「おはようさーん!」
「あっ、小春ぅ!なんで今日遅刻なんや、俺めっちゃ寂しかってんで!」
「ごめんユウくん、病院行っててん」

「「病院!?」」

「…あら、名前ちゃん。おはよう」
「おっ、おはよう小春くん!」

好きな人がいる。そんでもってその好きな人は、ちょっと変わってて、多分、所謂その…ホモ、というやつらしい。
だけどそんなことは関係なかった。わたしは優しくて賢い小春くんが、誰がなんと言おうと好きだから。

「なんやまたお前か、俺の小春にちょっかい出すなや」
「ええやないのユウくん、ユウくんより可愛いしな」
「ええっ!?」
「なっ、こ、小春ぅ!」
「ね、名前ちゃん。あら、前髪切ったやろ?」
「え、あ、うん!ちょっとだけ、自分で」
「似合うてるわ〜、今度アタシが切ってあげたいんやけど、どうかしら?」
「えっ、いいの!?」
「ちょいちょいちょい待て待て待て!何を俺をそっちのけで話進めとんねん!オイコラ名字ブスお前!はよあっち行けや!もうす3限始まるやろ!しっし!」
「もー、ユウくんったらヤキモチやさんなんやからあ。ほならアタシも席着くわ」
「なんで小春まで!?」
「席着きましょ、名前ちゃん」

なんか、良い感じなんじゃないか。と思うけどいつものことである。小春くんは基本的に女の子の味方をする。わたしに限らず、この世の女の子全ての強い味方。一氏くんもわたしと同じで、小春くんのことがすごーく好きなんだと思うけど、傍からみたら、最近の一氏くんの恋心は一方通行のように思える。最初の頃はべたべたしてて叶わないかも、とか思ってたけど、そうでもないらしいことに気がついてからは、わたしもわたしなりに頑張っているつもりだ。頑張ってこの恋が叶うかもしれないなら、わたしは頑張りたい。



「名字、ちょっと来い」

せっかくの昼休みを一氏くんに潰されてしまうなんて。小春くんに潰されるなら本望だけど、これは不本意だ。わたしにとって一氏くんは、いわばライバルであって、仲良くなんかしたくないし。

と、いうのは一氏くんももちろん同意見らしかった。
屋上に連れてこられて、仕方なくそこで持ってきたお弁当箱を開ける。呼び出されるし、ピーマン入ってるし、最悪だ。


「お前ほんまなんやねん、小春の周りをちょろちょろしよって。ほんまウザいねんキショいねんやめえや」
「…はあ、すいません」
「いやすいませんやあらへんやろ、小春は俺のパートナー、相棒や!お前みたいなミジンコが入り込める隙間なんか1ミクロンもないねんからな!」
「…一氏くんはさ、」
「あ?」
「一氏くんは、小春くんのどこが好き?」
「…なんや急に。全てに決まっとるやろ。小春の姿形中身全部や」

「…わたしね、いじめられてたことがあるの。本当に一時期だけど、上靴にいっぱい落書きされて、ゴミ箱に捨てられてたり、ジャージなんて何回もなくなった」
「……」
「でも、小春くんが助けてくれて。自分の上靴貸してくれたり、ジャージも一緒に探してくれた。喋り方こそ女の子みたいだけど、実は全然そうじゃなくて、その時の小春くんが本当に、わたしには本当に王子様に見えてさ」
「小春が王子様…ブッ、お前そんなんやからイジメられんとちゃうか」
「…笑わないで」
「ああ、すまん。そんなんたまたまそん時助けてくれたんが小春やっただけやろ。お前は小春を何にもわかってへん」
「…じゃあ!誰にでも出来ることなの?大抵の人はきっと見て見ぬフリをすると思う」
「俺も面倒やから見て見ぬフリやな」
「だったら、わたしが小春くんを好きになった理由に、いちいちつっかかってこないでよ」

「小春は…お前のこと好きなんや」
「…は?」

箸が止まる。一氏くんを少し見上げると、ふざけた様子は一切なく、真剣な眼差しでわたしを見ている。まるで一氏くんに告白されているみたいに感じて、恥ずかしくなって目を逸らした。
ていうか、今、なんて?

「一応勘違い防ぐために言うたるけど、恋愛感情とはちゃうで」
「…なん、だ、」

よかった?そんなわけない。わたしはものすごく遠まわしに今、間接的ではあるけどフラれたんじゃないだろうか。そんなの別に、一氏くんからわざわざ聞きたくなかった。せめて自分でハラハラドキドキしながら、告白してフラれたかった。ああ、やばい泣きそう。だめだめ、ライバルの前で泣くなんてカッコ悪い。家に帰って一人で泣こう。

「お前のおらん所でも、小春はお前の話ようすんねん。ムカつくことに」
「…ムカつくことに?」
「ああそうや。でも俺かて本気で…本気で小春のこと好きなんかって真剣に考えた時に、なんか違和感感じんねん」
「一氏くんも、恋愛感情じゃないってこと…?」
「それは自分でもようわからん。でもこの感情が恋とちゃうなら、恋っちゅーんがどんな感情なんか俺はわからんし、もしかしたら気付けんかもしれへん」
「…少なくともわたしのは、恋愛感情だったよ」
「そんなんお前見てればわかるわ。…まあ少なくとも小春に好かれてんのは確かやで。ムカつくことにな」

一氏くんに嫌われても仕方ないと思う。だってわたしも今の今まであんまり好きじゃなかったから。でもこうして今日、初めて二人でゆっくり、小春くんへの気持ちについて語り合って、そんなに嫌な人じゃないのかもって、ちょっとだけ思った。


「結局一氏くんは、わたしにどうしろと?」
「はあ?そらお前……あれ、なんやったっけ」
「……」
「……」

「ふ、あはははっ、一氏くん、変な人っ」
「な、わ、笑うなアホ!ちゅーかお前ピーマン食わんのやったら俺もらうで!」
「え、いいよ、はい」
「ええんかい!なんやねんお前冗談やろ!」
「いやいやわたし嫌いだから、はい」

箸で掴んだピーマンを、一氏くんの口の前に持っていく。一氏くんは文句をいいながらそのままぱくりと口に入れた。苦いのに、すごいなあ。さすが小春くんのパートナーだけある。

「…ちょっと思ってた奴と違たわ。まあでも俺のライバルにしては、ひ弱すぎるけどな」
「一氏くんは小春くん以外に、誰かを好きになったことないの?」
「なっ、あ、あるわけないやろそんなん!俺は小春という天使に出会ったんやからな!」
「…なかなか痛いね…ていうか天使じゃなくて王子様!」
「それを言うならお姫様やろ!」
「お姫様はわたしだもん!」
「何がだもんや、お前こそ相当痛いで!イジメられるに決まってるわ!」
「ひ、ひどい!」

思わず一氏くんの肩をばんと叩いた。もちろんひ弱と言われたわたしの肩パンに効果があるわけもなく、それでも「一発は一発や!」と一氏くんの仕返しを一発食らわされた。王子様とは対角線に居る人だなこの人。

「いった、もう最悪。小春くんにチクる」
「おーチクれや。小春は俺の味方や」
「違うよ、小春くんは絶対わたしの味方してくれるよ」
「あーもうお前小春小春うっさいねん!たまには違うこと言えや!」
「…じゃあ、ユウジくんって呼べばいいの?」
「っそ、そういう意味ちゃうわ!」

さっきより顔が赤いのは気のせいだろうか。今日は日差しが強いもんな、暑いのかな。
小春くん以外の男の子を、初めて名前で呼んだ。ユウジくん、というのは一氏くんよりよっぽど呼びやすくて、自分自身でとてもしっくりきてしまった。

「ユウジくん?」
「…お前がそういうつもりなら、俺かて名前って呼ぶけど」

そういうつもり、とはどういうつもりなんだろう。わたしはただ、呼びやすいと思っただけで…と言おうとしたら、不意に名前を呼ばれた。男の子に呼び捨てにされるのは初めてのことで、なんだか心臓の様子がおかしい。もしかしたらわたしもユウジくんと同じように、顔が赤いんじゃないだろうか。そんなの絶対恥ずかしい!最悪だ!

「名前って呼ぶ方がしっくりくるな。ライバルとしてこれで公平や。小春も名前って呼んでるわけやし。ちゃん付けやけど」
「の、望むところだよ」

結論、わたし達はよきライバルだ、ということに落ち着いたけど、一体誰が誰とライバルなのかはもうよくわからなくなってしまった。とりあえずこの心臓の様子について、原因は何なのか、小春くんに詳しく聞いてみようと思う。


fin.



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