05
 


【もうすぐ着く】
そうメールしてほんまにすぐ、着いてしもた、とうとう。表札には間違いなく"名字"と書かれとる。早く名前に会いたい、という気持ちももちろんある。けど、今日の俺はもう、どないして名前に触れたらいいんか、わからん。

とりあえずチャイム鳴らさな、と思って人差し指を出した瞬間、ガチャリと門の向こうのドアが開いた。

「は、はやいね」
「はは、さっき起きたん?寝癖ついとる」

予定時刻の11時より、20分も早う着いてしもた。やって家で一人で考えよったら、もうどうにかなってまいそうやったから。これでもゆっくりめに来たんやけどなあ。
俺から名前の家はそう遠くなくて、まあチャリで行ったら15分、歩いたらそれの倍以上かかるくらいの距離や。初めて名前の家に来た時「立派な家やなあ」と呟いた気がする。その数日後に名前が俺ん家に来た時、全く同じことを言うてたっけ。

門をあけてくれる名前の髪に触れて、寝癖をするりと手櫛でとかしたる。相変わらずさらさらやなあ。

「早起き、しすぎたら、二度寝してしもた」

悪びれる様子もなく、ふにゃりと笑う名前。そんな幸せそうな顔せんといて。ほんまに、我慢できんくなるで、俺。
「ささ、どうぞどうぞ、」と言う名前にくすくす笑いながら、俺はとうとう家に上がった。


名前の部屋に俺の荷物を置いてから、しばらく二人で他愛のない話とかして。韓国映画が好き、言うたら「お母さんがすきやから、いっぱいもってる!」と俺の手を引いてリビングに向かった。
そっから映画みながら、名前が作った昼飯食うて(オムライスやってんけど、卵がとろふわでめっちゃ美味かったんや!)、イチャイチャして、ゲームして(名前の兄ちゃんのらしい)、イチャイチャして。

夕方になって、「晩ご飯、何が食べたい?」と目を爛々に輝かせて聞いてくるから、咄嗟に好物の名前を出してしもた。「チーズリゾット」とかめっちゃ手間暇かかるし、面倒臭いやんなあ。せやけど名前は嬉しいそうに「よっしゃ、まかせたって!」と財布とエコバッグを持ち始めた。え、ど、どないしたんやこの子。どこいくつもりやろ。

「名前、どこ行くん?」
「え?材料、買いにいくんよ?」
「いや、え?やないやろ、え、俺と一緒に行ってくれへんの?」
「え、い、行ってくれるん?」
「なんで驚いてんねん、当たり前やろ、阿保」

ほんまにこの子は訳わからんわ。何勝手に一人で買い物行こうとしてんねんほんま変な所で遠慮しいなんやから。そんなところも可愛いけどな。

「財布もエコバッグも俺がもったるさかい、いこ」
「え、あ、うん」

空いた方の手を「ん、」と差し出すと、ふにゃりと笑って手を重ねてくれた。

「蔵ー、」
「ん?」
「すき」
「俺もや」

幸せや。こんなに幸せでいいんかってくらい、幸せやと思う。
休みの日に家で映画見て、名前が作った美味い飯食って、ゲームして、キスして、手ぇ繋いで買い物行って。

「そっちのちっさい袋も貸し」
「え!ええよ、大丈夫、蔵の方が重いんやから」
「ええから、な?」
「……あ、ありがとう」
「いえいえ」

名前との些細なやり取りが嬉しゅうて、ほんまに、幸せや。



「チーズリゾット、初めてつくった」
「め、めっちゃ美味そうなんやけど」
「蔵のお口に合いますよう」

そう言うて、名前も向かいの席に座った。四苦八苦しながら作ってくれた、名前の初めてつくったチーズリゾット。「「いただきます」」をして、一口食べたその味を、多分俺は一生忘れへん。

「美味すぎて、涙でそうや」
「えー、そんな大げさな…はむっ、…ほんまや!」
「ぶはっ、ははっ!さんまさん?」
「わからんけど、降りてきた」
「っふは、そうなんや。名前んとこにはさんまさん降りてくるんやな」
「んう、おいしいなあ、我ながら」

幸せそうにリゾットを口に頬張る名前は、もうほんまに、ほんまにほんまに可愛い。俺の好物を「わたしもチーズリゾットが好物上位にランクインしたかもしれへん、蔵!」と言うてくれる名前が、ほんまに。こんな可愛い子と付き合えて、しかもめっちゃ相思相愛とか、泣けてくるわ。
俺と同じように、名前もそんな風に思ってくれてんのやろか。名前は元々ブス専て言うてたし。…今でも俺の顔はタイプではないらしいねんけど。(ちょっと傷つくんやで)
先に食べ終わった俺は、「ごちそうさま、美味かったで」「後で一緒に皿洗いしよか」とまだ食べ終わってない名前に言う。ハムスターみたいにリゾットを頬張る名前は、ほんまに美味しそうに食うてて、見とるこっちが幸せになるんや。

「名前」
「んー?」
「俺んこと、好き?」
「めっはひゅき」
「ふは、飲み込んでから言うてや」
「ん、…だいすき」
「タイプとちゃうのに?」
「もう、またその話になるん?」
「やって、名前のタイプとちゃうんやろ?俺」
「タイプとは…ちゃうけど」


付き合い始めて、そういや名前はいつ俺んこと好きになってくれたんやろか、とふと疑問に思てしもて。一つ疑問が生まれたら、また一つ、また一つ、と疑問は増えていった。そしてそれはいつの間にか、疑問やなくて不安に変わっとることに気付いた。タイプじゃないのに、俺どこが好きなんやろか?どんな顔の男がタイプなんやろか?我ながらなかなか女々しいなと思って、考えるのをやめたんやけど、やっぱり気になってしもて。思い切って聞いてみてん。

『名前、』
『何?』
『俺の、どこが好き?俺、タイプとちゃうんやろ?』
『え、』
『一年の時言うてたやん』
『わたしそんなこと言うたん?』
『言うた。…なあ、俺のどこを、好きになってくれたん?』

帰り道、名前の手をぎゅっと握って、さり気無く聞いたつもりやってんけど。名前は、俺が思っとる不安とか、わかってくれたらしい。(変なとこで鋭いよな)

『ぜんぶ、すき』

そう言って、ぎゅうっと名前も強く手を握り返してきた。不安にならんでもええよ、って言うてくれてるみたいに、優しく。

『わたしは、確かに、B専て言われとるし、自分でも、そうなんかなって思う。でも、そんなことは、どうでもええことやねん。』
『どうでもいいん?』
『うん。やってわたしが蔵を見てきた時間はほんまやし、この気持ちも絶対、嘘なんかやない』


そして名前は今日もあの日と同じことを言うてくれた。俺の不安を、全部吹っ飛ばしてくれた言葉を。


「蔵がかっこよくたって、かっこよくなくたって、わたしは、蔵が、すき」

顔を赤くして、名前は最後の一口を食べ終えた。照れ隠しに「ごちそうさま」と小さな声で言うて、席を立つ。あかん、もう、可愛いすぎるで、名前。俺が嬉しくなるようなことばっか言うてくれて、欲しい時に欲しい言葉をくれる。これで今日二人っきりっちゅーんやから、ありえへんで、ほんま。我慢できるわけ、ないやんか。

皿を下げたあと、「お風呂、先使う?」と無意識に首を傾げてそんなことを言うてくる名前を、強引に腕の中に閉じ込めた。

「く、蔵?」
「すまん、名前、」

ばくばくと、心臓が落ち着いてくれる様子は全くあらへん。それどころか速くなる一方や。


「シたい」


後戻りなんて、でけへんし、したくもない。俺は、名前が欲しい。






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