意味わかんねぇ、って、ずっと思ってた。

喋ったことねぇから、声はもちろん聞いたことはないし、俺以外の奴と喋ってる所も見たことねぇ。教師に当てられたり、担任にすら話しかけられたりしないようで、休み時間はいつも一人だし、席は決まって四つ角の何処かだ。

淵なしの眼鏡に長い前髪、お約束のように三つ編みまでして、どこまで地味に生きてぇんだってカンジで。俺からすれば理解不能だし、見てて若干苛々する。
そんなに一人が好きなんだろうか?そんな奴がこの世に居るんだろうか?


意味わかんねぇ。

一年の時からそれはずっと思っていて、二年生になっても俺は未だに名字の声を聞いたことがねぇ。
多分、俺だけに限らず、みんな無ぇんだと思うけど。
俺は明るい人が好みだし、あんな一緒にいて楽しみを微塵も感じられない奴に恋人なんて出来る訳がねぇ。明るさとは極端な位置に居る名字のことを好きになる奴なんて居るんだろうか。マジで疑問に思うところだ。

そう、思っていた。
今でも、そう、思っているのに。

気付けば、俺の視界にはいつも名字がいる。
それはアイツが俺の周りをウロチョロしてるとか、全くそういうのじゃなくて。アイツの声が聴きたい。アイツがどういう奴なのか知りたい。そう思うと勝手に目が名字を追いかけちまう。興味はどんどん湧くばかりで、俺はとうとう今日、アクションを起こした。


「なあ」
「…!」

出来るだけ、出来るだけ怖がらせないよう、真正面に立ち、そっと机に手を追いた。つもりだった。俺にとっては、そっと、だったけど、コイツにとってはそうじゃなかったらしく、びくりと身体を震わせた。

「俺の名前わかる?」
「……」

顔を上げることなく、名字は一度、こくり、と頷いた。もしかして喋れねぇのか?そう思ったりもしたけど、耳が聴こえねぇわけじゃなさそうだし。

「アンタ、なんで喋んねぇの?俺、アンタと二年間クラス一緒で一回もお前の声聞いたことねぇんだけど」
「………」

我ながら少し強く言い過ぎたか、と反省しかけたが、名字が唇を開きかけたもんだから、息を呑んでじっと待った。ゆっくりでいい。俺は、お前の声が、聞きたいだけなんだ。

「…………き…切原、赤也、くん」


どくり。

心臓から全身に一気に血が送られる感覚。先程までの動きとは比べものにもならねぇ、凄まじい速さで心臓が動き出す。
な、んだよ。
そんなに、綺麗な、透き通った声で、いきなり、名前呼ぶとか…!反則だろ…!!

残念なのは名字の視線が未だ下げられたままだということくらいだけど、この際それはどうでもいいや。
なんでコイツ、こんな綺麗な声なのに、喋らねぇんだよ。声優目指してるとか?いやいやそれとこれは全く関係ねぇよな。あー、くそっ。とりあえず心臓落ち着けよ!

「わ、たし、自分の声、嫌いで」
「えぇっ!?なんで…ってなんで俺の心読むんだよ!?」

幸村部長の親戚か何かか!?一歩後ずさってそう言うと、名字は俯いていた顔を初めて上げて、ガラス玉のようなでっけー目をぱちくりと瞬かせた。

あー、やべぇ。どうしよう。
なんで今まで話しかけなかったんだ。俺も、周りも。

こんなに、可愛いなんて。

「反則だろ…」
「…?」

「あのさ」

まだ少し警戒しているのか、名字は表情を強張らせたまま俺を見る。ついさっきまでは、顔も上げてくれなかったんだから、この短時間で俺はよくやったと思う。そして俺は、たった今気付いた。なんで俺の視界に、いつも名字がいるのか。喋らねぇし、孤立してるし、ただの興味本位だって、思ってたけど。

けど、違った。

俺、
俺は。

「アンタのこと、好きかもしんねぇ」

だから、俺と付き合って。


10分休憩にする話じゃねぇことに、チャイムが鳴ってから気付いた。(めちゃくちゃ注目浴びてんじゃねーか!)

女子がざわざわと騒ぎ立て始める。あんま大声出すなよ恥ずかしいだろ!
野郎共はというと、「切原マジかよ!」とか、「シュミ悪ぃ!」とかニヤニヤしながら席に着き始めている。至ってマジだし、シュミも悪くねぇと思う。お前らコイツの声聴いたことあんのかよ。顔だって別に髪型変えて眼鏡とったら絶対可愛いし。(そのへんの女子なんかより全然)

「へ、返事、いつでもいいからよ」

この空気でフラれるのもうまくいくのも嫌だった俺は、チャイムに従って席に戻った。チラリと名字の方を見ると、耳まで真っ赤にして俯いていた。(やばい、マジで可愛いんだけど!)










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