08
 



「蔵、ここ、わからん」
「ん?…あぁ、これはな」

名前がウチに来てまだ30分も経ってへんのに、俺には早くも我慢の限界が来とる。名前はというと、一生懸命勉強しとる。俺からしたら、なんでそんな無防備やねんとか、なんでそないスカート短いん?ほんでなんでそんな足白くてマシュマロみたいに美味そうなん、とか、思うところはほんまに仰山ある。一人で悶々として妄想膨らまして、阿保みたいって思うかもしれんけど、仕方のないことなんや。名前が可愛いすぎるのがあかんねん。

わからんとこをわかりやすく説明したると、「おおきに、蔵」「頑張って次の解いてみるね」と天使の笑顔を向けてきよった。あかん、あかんて。名前は今から次の問題を…いやでもキスしてからでも次の問題は解けるし、キスだけなら、ええかな。
頭の中の妄想名前ちゃんは「ちょ、ちょっとだけ、やよ?」と必殺上目遣いを繰り出してきよって、俺は勝手に目の前の名前が承諾してくれたことにした。

「名前、」
「え?、っん」

簡単に俺に唇を奪われた名前はほんまにびっくりしたみたいで、名前の口内に舌を入れることなんて容易なことやった。くちゅ、と舌を絡めようとすると、静なりの抵抗なんか舌を引っ込めて逃げようとする。(逃がすわけ、ないやろ)

「や、やっ、ら…!」

っ、い、言えてへんし。ちゅーか「やら、」とかなんやそれ煽ってんのか…!?「も、もっと」にしか聞こえへん。ほんまなんでこの子はこんなに可愛いんやろか?

容易く名前の舌を捕えてからは、強う吸うたり、甘噛みしたり、あえて舌には触れず口内犯しまくったり、とにかく名前をその気にさそうと必死やった。俺の熱は下半身に集中しとって、すでにありえへんくらい勃ってもうとる。三日は抜いてへんから、濃いのが溜まっとるんやろなあ。そんな俺の濃い精液を名前の顔や身体にかけたり、「飲んで、っ、名前」「ふ、ぁい、っんん!」ちゅーて飲ませたり、したい。「蔵の、おいしい、」「っは、ぁ、もっと、ほし、い」とか言われたら多分それだけでもう一回イケるな、俺。
早くこの熱を、爆発させたい。早く、早く、お前がほしいねん、名前。

残念なことに、そう思うとるんは俺だけらしく、名前はぎゅうぎゅうと押しつけとる俺の身体を両手で押し返し始めた。そんな力でほんまに押し返せるとでも思ってるんやろか?この子は。
俺は逆にその場に名前を押し倒して、キスをしたまま上手いこと馬乗りになった。その間も名前は俺を「んんーっ、や、」と引き離そうと頑張っとる。キスだけでこんな風に抵抗されるなんや、初めてのことやったから、少し驚いた。ただな、名前。その行為は余計に俺を煽って、その気にさすだけやで。

『抵抗されると、燃えますよね』

以前部室でテニス部の連中と、男子トーク?なるものをした時に、財前がそんなこと言うた気がする。『あー、萌える方もありますけど』まさにその通りやと、思う。やって、ほんまにそれ全力なん?ちゃうやんなあ?ってくらい弱い力で押し返してきよるんやもん。ほんまは嫌やないんちゃうか、って思てまうで、こんなん。
閉じとった目ェを微かに開けると、とろんとした瞳に涙が溜まっとったんが見えた。頬はピンク通り越し赤く染まっとって、息遣いとかほんまに、エロい。この顔は世界中で俺しか知らんのんやと思たら、更に下半身の雄が大きくなったんがわかった。

ほんまに嫌やったら、唇噛みきるくらいのつもりで抵抗してくるやろうから、名前も案外その気になってんちゃうかなって思う。そんなエロい顔で、声で、「や、もっ、やや」とか言われても「可愛い、名前」てなるやで。
始めは、絶対今日はあかん、我慢するんや。と思っててんけどな。俺の意思が弱いせいか、名前が可愛いすぎるせいか。(ほぼ後者やわ)
一回で終われそうにもないし、もう名前ウチに泊まっていかへんかな。(女3人がめっちゃ名前のこと気にいってるさかい)(いつでもお泊りはOKやと思う)

しつこくキスをしとったら、段々と抵抗する力が弱なっていった。やっと観念してくれたんか。もうちょっと粘ってもよかったんにな。まあでも、あんまり嫌々言われんのも傷つくし、求められた方が嬉しいに決まっとる。(初めての時に名前は正真正銘のMやと発覚してしもたからな)
弱まった名前の腕を右手で一纏めにして拘束したったら、名前は「っや、蔵…!」と満更でもなさそうな声を出す。せやからそんなん逆に興奮するだけなんやって…!

「ええ子にせん子には、毒手、やで?」

金ちゃんに言う時とは全然ちゃう、甘い声でそう言うて、耳に、目尻に、ちゅ、と口付けをしながら、制服の中に手を入れた。(制服同士でヤった時はめっちゃ燃えたなあ)(なんや悪いことしてる気分になるし)
そのまま、キスを額に、頬に、とキスを続けながらブラのホックに手をかけたら、ビクッと反応して腕を振りほどこうとした。

「まだ、抵抗するん?」

一旦行為をストップして、いつもより低い声で問いかけた。いつもやったら、多少の抵抗はあっても、それは多分恥ずかしいからで(名前は照れ屋さんやからな)、こんないつまでも長いこと抵抗はせえへん。せやのに今日は、なんでやろか。

「や、って、く、蔵、勉強、教えてくれる、って」
「うん、今化学やったんやから、次は、保健体育の勉強、シよ」
「!?、な、なんっ、で」

なんでかって聞かれたらそら、名前に欲情してもうたからやで?
俺は行為を再開して、手をかけていたホックをはずした。したら、また抵抗しよる。ほんま、なんでなん。(こんだけされたらさすがに傷つくで、俺も)
一瞬、本気でムカついてしもて、つい両手を拘束しとる右手にギリッと力を込めてしもた。案の定名前は痛そうに顔を歪めた。

「や、っも、くら、やめて…!」

俺が欲しいのんは、そんな言葉やない。ちゃう、やんか。名前は、欲しい時に欲しい言葉を、くれるやん。俺が欲しいって言うてくれたら、全身で愛してあげんのに。

自分勝手な感情ばかりが集まり始めて、俺が俺やないみたいな気がした。名前の前ではいつだって俺は、かっこよくて、優しい、頼れる男でありたいんや。ただでさえ俺は名前のタイプとちゃうんやから、ずっと名前に好きでおってもらえるよう、愛してもらえるような男でおらんと。
そう、思うのに。冷静にそんなことも考えれんのに。目の前の名前は、俺をほんまに怖がっとる様子で、両手は完全に震えとって、瞳に溜まっとる涙は今にも溢れ落ちそうやった。
こんな、凶暴な気持ちで、あかん。抱いたらあかん、のに…!

「…すまん、止まらへん、っ」

理性とは裏腹に、更にぎりぎりと右手に力を込める。細すぎる手首はほんまに二本の腕の太さかと思うくらい細くて、あと少し力を込めたら、多分、簡単に折れてまうんやろう。
制服のシャツをたくし上げて、柔っこい胸を包み込んで、そのまま突起に噛み付いた。

「っ、ひ、や、もっ、ややぁ…!」

涙混じりのその声に、俺は突起から口を離した。ゆっくり顔をあげると、名前は涙をぼろぼろ零して泣いとった。

「っく、ふ、うっ、もうっや、だ」

な、んや?なんで、泣いとるん。なんで、ほんまに、これじゃあ。
拒絶、やんか。

右手の力を緩めると、名前は楽になった両手の甲で涙に濡れた顔を隠した。馬乗りになった俺は、上から退くこともせんと、ただただ泣いとる名前を見下ろすことしかできんかった。
最低なことをしてしもたんやと、漸く気付いた。遅い、やろか。遅い、やんな。名前の手首を見ると、俺の指の形がくっきりと赤く残っとって、その凶暴さが今になって目に見えた。

「名前、」

名前を呼べば、びくりと身体を震わして、涙に濡れた瞳を指の間から覗かせた。目ェは真っ赤になっとって、睫毛は濡れて束になっとって。恐る恐る手を伸ばして、その涙を拭ってやろうと手を伸ばしたら、「…い、やっ!」とその手を払われた。

ショックとか、そんなんやない。なんちゅーかもう、後悔の波で、溺れそうや。

煽ってるとか、そんなん、ちゃうかったやんか。無防備やからとか、そんなん理由にならへん。名前は俺が、勉強教えたる言うたから、ただ俺と一緒の大学行くために頑張らなあかんから、ここへ来て勉強するんやったんや。
それやのに俺は。俺は自分の理性に負けて、力で押さえつけて、一番やったらあかんて思うてたこと、してしもた。
盛りたい年頃や、とか、ほんま理由にならへんねん。一生、一緒におりたい、たった一人の俺の大事な大事な女の子やねんから。

「ご、め…蔵、わたし、か、える、ね」

名前、待って。俺、謝りたいねん。ちゃんと、謝らな、あかんやんか。
馬乗りになった俺から、名前はするりと器用に抜け出て荷物を纏めた。部屋のドアが閉まって少しして、家の門がカシャンと閉まる音がした。ほんまに帰ってしもた。

「な、にが、毒手や」

自嘲染みた笑いが込み上げてきた。俺は左手の包帯を外して、しばらく肌色をした自分の利き腕を見た。ふと机の上を見たら、シャーペンが一本転がっとって、包帯の取れた手にとって、みた。名前の、シャーペンや。
このシャーペンはいつも使うてるやつで、相方さんがランドのお土産にくれたんや、って嬉しそうに俺に見してくれたんをよう覚えとる。(ほんまに、嬉しそうな顔しとったから)(可愛いなって、そん時も思たんや)

俺はシャーペンを握り締めて、慌てて部屋を飛び出た。さっきみたいな凶暴な気持ちは、もうない。大丈夫や。
泣いとる名前を送りもせんと一人で返すとか、俺が、嫌やから。俺は靴の踵を踏んだまま、玄関の外へ出た。
右を見ても、左を見ても、名前の姿は見当たらん。そういえば名前はああ見えて足が速いんやった、とか呑気に思っとる場合やない。足なら俺も速いねんからな…!(さすがに謙也には適わんけど)

外は薄暗くて、すっかり日ぃが短くなったんやなあと、夏が終わったのを感じた。秋の匂いが鼻を掠めて、名前がめっちゃ恋しくなった。ぎゅう、てしたい。そんで、遠慮がちに、でも、俺のことが好きなんや、って全身で伝えるように、抱きしめ返してほしい。
走りながら、そういえば名前のやつ、乱れた制服とか直してへんかったよな、て変な心配まででてきて、走る速度をあげた。今なら浪速のスピードスター名乗れるんちゃうやろか。

なかなか名前の姿が見えんくて、もしかしたらこっちの道とちゃう方の道から帰ってんのとちゃうかなて思たら、今すぐ引き返したくなってしもた。あっかん、もう、どこやねん名前…!(携帯、家に忘れてしもとるし)(阿保か、俺)
走ってきた道の方を振り返ったら、夢中すぎて全然気ぃつかんかったけど、右側に公園があるんを見つけた。

少し遠くで見えにくいけど、俺は見つけたんや。
その公園のベンチで、未だに涙を流しとる名前を。

昔から、遠くにおっても、すぐに見つけられんねん。






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