「名字さんに、話があるんだけど」

てめーは朝礼サボって何してやがんだ。まあ俺らもだけど。(サボる気は全くなかった)
別の意味でも目を光らせといた方がよかったのか。いやだって、こいつの存在、名前すら知らない奴の方が多いはずだ。俺だってつい先日まで声すら聞いたことなかったし。一撃でやられたけど。

そっち方面の心配は全然してなかった。しかもよりによってなんでこのイケメンなんだよ。他の野郎ならまだ俺だって堂々と、俺の女に手ぇ出すな!とか言えたのによ。

名字はというと当然俯いて黙り込んだままだ。ほんの少し俺の身体を盾にしてくれたりなんかして、ちょっと安心する。そうだ、俺と名字は付き合ってんだ。相手が誰だろうと堂々と、胸張ってりゃいい。

「悪ぃけど、俺とコイツ付き合ってっから。告るとかそういうの、俺が嫌だから無理。諦めろ」
「名字さんに話かけてんだけど」

爽やかな顔してムカつく野郎だ。無償にイラッときた。
付き合ってるっつってんだろ。大人しく引けよ。あれか?顔に自信があるから俺から奪えるとか思ってんのか?だとしたらマジで腹立つ!
会話すらしたことねぇお前に、コイツの何がわかるんだよ。俺はお前なんかよりずっと、ずっと名字のことが好きだ。じゃなきゃ毎日毎日ボディーガードみてーなことしねぇし、出来ねぇ。

「じゃあいいや、もうここで言わせてもらうよ。いっそ切原にも聞いてもらった方が宣戦布告になるしな」
「…言ってくれるじゃねぇか。言えよ、ダセェ告白聞いててやっから」
「名字さんに聞いててもらわなきゃ意味ないけどな」

ごちゃごちゃうるせー奴だな!ねちねちうぜぇよ!早く告って即行フラらろお前なんか!

「…俺と小学校から一緒なのは、知ってる、よな?」

そいつの質問に、名字はこくんと頷く。
てか、え?お前らそうなのか?俺より全然早く出会ってんじゃん。うわムカつく!…でもまあ先に告ったのは俺だし、な。うん、今付き合ってんのも俺だし。完全に俺が100歩以上リードしてる。

「俺の名前、覚えてる?」
「……斎藤、龍、くん」
「…うん、昔と変わってないな、声」
「……」

名字が俺を盾にするのをやめた。な、んだ、これちょっとやべーんじゃね?何こいつらのこの空気。小学校からずっと好きだったとかマジでどうでもいい!つーか俺的に今までずっと片思いとかしてた斎藤がかなりキモい!ぐずぐずしてっから俺にとられたんだろうがバーカ!

「ずっと好きだった」
「…」
「今すぐ返事が欲しいとは言わない。けど、考えてみてほしい」

そう言った斎藤に対して、名字は首をふるふると左右に振った。
俺は本当に斎藤の告白を聞いていることしか出来なくて、口を挟むなんて野暮だけどやろうと思えば阻止だって出来た。でも、名字が俺に隠れるのをやめたから、何も言えなかった。胸が痛ぇ。


「あの、斎藤くん、」
「…?」
「ごめんなさい、どんなに考えても、きっと答えは変わらないから…、今も、これからも一緒、だから」

さっきまで俺を盾にしていたはずの名字は、今度は俺を庇うみたいに少しだけ前に立つ。震える声で、それでも透き通ったその声で、名字は一生懸命胸の内を話す。

「気持ち、すごく嬉しいし、その、嫌いとかそういうのじゃ全然なくて、でも、わたしは…!」
「…うん、わかった。ごめん、俺が言いたかっただけ。勇気出すのが遅かったんだよな、俺はさ」
「…?」
「だって普通に悔しいだろ?小学校からずっと好きだった子がさ、こんな奴にあっさりとられて」
「おい、こんな奴って俺のことかよ」
「他に誰がいるんだよ。俺の片想い歴ナメんなよ」
「その顔で一途とか気持ち悪ぃんだよ」
「うっせーよお前もだろーが」

コイツとは仲良くなれそうにはねぇな、と思っていたら、「二人、仲良くなれそうだね」と名字は笑ってそう言った。どこをどう見たらそう見えんのかマジで意味不明だけど、名字の笑った顔みたら、自然と心が穏やかになる。それは斎藤も同じらしく、いつの間にか空気自体が穏やかなものへと変わっていた。

名字が初めて俺の前に出るところを見た気がする。相手に強く来られたら、自分の気持ちなんて言えねぇ奴だと勝手に思ってたけど、意外とそうじゃねーのかな。まだまだ知らない一面が、斎藤よりもいっぱいあるのかも、とか思ったらやっぱり俺はイライラしてしまった。








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