付き合って一週間も経たねぇうちにデートに誘うとか、俺ってどんだけ肉食系?とか思われたりしてねぇかな。遅刻は多い方だけど(テニス部の中じゃ仁王先輩の次だな)、今日だけは自然に早く目が覚めたし、早く家を出て、待ち合わせ時間にはあと30分弱もある。流石にアイツもこんな早くには来てなくて、俺は携帯を何度もスライドしながら暇を潰して待つ。つーか今日寒ぃな!

アイツは今日もメガネに三つ編みなのかな。だとしたら相当笑えるし、逆にいつも通りで安心出来る。俺だけがアイツの視線を独り占めして、その逆もまた然りだ。今日のプランは大まかには昨日考えたけど、アイツが実はすっげー決断力持ってて、全然優柔不断じゃねぇ奴だったら、その時はアイツの行きたいとこ全部回ってやろうとか考えている。

「おっ、おまたせ…!」
「…え?」
「あの、ごめんなさい、待たせてっ」
「え、あの、すんません、人違いじゃないっスか?」

待ち合わせ時間までまだ20分以上はある。確かに待ち合わせ場所はここだけど、他にも待ち合わせをしている風貌の奴らはたくさんいるし、何よりこんな可愛い女は俺は知らねぇし見たことがねぇ。タメ、に見えなくもねぇけど、一般人離れしている、というか、画面越しで見たりするレベルだ。

「え、えぇ?人違い、なの?す、すいませんあの、き、切原赤也くんですよね…?」
「えっ、あー、ハイ」
「あの、わたし、ごめんなさい遅れて」

走ってくればよかった、と前髪を横に流す仕草をする女は、どうやら俺のことを知っているらしい。つーか、え?何、いや、マジで?ほんとかよ?

「名字!?」
「わっ、え!は、はいっ!」
「マジかよ!?」
「あっ、すいませんごめんなさいこんなの似合わないよね、うん、わかってる、わかってるんだけど」
「っちょー可愛い!!マジやばいってお前これ!メガネは!?」
「え…、あ、今日は、コンタクトにして」
「け、化粧?してんのか?」
「う、うん。やってもらって、髪も、少し巻いてくれて」

兄が美容関係の学校に行ってて、とはにかむ名字はまるで別人。つーか昨日の今日で変わりすぎてて整形でもしたんじゃねぇのってくらい見違える。劇的ビフォーアフターすぎだろ!

「お、俺こんないつも通りで来たんだけど」
「か、かっこいい、よ?」
「え?」
「あ、ごめ、えと、」

くわっと食いつくように俺に最高の褒め言葉をくれる名字は、どうやらマジで本物らしい。いつもの癖ですぐに俯いちまうのがその証拠だ。
元々素材はいいだろうなとは思ってたけど、まさかここまで変身するとは。俺丸井先輩に服借りりゃよかった…!

「前髪、分けた方が好きだな、俺」
「!」
「あー…でも、学校ではあのままでいてくんね?」

さりげなく、さりげなく名字の手をとって、軽くきゅ、と握る。名字は一瞬俺を見上げて、恥ずかしくて堪らなくなったのか一度頷いてまた俯いてしまった。(可愛いすぎて死ぬんだけど!)

それから「どっか行きたいとこあるか?」と聞いてみたけど、どうやら深読みした意味もなく「どこでもいいよ」と返された。だよな、優柔不断じゃねぇわけねーよな。繋いだ手は離さずに前日から練りに練ったプランを決行することした。

ボーリング行って飯食って、カラオケに行きたいって言ったら大分迷ってOKしてくれた。特別歌が上手いって訳じゃねーけど、声を聞いたことがなかった分、ずっとこの声を聞いていたいと思った。


カラオケを出た時には外は薄暗くて、名残惜しいけど「そろそろ帰るか、」と仕方なく切り出す。いやだ、なんて名字が言ってくれるはずなくて、俺達は駅に向かって歩き始めた。

「切原くん、歌すごい上手だね」
「そうか?」
「うん、…わたし、切原くんの声好きだよ」
「!」

初めて名字の口から好きだって言われた。色々意味は間違ってるかもしんねーけど、でも嬉しい。俺だって、お前の声に惹かれたんだよ。

「あ、あのさ!」
「…?」
「あそこ行かね?駅の近くにさ、でっけーツリーあるとこ」
「ツリー?」
「え、知らねぇ?あるじゃんあのでっけーツリー」
「知らない…けど、行きたい」
「うし!んじゃ行こう!」

別れを切り出した手前なんだよって思われてるかもしれねぇけど、俺はもう少し、もう少しだけ名字と一緒に居たかった。



「お!あれあれ!あれだよでっけーツリー!こっからでもめっちゃ光ってんな!」

そう言いつつツリーに早足で近づいていく。ツリーの真下には、カップルばっかり居て。俺達もちゃんとカップルに見えてっかなーとかちょっと不安になる。それにしても綺麗だ。好きな奴と一緒にみるとより一層。

「綺麗…」
「だろ?でけーしな」
「うん、ありがとう切原くん」
「お、おう!」

「おっ?赤也じゃん!」
「!?」

この声は、とおそるおそる振り向くと、やっぱり丸井先輩だ。ジャッカル先輩まで。こんなとこで男二人で何やってんだよこの人ら。つーか何でこのタイミング!?

「なになに、お前デートかよ?やるじゃん、付き合ってんの?」
「まっ、丸井先輩には関係ないじゃないっスか!」
「んだとてめー!よし!シメる!ジャッカルが!」
「俺かよ!?」

いつものやり取りはさて置き、とにかく帰ってくんねーかな。名字困ってるし、こいつは俺以外とは話せねぇから、そんなん丸井先輩に知られたら絶対何か茶々入れてくる。

「つーかお前、彼女めっちゃ可愛いじゃん!他校の子かよい?」
「い、いーじゃないスかどこの女でも!」
「口悪ぃなー、ジャッカルが聞いたら泣くぜ?」
「聞いてるけどな。ていうかブン太お前俺を何だと思ってんだよ」
「え?ジャッカルはジャッカルだろい?」
「はあ…」

頼む、頼むからもう帰って!お願いだから!
と念じていると、ぎゅう、と握っている手に力が込められた。名字…?

丸井先輩もジャッカル先輩もいい人だけど、名字にとっては怖いんだろうか。名字の心が読めるわけじゃねぇから本当のことはよくわかんねぇけど、俺もせっかく名字とツリー見に来たのに、この二人に邪魔されるのは御免だし。

「じゃあすいません、俺らもう行くんで」
「はあ?おいおいまだ何にも聞けてねーし」
「まあまあブン太、赤也は二人きりになりたいんだろうぜ」
「チッ、赤也の癖に」

聞こえてますけど丸井先輩!ていうかアンタこそ口悪いじゃないスか。

とにかくジャッカル先輩に感謝しつつ、俺達はそのままツリーを見おさめて帰ることにした。あーあ、邪魔さえ入らなけりゃもうちょい居たんだけどな。
それから名字を家まで送って行くことにした。もちろん最初は頑なに断られたけど、俺が何としてでも送る!っていう姿勢を見せたら名字が折れた。










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