斎藤とのことがあったのが一週間前。

突然だが、名字がいなくなった。

三時間目までは確かにいた。あいつが何かされたりしねぇようにいつも気にかけてるし、呼出し食らったときは俺も一緒に着いて行くようにもしている。

四時間目は体育だった。女子は体育館でバスケ、男子はグラウンドでサッカーだったから、三時間目以降あいつの姿は見てねぇ。昼飯一緒に食おうと思って戻って来るのを、もうかれこれ10分は待ってる。

何かあったんじゃ…!

こうしちゃいられねぇと俺は席を立つ。腹も減ってイライラしてる時によ…、もしあいつの身に何かあったら全員血祭りにあげてやる。

教室を飛び出して、思い当たる場所をひとつひとつ回って行く。各階の女子トイレ、屋上、人気のない資料室や準備室。途中丸井先輩に仁王先輩、真田副部長に遭遇したんでついでにメガネでおさげの女を見なかったかと聞いてみたけど、そんなん見てるわけねぇよな、この人達が。

「っちくしょ、どこ行ったんだよ…!」

あっちこっち走り回ったせいで冬だってのに汗だくだ。体力は有り余ってっけど、こうも見つからねぇと嫌気が差してくる。

「あっ、おい赤也!」
「…?、ジャッカル先輩!」
「よかった、お前探したぜ、教室にいねぇから」
「すんません今俺ちょっと急いでて!」

後にしてくんねぇスか、とそのままジャッカル先輩に背を向けようとすると、ガッと肩を捕まれた。

「っ何スか!?」
「いや、気のせいだったかもしれねぇんだが…、お前とこの前一緒にいた女の子、あの子って普段メガネかけてるか?」
「え…、かっ、かけてます!んで、おさげで、ちょっと暗い感じの…!」
「なら多分そうだ、さっき俺らの隣のクラスの女子と一緒に体育倉庫の方行ってたから、なんかヤベェんじゃねーかと思って」
「っ!サンキュージャッカル先輩!俺行ってみるっス!!」
「悪魔化だけはすんなよ!」

流石ジャッカル先輩!ブラジル人の血が流れてるだけあるぜ。野生の勘ってヤツだな。

全速力で走って、体育倉庫へ向かう。あいつが呼出されちまったら絶対ボコボコにされちまう。こうなったら先輩も後輩関係ねぇ。女だろうがマジでぶん殴ってやる。

「名字!」

倉庫には当然鍵がかかっていて、中からは女の声が聞こえる。「ヤバイよ、誰か来た!」「今日はこの辺にしとく?」「逃げよ!」という声が中から聞こえてくる。血管が一本切れそうになるのを堪えながら、他に入口はねぇかと倉庫の周りをぐるっと回って確かめる。

小窓は見つけたけどあんな小せぇ所に身体が通るとは思えねぇ。引っかかるなんてダサいシチュエーションはマジで御免だし…やっぱ正面突破しかねぇな。

中から声が聞こえてこなくなった。まだいるだろうか。つーかマジでこんな所でイジメなんか起こるのかよ?わざわざ俺の目が届かねぇ時間帯を狙って…やべマジで血管切れそう。

脅かしついでに試しにガンッと思い切り扉を蹴ってみる。中からは複数悲鳴が聞こえてきて、人が確実にいることを知らせてくれた。今のでなんとなくわかった、この扉はあと2、3回でぶち壊せる。

ガン!ともう一蹴り、そしてもう一度、、思い切り右足で扉を蹴ると、ガッ、と扉がずれたのがわかった。最初は怒りに飲み込まれねぇように出来てたけど、段々とそれが快感に変わっていく。

最後にもう一度扉を蹴ると、扉は見事に倒れて薄暗い中に光が射した。

「あっ、赤也くん…!」
「違うの!これはコイツがっ、」

名字を見つけた。5人がかりで一体どんなことをされたのかなんて想像もしたくねぇけど、確かに名字がそこに横たわっている。身体は汚れや埃まみれで、俺にバレねぇようにするためか、顔こそ綺麗なままだが…見えねぇ部分をやったんだ。絶対そうだ。

「楽しかったかよ?」
「ちが、本当に…そういうつもりじゃなかったの…!」
「だって赤也くんに全然似合ってないよ!?こんな地味な子、全然…、」

うるせぇよ。どいつもこいつも、俺が惚れた女に何でケチつけられなきゃなんねぇんだ?

身体が熱くなる。ヤバい、だめだ、やめろ。頭では分かっていても止まらねぇ。目にかかる髪が黒から白へと変わる。

「ぶっ殺す!」

名字が見ている。そんなことは分かっていた。分かっていたけど止められなかった。女の悲鳴も、その辺の物が壊れる音も、全てが遠くの方で聞こえている感じがした。


相手が女だということも忘れて、俺は本当にめちゃくちゃに暴れた。最初から最後まで自分でもよくわかってなくて、誰も止めてくれる人はいなかったし、名字すらも、怯えた瞳で俺を見る。

「っあ、違、違う名字、俺、お前が酷い目に合ってるって聞いて、それで、」

言い訳染みた言葉を並べてみても、名字はかたかたと肩を震わせているだけで、何も言ってくれねぇ。

「名字、」

傍に寄って、触れようとすれば、びくりと身体を強張らせて、必死に身を守ろうとする。

別に何も、しねぇよ。

空を切った手を、静かに下ろした。最悪なことに、女の悲鳴や物音を偶然聞きつけてやってきた教師が、俺を取り押さえた。もう何もしねぇって、どいつもこいつも、何なんだよ。

汚ねぇ物でも見るみてぇに、俺を見やがって。

暴力はだめだ。悪いことだ。そんなことは分かっている。だけどそれでもコイツらだけは許せなかった。壊すつもりでやった。まさか名字との関係まで壊れることになるとは、思ってなかったけど。

「今すぐ職員室だ!早く来い!」
「るせぇな、自分で歩くから離せよ」

「あ…」

何か言おうとする名字の声が聞きたくて、一瞬足を止めて振りかえる。何か言いてぇみたいだが、もうだめだ。俺には、届かねぇよ。









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