葉に、俺の胸に顔を埋めとった名前が見上げた。謙也が少し微笑んで、「白石が言うと、説得力があるな」とようわからんことを言うた。「なんでやねん」と微笑して軽くあしらったら、「謙也くんの、言うとおりやで」とまさかの名前までそんなん言うとか。そ、そんなに説得力に長けたこと言うたんか、俺。

名前は俺から離れてしもて、謙也の隣に戻ってしもた。その絵面みてるだけで、胸の辺りがムカムカしてきよるわ。謙也お前ほんまなんやねん。(「な、なんでそんな睨むん?…白石?」)

「い、行ってきます!」

名前は口をへの字に曲げて、やる気をアピールしとる。だ、大丈夫かなあこの子。もうこうなったら癪やけど謙也に頼むしかない。…謙也も大分頼りないし、心配やけど。おらんよりマシやしな。(「おっ前俺の扱いひどすぎやろ!恨みでもあるんか!」)(「ある」)(「えっ」)

「…謙也、名前を無事会場まで連れてくんやで」
「おん、まかしとけや」
「ほんっまに、頼むで、謙也!」
「お前ほんま、名字のことんなったら過保護超えてんで」
「何やと?」
「なんでもないなんでもない」

「二人とも、頑張りや」

「お、おおお、緊張してきたああ」
「わ、わたしも!」

頑張ろうね、謙也くん!、やあらへんよ名前。「し、白石、笑顔黒いねんけど」「気のせいちゃう?」「(やっぱこいつ怖ああ…!)」
玄関からやけど、傘を差した二人を見送ることにして、俺は薄着のまま玄関の外へ出た。

「さ、寒くないん?」
「寒い。せやから、早う終わらして帰って、名前があっためてな?」
「…っ、し、知らんもん、そんなん!」
「お前ら…俺を忘れんといてくれや」
「「あ、ごめん」」

「ほな、行ってくるわ。名字のことは…あんま心配せんでも、大丈夫やと思うで」
「わかってるわそんなん。謙也も緊張しすぎて頭真っ白にせんようにしいや」
「だ、大丈夫やっちゅーねん!た、ぶん」

謙也の行く医学部はそれなりに難関らしいから、一応親友として心配してんねんで。もちろんそれは口に出すことはないけど。まあ二人とも、大丈夫やと思う。立海の柳クン、青学の乾クン、確率なんかなんぼでも変えられんねんで。努力次第でなんぼでも、な。

二人はもう一度ずつ「「行ってきます」」と告げて歩きだした。

「ちょい待ち」

俺の声に、名前だけが振り向いた。謙也はどうせ自分のことやない思てるんやろか。

「謙也、お前も」
「は?俺もかいな?」
「お前手袋どないしてん」

いつもしてるやつあるやろが、言うて聞いたら、「今日に限って忘れてしもた」「緊張して朝飯喉通らんかったしな」と苦笑い。用意周到に前日鞄の中にでもいれとったらええものを…。

「ちょお待っとけよ」

俺は名前を出来るだけ待たしたなくて、急いで家ん中に戻った。リビングのいつもの場所に置いてあるもんを手にとって、また外に出る。今日の最低気温一体何度やねん。寒すぎるやろ。

「謙也はこれして行き」

右手にもっとった手袋を謙也に手渡すと、「は?」と阿保みたいな声を出しよる。阿保みたいなっちゅーか、謙也は阿保なんやけど。
名前には、今しとるマフラーをするすると外してやって、俺のいつもしとるマフラーを巻いてやった。男もんやけど、まあ、男よけにもなるし、ええかなって思たんや。

「蔵?なんで、マフラー」
「俺のカシミアやから、あったかいで。それとな?」
「うん?」
「これもお守りにしたって」

後ろできゅ、と結んで、外気に触れてひんやり冷たなった名前の頭を撫でた。「マフラーは、俺が預かっとくさかい、気ぃつけてな」言うて、最後に腰を屈めて名前の頬にキスをした。

「おおきにな白石、遠慮なくこれ借りてくわ」
「ええよ。頑張ってこいや」
「言われんでも。ほなな」

「あ、ありがと、蔵。行ってきます」
「ん。これしか言えんのもどかしいけど、頑張ってな」
「それだけで十分頑張れるよ!」

終わったらメールする、言うて謙也と二人歩きだした名前に、「メールやなくて、電話して」言うたら、歩きながら振り返って「まかせてー!」と返ってきた。あーあーちゃんと前見て歩かな危ないで。…もうめっちゃ心配やねんけど、信じて俺は大人しゅう学校行こか。






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