04
 



暖かい春が過ぎて、暑い夏が来た。高校生活最後の夏や。
当たり前やけど、俺と名前の交際は順調に続いとる。喧嘩もないし、今日も絶頂にラブラブや。
付き合ってからすぐに、呼び名は名字さんから名前へとかわった。名前も、蔵って呼んでくれるようになったし。(時間はかかったんやけどな)

初めて名前を呼ばれた時、心臓が鷲掴みにされたようやったんを覚えとる。好きな子に名前呼ばれただけで、こんなんなるとか俺は知らんくて。俺は名前から"初めて"をたくさんもろたんや。
付き合って初めての俺の誕生日、は付き合った次の日やった。「俺今日、誕生日なんやで」「し、知ってる」とまさかのプレゼントをもろたときはほんまに驚いた。用意されとるとか思ってなくて、俺の妄想の中の名前は、「えっ、うそ、し、知らん」「…じゃあ、き、キス、あげる」とか言うててんけど。(結局俺からキスしたからええんやけどな)

付き合ってからの初めては、他にも仰山ある。初めて名前の家にお邪魔させてもろた時なんかむっちゃ緊張したし。(だって誰もおらんとか…名前の無防備さはちゃんと俺が躾したらなあかん)
逆に、俺の家に呼んだ時は、名前がむっちゃ緊張しとった。(可愛いかったなあ…)



この土日に、ウチの高校ではクラスマッチが行われた。何もこんな暑い時期にせんでも、と校長を恨むヤツも少なくはなかったけど、俺は別になんとも思てへんかった。真夏に外でテニスやっとるときに比べたら、こんなん全然大したことやない。
俺は謙也と二人でバレーに、名前はいつも一緒におる友達とバスケに出ることになっとった。(俺もバスケに変更したかってんけど)(気づいたら委員長決定してもうとった…)
クラスマッチで俺らのクラスはなんと優勝してしまい、日曜の夜、打ち上げをすることになった。


「蔵」
「ん?」

みんなでカラオケに来たんはええものの、名前はあんまり歌が得意やないらしく、俺の隣にちょこんと座っとる。手を繋ごうとすると、顔を真っ赤にして、「みっ、みんなおるからっ」と拒否。ええやん別に見せつけたれば。みんなもう俺らが付き合うてるの知ってんねんで。…まあしゃーないここは俺が我慢したろ。(名前の方みたら、あわあわしとってめっちゃ可愛い)

「あ、の、明日と、明後日、や、休み、やんか?」
「せやなあ。代休やし」

土日でクラスマッチが行われたため、明日から二日間、俺ら四天宝寺生は代休で休みや。部活もさすがにクラスマッチのすぐ後やさかい、ない。
せやから俺は普通に名前とデートするつもりやった。いつ誘おうかとは思ててんけど。もしかして。もしかして名前の方から誘てくれるんんかな?微妙に吃っとるんも、誘うん恥ずかしいから…とか?それやったら、ほんまに、めちゃくちゃ嬉しいんやけど。(もうなんか、相思相愛すぎて)

「蔵、部活、ある?」
「あらへんよ、なんで?」
「や、あの、その、な!」

名前の顔はみるみるうちに赤みをさしていって、ゆでダコみたいになっとる。ほんま見とって飽きひんなあ、この子は。

「お母さん、が、な?りょ、旅行行くねんて」
「うん」
「お、お父さんと」
「仲ええなあ」
「ん、せやねん。…や、なくて!」
「はは、ノリツッコミ」
「も、蔵、ちゃ、んと、聞いて」

不安そうに瞳をゆらゆらさせ始めたのを見て、俺は慌てて謝る。付き合う前から思っとったけど、名前は結構泣き虫さんや。多分やけど、俺が関係している時限定やから、それはめっちゃ嬉しい。(やって、愛されてるってことやろ?)

「あ、んな、寂しいねん」
「うん?」
「明日と、明後日、家に一人やから…せやから」

「うちに、泊まりに、きてもらえませんか」

「…っ、は!?」

あんまりにも名前のありえへん発言に、思わずでっかい声が出てしもた。幸いここはカラオケボックスで、俺よりも遥かにでっかい声で歌うヤツがおるから、誰一人俺の声に気づいてへんけど。(ちゅーか今歌ってんのって謙也やんか)(あいつノリノリやなしかし)

いや、ちゅーか、ちょお、待って。…は?え?泊まりに?俺が?静の家に!?あかんあかんあかん!そら脳内ではもう名前のこと犯しまくって「蔵、っ、もっかい、して」「や、っ、も、すき」とか妄想で自慰行為何回もしたことあるけど!え、なん?どういう意味かわかってんのかこの子。いやわかってへんやろな、絶対。普通に家に一人じゃ寂しいから、俺に一緒におって欲しいだけなんや。そういう意味で誘ったんとちゃう。でも、でも…!

「それ、どういう意味か、わかってんのか、お前」
「え?」

ああああ俺は何を聞いてんねんここは素直に「もちろん、名前の頼みなら行くに決まってるやん」とか爽やかに言うとけばええねん!いやでももし、万が一名前が意味をわかって誘ってくれてんねやったら、俺はホンマに謙也なんか比じゃないくらいのヘタレでショボい男や!(「誰がヘタレやっちゅーねん!」)

「や、待って、なんでもないわ。…ええんか?行っても」

ええんか?喰っても。…いやいやちゃうちゃう。あかん、ほんまにあかんて。喰わん自信とかあらへん。立海の柳クンに確率聞いたら、「白石が彼女を喰わない確率、0%」とお前は言う。いや何言うてんねん俺は阿保か!阿保やろ!
あっかん頭沸騰してきた。もうあかんわ。「これやから童貞は」とか財前に言われそうや。寧ろ言うてくれ財前んん…!

名前の前ではいつだって爽やかで優しい、かっこいい彼氏で居りたいのに、俺のペースを乱すんは全部この子や。(なんちゅー恐ろしい子なんや…!)

「わたしが、来てほしいんよ」

せやから、来て、と嬉しそうにはにかむ名前はほんま恐ろしい。可愛いすぎるやろ。これで行かん方がどうかしとるわな。

「じゃあ、………行く」
「や、やった!」

今の間の意味とか、全然わかってへんのやろなあ。「じゃあ明日11時に迎えに行く!」と、急に饒舌になった名前は訳のわからんことを言うてきた。「いや、俺もう家わかるで」「え、ほんま?記憶力ええなあ」「……名前、お前ほんま…」「え?」可愛いすぎるやろ!

「11時な。名前は大人しゅう待っとき」
「わかった」

楽しみに待ってる、と言葉を訂正する所がまたなんとも言えんくらい可愛い。
付き合ってもうすぐ三か月。俺的には大分我慢しとるつもりなんやけど、名前はいつもキスだけでいっぱいいっぱいってカンジや。そらいつかは通る道やけど、…どうなんやろ。考えれば考える程わからんくて、その日の打ち上げで俺が歌を歌うことはなかった。







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