俺は二週間の停学処分を食らった。停学自体は別にどうってことねぇけど、何が恐ろしいかってそりゃあ…!

『女の子ボコボコにして停学って、野生のゴリラじゃないんだからさあ』
「そ、その通りっス…」
『しかもその子達って俺らの学年だろ?まああんまりいい噂は聞かない子達だったみたいだけど。そんなの相手にしないよ普通。お前バカなの?部活はどうするつもり?』
「ど、どうって、俺だって出たいっスけど…」
『真田なんかめちゃくちゃ怒ってるよ。あー二週間後が楽しみだなあ』

アンタが一番怖ぇよ!とはもちろん言えずに、電話の向こうで終始笑っているであろう部長に「き、筋トレだけはやっときます…」と苦笑いで返した。

俺も停学処分や名字のことで結構落ち込んでたから、こうして幸村部長と話している時間は気が紛れて正直助かる。

『ちゃんと反省するんだよ。赤也がいないと寂しいから』
「…ぶ、部長…!」
『ってジャッカルが言ってた』
「ジャッカル先輩かよ!!」

あはは、と電話の向こうから聞こえる部長の笑い声につられて俺も笑えてきた。「それじゃ、ちゃんと筋トレしておくんだよ」とだけ残して、部長は電話を切った。なんか急にやる気出てきたし、今から片腕立て伏せでもやっかな!

いち、に、と自分の部屋で腕立てを始めてすぐに、バン!と扉が開いた。突然のことに腕から力が抜けてずるっとフローリングで顎を打った。

「っな、なんだよ!ノックくらいしろよな!」
「赤也、お友達だよ。下降りて来な」

なんで今日姉ちゃん休みなわけ?創立記念日ってなんだよ、俺らの学校にはんなもんねぇぞ。

渋々立ち上がって、部屋着のまま階段を降りる。「しゃきっとしな!ただでさえ目付き悪いんだからアンタは」ケツを足でシバかれて危うく階段から転げ落ちる所だ。この女マジでいつか殺してやる!

「誰だよ友達って」
「あたしは初めて見る子だったわよー。それよりさ、また仁王君連れて来てよ。姉ちゃんあの子超タイプ!」
「うるせーな知るかよ」

姉ちゃんを軽くあしらって靴下のままサンダルに足を通す。
玄関扉を乱暴に開けると、ガンッ!てすげぇ音がした。俺より背の低い友達とやらが「うぅ…!」と痛そうに唸る。俺のまわりにおさげの女なんて一人しかいねぇし…!

「っ名字!?」
「…!」

痛みで声も出ねぇのか、額に両手を当てたまま俺を見上げる。慌てて謝って額に触れようとしたけどやめた。そうだ、こいつは俺を怖いと思ってる。何しに来たのか知らねぇけど、正直今は会いたくねぇし、何話していいかもわかんねぇ。

「…何?」
「…っあ、えと、こ、これ、切原くんの、分」

おろおろと鞄から慌てて何かを出そうとした拍子に、名字はその場に鞄の中身をごっそりぶちまけた。

「あーあ、ったく何やってんだよ」
「ご、ごめ、」

拾うのを手伝ってやり、最後の一冊を「ほらよ」と目を合わさないで渡す。なかなか受け取らない名字に痺れを切らして「いらねぇの!?」と強めに言うと、びくりと身体を震わせて俺を見た。これじゃあ付き合う前と一緒、いやそれ以下だ。

「そ、それ、切原くんに…」
「はっ?俺?」
「今日の、授業の分…」

ぱら、と適当にページを開くと、綺麗な字で各教科ごとに纏められてある。
俺、元々ノートとかあんまとってねぇんだけど…!とはここでは言えないが、あんなことがあった後なのに、俺のためにこうやってノートをとってくれて、さしかもわざわざそれを届けに来てくれるなんて。
素直にありがとうとだけ礼を言った。首をふるふる横に降って、名字はレンズ越しに俺を見つめる。

「…目、もう赤くないね」
「あ、ああ、あれは…その、ごめん、怖かったよな」

うんともすんとも言わず、縦にも横にも首を振らない名字。俺の身体や目が赤くなった理由を顔色を伺いながら話す。玄関で話すことじゃねぇかもしれねーけど、名字は俺の話をただ黙って聞いてくれた。

「…名字は、大丈夫だったのか?」
「?」
「その、ケガとか、あいつらに色々されたんだろ?」
「な、治ったから、大丈夫」
「…そっか!」

多くは語ろうとしない名字に、俺はそれ以上何も聞かねぇことにした。

しばし沈黙が続いて、空気に耐えられなくなった俺は「じゃあ、また」とぎこちなく別れの挨拶を告げて、玄関扉を閉めかける。

「あっ…」

待って、と言われて思わず手を止めた。

「…何?」

部屋着だし、頭もいつも以上にボサボサだし、ぶっちゃけ今日はもう帰ってほしい。ノートは嬉しいし、あの出来事の後で、こうして普通に喋れてよかったけど…。

「……っあの、あのとき、助けに来てくれたのに、その、やっぱり少し怖くて、…あんな切原くん見るの、初めてだったから、なんだか別の人みたいに思えて…、でも、わたしは切原くんのことっ…」

さっきまで大人しかった心臓が、急にどきどきと活発に動く。

「……す、すごく尊敬してるから…!」

「はっ?」

ぴし、と空気が固まる。え、なんで?なんで尊敬?今のは完全に好きって言ってもらえる空気だったよな?それがなんで尊敬?いや、嬉しいけど、そういうのは後輩とかに言われた方が嬉しいんだけど。

名字の表情は至って真面目で、何かまずいことでも言っちゃったかな?と不安そうに俺を見つめる。くっそ可愛いなこの野郎!!

「や、うん、サンキューな。嬉しい」

そう言うと安堵したのか、胸に手を当てて小さく息を吐いた。さっきの尊敬してます宣言は、やはりこいつにとっては相当勇気の要る発言だったに違いねぇ。

「あの、き、切原くん」
「ん?」
「ずっと、言えてなかったんだけど、今、言うね」
「…?、うん、何?」

笑わないでね、と緊張で強ばった笑顔をみせる名字に、今度は期待しすぎないように聞こうと、俺は落ち着いた心持ちで名字の伝えたいこととやらを待った。









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