ごくり、と生唾を飲んだ。正直言うて、今までのどの緊迫したテニスの試合より張りつめた空間に居ると思う。相手は完全に夢の中やけど。俺がこんな風に興奮状態にあることなんて、この目の前の幼馴染は微塵も知る由もない。

ちゅーかそもそもなんでこんな無防備に寝られんねん。俺が男で自分が女っちゅー認識ないんかい。…俺を男として見てへんのやったら、ほんま冗談やないで。
暑い暑い言うて、安モンのタンクトップに短パンなんぞ履いて来よってからに。俺に何かされるんちゃうかとか、ちょっとは思わへんのかコイツ。ムカつく。

規則的な寝息を立てて気持ちよさそうに眠る名前の脚は、俺なんかよりずっと白い。部活入ってへんし、運動は苦手な奴やから当り前なんかもしれんけど。なんやすべすべしてそうやし、柔らかそうや。俺の脚とは比べ物にならん、なんちゅーか、女の子って感じで。

ちょ、ちょっとくらいなら触っても、罰当たらへんやろ、とそっとその白い脚に手を伸ばす。クーラーがんがんに効かしてんのに、もうめっちゃ心臓ばくばくで身体のあちこちに汗掻いてきた。ちょっと、ほんまにちょっとだけ。

名前の白い脚に触れる寸前、「ん、」と声を漏らして、寝返りを打った。な、なんやねんびびらせよって!寝返りなんか打つなボケェ!
慌てて手を引っ込めて、一旦自分自身を落ち着かせる。落ち着け俺、触るだけや、絶対起きるわけがない。元々名前は一度寝たら中々起きん奴やし、例え目を覚ましても知らん顔しとったらええねん。

再び手を伸ばそうとして、固まる。…え、何、ちょお待って、何なんその谷間。いつ出来たんや。何で急に俺の前に谷間が現れるんや…!

恐らくや、恐らく今の寝返りで現れたであろう名前の胸の谷間は、確実に今、俺の前に存在する。な、な、なんでこのタイミングやねん!あかん!熱中症なりそう…!

一旦谷間から目を逸らして、深呼吸をする。こんなんやから俺は周りからヘタレとかヒヨコとか言われんねん。あかん、もうあかん。これはコイツが悪いよな。俺が手ぇ出しても名前は文句言えんはずや。だってこんなん、どうぞ手ぇ出して下さいって言うとるようなもんやん。

気持ちよさそうにすやすや眠る名前の脚に、そっと触れた。予想通り柔らかくて、すべすべしとって、気持ちええ。ずっと触っときたいような感触に、さっきより更に興奮してまう。女の太股を触ったのなんて初めてで、俺の身体はとうの昔に反応しまくっとる。部屋着の半パンやから、隠そうとせえへんかったら勃起してんのバレバレや。

俺ん家には今日は俺とコイツの二人きりやし、名前が起きんかったら何が起こっても誰にもバレへん。最低なんは俺、やのうて名前の方や。こんな格好で無防備に寝顔晒しよって、おまけに谷間までサービスしてくれよるんやから、俺は悪ない、わ、悪ないで!

ガキの頃からずっと一緒やった筈やのに。いつの間にかこんなにはっきりと、男と女という性別に分けられてしもたんやな。風呂入ったり、一緒の布団で寝たり。もういつからコイツが好きやったんかわからんくなる程、ずっと昔から一緒やったから。

太股をすり、と撫でると擽ったそうに身を捩る。それが可愛いくて、なんやめっちゃ愛しくなって。ほんまはコイツが起きとっても堂々とこういうのしたいのに、今の関係が終わってしまうんが怖くて、未だそういう関係に踏み込めず仕舞いや。俺はこんなに名前のこと意識してんのに、コイツがそうやなかったとしたら。ほんま、独りよがりもええとこやで。片想いなんちゅー言葉で片付けてええんかどうかもわからん。

「…あー、くそ、なんやねんほんま」

気付いて欲しい。ちょっとくらい俺の気持ち、察してくれてもええやろ。まあこんな格好で俺ん家来て、なんも気にせんと爆睡出来るくらいやから、俺のことなんて、ただの幼馴染としか思うてないんやろうけど。

さっきの興奮状態は徐々に消えつつあった。結局いつも、手を出すことが出来ずに終わる。そら名前を傷つけることだけは絶対にしたくないけど、俺も報われんよなあ。

名前から目を逸らして、そっと布団をかけてやった。気持ち良さそうに寝とる。俺の前でしかこんな爆睡はせえへんのやったら、それでええか。

「けんや、」
「…!!」

逸らしたばかりの目線を戻すと、名前は眠ったままや。なんや、寝言かいな。

俺の夢でも見てんのかな。名前を呼ばれた事が嬉しくて、そっと名前の髪を撫でた。汗が少し染み込んで、しっとりした前髪を掻きあげてやる。普段は前髪で隠れた額が、もうほんまに白くて、ゆで卵みたいで可愛いくてしゃーない。もうデコまで可愛いとか末期やな俺。

起きたら何の夢見てたんか問い詰めたるからな。


fin.




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