「恋やな」
「宍戸が恋かあ…」
「何だよ、何ニヤニヤしてんだよ」
「そらニヤニヤもするやろ。今までずっとテニス一筋だったヤツが恋て」
「やったな宍戸」
「いや、やったなも何も」

俺自信まだ恋って自覚してねーんだけど。
ハードな部活終了後、部室で着替えを済ませた忍足と岳人に思いきって名字のことを相談してみた。ら、即刻俺のこの気持ちは"恋"だと断定された。悩む素振りなんてひとつも見せずに。

「しっかしいきなり何の相談かと思えば、隣の席の女子の頭に天使の輪が見えるんだけどどう思う?って完全に頭イッてんちゃうかと思たわ」
「正直引いたぜ」
「うっ、うるせーなあ!お前らもみてみりゃわかるって、絶対!」
「わかりたくないんやけど」
「どーかん」

聞き方間違えたと後悔しながらも、一応話は聞いてくれた。岳人はまあ置いといて、恋愛経験豊富そうな忍足ならきっと俺の気持ちを少しは理解してくれるだろう。

「ど、どうしたらいいんだ?」
「はぁ?そんなん勝手に告ったらええやん」
「いやいやいや無理だろ、無理無理!早っ。え、お前そんなすぐ告るのか?」
「俺が告ったことあると思うんか?」
「「………」」

なんつープレイボーイ発言だ。ある意味相談するヤツを間違えたかもしれない。かと言ってテニス部で他に相談できるヤツなんていねえんだよな。告ったらいいとアドバイスされても、当然それは却下なワケで、俺は更に頭を抱えることになった。

「ええやん、名字さん。なんや裏の顔ありそうやけど」
「だよな!?お前もそう思うだろ!?俺もそう思ってたんだよ!」
「おぉ…どないしたんや急に。落ち着けや」
「俺もあんないかにも作ってます、みたいなヤツ苦手だったんだよ。でもアイツ多分アレが素っぽいんだよなぁ」
「俺には裏表なさそうに見えっけどな」
「岳人は黙ってろ」
「なんだよお前が相談持ちかけて来たんだろ!」
「あれが素なんやったら、そら犯罪やな。重罪やで。男泣かせの代名詞やないか」

俺の思ったことと似たようなことを言う忍足は、少々呆れ顔だ。男泣かせか…。


「まあ大変やろうけど、それなりに応援してんで。がんば」
「がんば」
「お前ら絶対どうでもいいと思ってんだろ…!」

もういい、もう誰にも相談しねえ!「お前も顔はイケメンなんやから、自信持ちや」なんてそんな欲しくない言葉までくれやがって。俺は素早く荷物を纏めて部室を後にした。マジでもう誰にも相談しねぇ。

校門まで歩いたところで、教室に明日提出する課題を忘れたことに気付いた。明日朝やればいいか、とも思ったけど朝練はしときたいし、やっぱり今日家でやるべきだよな。

踵を返して急いで取りに戻ると、教室に#na me2#が残っていた。さ、最悪だ…!


「ま、まだ残ってんのか?」
「え?うん、明日ね、料理部でオリジナルケーキつくるの。それでその案をずっと考えてて…、でももう帰らなきゃだね。わ、外真っ暗」

独り言の多い奴だな、と思いながら心臓に沈まれと声をかける。なんで居んだよ。なんでそんなふわふわした笑顔でこっち見んだよ。

「宍戸くんはどうしたの?」
「…明日の課題持って帰るの忘れたから取りに来ただけ」
「…そっか、あっ、明日の課題わたしも忘れないように鞄に入れとこうかな」

いそいそと机の中から課題を取り出して鞄に入れる。相変わらず抜けてるっつーか、スローペースっつーか。…苦手な、はずなのにな。

「じゃあな、また明日」
「えっ、あっ、うん、…また明日ね」
「……………」

なんでそんな寂しそうな顔をされなくちゃならねんだ。俺は帰るんだ、帰って筋トレとかで忙しいんだ。

「………し、宍戸くん?」
「………」

「ドア、こっちじゃないよ?」
「知ってる」
「じゃあなんで」
「…送る」
「え?」
「なんでお前は一回で聞き取れねーんだよ、送ってやるって言ってんだろ!」
「えぇっ、なんで、いいよ悪いし!そしてなんで怒ってるの!?」
「怒ってねーよ!はやくそれ書いて帰るぞ」
「な、なかなか強引だね… 、でもありがとう。一人じゃ怖いから助かる」

夜道が怖いとか何歳だよコイツどこまでか弱い女子なんだ。そんでそんなはにかみ笑顔で俺を見るな。心臓落ち着け。ノートにいかにも女の子って感じの字でケーキに使う材料らしきものを書いていく名字。無言だと余計に意識してしまう。何か別のこと考えろ。今日の筋トレはすげーハードなヤツにしよう。コイツが悪魔に見えるようになるくらいすげーハードなヤツに。
まず腕立て500はしねえとな、とか考えているうちに、書き終わったのか、鞄の中にノートをしまって席を立った。い、いきなり立ちやがって、びっくりしたじゃねーか。

「ごめんね、終わったから、帰ろう?」
「お、おう…」

帰ろう?なんて、まるで彼女みたいな台詞に不覚にもときめいた。忍足の言う通り重罪だなマジで。
校門を出てから、しばらく二人きりなんだと気付いて意識しまくったが、なんとかして平静を装った。無言が続くのはなんかアレだし、頭の中の引き出しから必死に話題を探し出す。

「…ケーキ、いいのできそうか?」
「うん、なんかね、宍戸くんが来てからアイディアがぽんぽんでてきたんだよ。あ、これほんとだよ?」
「いや、まだ嘘だろとか言ってねーよ」
「や、だってよくわたしの言うこと胡散臭いって言われるから」
「ちょっとわかる気はする」
「ひどい!」
「ははっ、冗談だよ」
「もう…」

ふんわり笑う名字につられて、俺も自然と笑った。


「宍戸くん家どっち?」
「俺こっち」
「あ、じゃあ逆だからここでいいよ」
「暗いのダメなんだろ?」
「や、悪いから…」
「いいから。危ねーし」
「…あ、ありがとう」
「おう」

照れ隠しに空を見上げれば、ひとつだけ星がでていた。一番星なんて久しぶりに見つけた気がする。お蔭で少し平静を保つことができた。こんなんじゃ先が思いやられるぜ…。


「あ、そうだ、明日ケーキ作ったらあげるね」
「え、マジ?」
「チーズケーキなんだけど、食べれる?」
「あ、俺チーズ好き」
「じゃあ失敗しなかったらあげるね!」
「さ、サンキュー」


思いもよらぬプレゼントの予感に嬉しくなる。彼女の発言で一喜一憂したり、どきどきしたり。これが恋ってヤツなのか?





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