「なんで小春やないねん!誰やねんお前!」
「くじ引きなんやからしょうがないやん!あとわたしと一氏くんは三年間クラス一緒や!名前くらい分かるやろ!」
「名字名前」
「分かるんかい!なんやソレ!…まあええわ、とにかく頼むで、ボディーガードしてな」
「はあ?なんで俺がお前のボディーガードせなあかんねん。俺は小春専属や」
「もうホモはええて、キモいて。ほら順番回ってくんで」
「チッ、相変わらずムカつくやっちゃなー」
「どっちがや」

明日から夏休み。終業式やった今日、誰が言い出したんか知らんけど、学校の裏山にてクラスで肝試しをすることになってしもた。わたしはその手の類がもう大が一万個付く程苦手(っちゅーか嫌い)で、最後まで大反対、カラオケにしようやと推していたんだけれども、多数決により願いが叶うことはなかった。
ほんなら参加せえへんかったらええやん、と思うだろうが、そういうわけにもいかんねん。だ、だってひ、一氏くんが参加するって聞いたから、わたしもこれはチャンスやと思て…でもやっぱお化けこわい。正直今すぐ家帰っておかんと一緒の布団で寝たい。(今日は確実に一人じゃ眠れん)

「次の二人が帰って来たら一氏くんら行ってな」
「へーい」

つ、つつ次て!まだ早い!こっ心の準備がまだ全然…!
偶然にも一氏くんとペアになれたことはほんまに嬉しいけどそれ以上にお化けこわすぎる。あかんおしっこちびりそう。好きな人の前で失禁なんかしたらわたしの人生お先真っ暗や。しかも相手があの一氏くんや。一生ネタにされること間違いなし、モノマネなんかされたらマジで自殺してやる。

「お、帰って来た」
「ごっつこわかった〜、名前ちゃん気ぃつけや、足元暗ぁてなんも見えへんで」

ひいいいどないしよう!てかなんでそんなことわざわざご忠告してくるん!?全然ありがたくないよ!?
とは言えず、そのままGOサインが出てしもた。一氏くんの一歩後ろを恐る恐る進む。懐中電灯はペアに1つだけ。それを持ってるんはもちろん一氏くんや。

「…お前もしかして、」
「え!」
「こわいとか言わんよな?」
「こわっ、い、わけないやん!」
「ふーん?」

な、なんやんねんその目は!ちゅーかなんでわたしは嘘ついたんやろか。正直にお化けとかそういう類はマジで無理なんです言うたらえかったんちゃうか。まあ間違いなくバカにはされるやろうけど…でももう後戻りは出来へん。わたしは今日一日ずっと一氏くんの前で強がっていなくちゃダメなんや。

「おい」
「あ?なんや。てかお前トロい。さっさと歩けや女子かお前は」
「どっからどう見ても女子やろ!」
「あん?女子はスカート履くやろ普通」
「どんな偏見やねん、わたしはスカートは制服以外履かない主義や」
「ああ、大根みたいな足やもんな」
「誰がや!てかひど!残酷すぎるやろ!わたしってそんな足太い!?もう出されへん!短パン履かれへん!」
「じゃあ履くな」
「無茶言うな暑いわ!」
「うるさいやっちゃなー。ほんでさっきからなんでそない後ろ歩いてんねん。隣来ればええやろ」
「……」

お、おお、急にそんなさらっとキュン台詞言われたら、わたしってこいつのこと好きなんやった、て思ってまうやんか。恐る恐る一氏くんの隣に並ぶと、あまりにも距離が近くて心臓がずんどこずんどこ騒ぎ始めた。おおお、落ち着けわたし、これは恐怖や!あまりの恐怖に心臓が震えてんねや!

「確かこの先にある墓を抜けたら蔵みたいなんがあるんやったっけ?」
「い、いや、知らん…わたし聞いてなかった」
「なんや、ほんま役立たずやな。お前いっぺん死ねや」
「ええ!?なんで!?急に口悪!死なんけど!?」
「あとお前さっきからずっと思てたけど声でかいねん。お化け役がびっくりするやろ」
「お、お化け役…?」

なんやそれ、お化け役って…、え、お化けって生きてるの?お化けが、お化け役を自ら買って出て…仕事で仕方なく?だとしたらかなり…かなり親近感が湧くんやけど…!

「お前ってほんま、アホの子みたいな顔しとるよな。考えとることモロバレっちゅーか…ぷっ、ぶふっ!ぎゃははお前アホやろ!お化けなんかこの世にいるわけないやん!!っひー、アホや!お前ほんまアホ!」
「そ、そこまで…っていうかえ?何?何でわたし笑われてんの?」
「強がってこわくないとか、もうほんまウケるわ!終始涙目!」

なんや、なんでこんな笑われなあかんねん。しかも好きな人に。わたしの考えとることモロバレなんやったら、だったらあんたはわたしが、あんたのことが好きっていうの、知ってるっちゅーことか。知っててこんなバカにしくさってるっちゅーこと?

「あ、ちょお待って、懐中電灯切れそうやわ。やべ、お前これ切れたらやばいんちゃうん?お化け来るで、お化け」
「一氏くん」
「ん?なんや?こわいんか?泣くなよ?ウザいから」

「わたしはアホや。認める」
「は?」
「わたしの気持ちを踏みにじって、そんな楽しい?おもろいか?こっちはマジで真剣に…真剣に」

一氏くんのことが、好きだったのに。

「あんたなんか、あんたなんか…」
「…名字?」
「お化けにチ○コ喰われてまえばええんや!」
「っはあああ!?(てかなんでチンコ!?)」

うわああっとその場から逃げだした。足は速い方やった。実は50メートル7.5秒や。どや、速いやろ?って自慢する相手も今はおらん。ただがむしゃらに墓を抜けて、奥にある蔵も抜けた。もう知らん、あんな奴好きじゃない。わたしはこのまま、このまま…!

「風になるんや!」
「なんっでやねん!」

キレのいいツッコミが入った。のと同時に左腕を掴まれる。ぐんっ、と身体が後ろに引っ張られて、尻もちをついてしまった。無論、引っ張ったのは一氏くんや。

「…いた、いたいなもう!なんや!追いかけて来んなよ!帰れ!一人で帰ってしまえ!」
「アホ!女置いて帰れるか!蔵も通り過ぎてどこ行こうとしてねんお前は!」
「どこって…さっき言うたやろ、風に、」
「なれるかあ!おまっ、正気!?正気なん!?せやったら病院行った方がええて、な?謙也んとこ行くか?」
「誰やねんそれ!わたしは至って正常や!」
「正常な奴が風になる言うて本気で走るか!…てかマジで、真面目に話そうや」

わたしがいつふざけた。ふざけてるのはあんたやろ。突然人のことバカにしくさりよって。あんたは何とも思ってないからええかもしれんけどな、わたしはす、好きな人にバカにされたんやで。あんたが参加する言うたから参加した。ペアになれて心の底からラッキーやと神様に感謝したのに。こんなことは望んでなんかいやしなかった。

わたしはただ、一氏くんと一夏の思い出を作りたかったんや。この恋が実るにしてもそうじゃないにしても、わたしの好きになった人は素敵な人やった、と、そんなキラキラした思い出を一つでも多く残したかっただけ、なのに。

「一氏くん」
「真面目な話せえよ」
「うん、わかった」
「よし、なんや言うてみ」

「好き」

「!?」

「一氏くんが好き。…真面目な話です、よね?」
「いっ、いや、俺、に聞かれても…え、ええ!?なっ、なんっ、えええ!?」

自分でもこのタイミング!?どのタイミングなん!?うわああしくった、マジで!え!?状態や。せやけどもう口に出してしまったもんは仕方ない。それにどこか、どこかすっきりした気持ちもある。わかってもらえない、気付いてもらえない。そんな現状にずっともやもやしていた。要するに、溜まっていたのだ。一氏くんへの欲求が。

告白したい。好きだって言いたい。でも言ったら色んなものが崩れていってしまうから、言ってはダメ。そんなのはもうおしまいや。もう隠さなくていい。これからはオープンに!一氏くんが好きだと叫んでしまおう!

「本当は今日ペアになれてマジで嬉しかった!わたしって超ラッキー!神様大好きありがとうって思った!」
「ちょっ、名字、声、声でかいねん!」
「一氏くんがわたしのことを好きやなくても!とりあえず今は一氏くん一筋です!」
「…っとりあえずって、なんやねん…」
「お、おしまい、…みたいな?」
「みたいな?やあれへん!お前何急にリサイタル始めとんねん!お化けもびっくりやわ!ちったぁTPO考えろや!」
「いやもうなんかオープンの方がいいかなって。ほら、ムッツリよりオープンの方がええやん?一氏くんはムッツリっぽいな」
「大きなお世話や!…っお、俺以外の奴に聞かれるやろ…」
「?、うん、別にもうそれもいいかなって。そしたらさ、クラスでもどこでも一氏くん好きって言えるしな」
「言わんでええ!もうわかった、お前の気持ちはわかったからほんまクラスで言ったり叫んだりとかマジでやめろ」
「なんで」
「俺からの命令や。ご主人様の言うこと聞け」
「いつご主人様になったんや」
「え?お前俺のこと好きなんやろ?そしたら必然的に俺がお前のご主人様やんか」
「どんな変態や!でもそんなところも好きやで!」

とりあえず埒があかん、と一氏くんはしりもちをついたままのわたしを起こした。ご主人様か…それでも傍にいられるならええんちゃうか…と思いつつ、蔵があった方に一緒に戻った。

「このまんじゅう取って戻るだけやのに、どんだけ時間かかってんねん俺ら」
「わたしのせいや、メンゴ」
「謝る気ないなら謝んな(…こいつほんまに俺のこと好きなんか?態度おかしいやろ)」

懐中電灯はとうの昔に切れてしまって、とりあえずわたし達より後ろのペアと合流して、一緒に帰る作戦を決行することになった。のはいいけど、全然来えへん。わたし達より後ろのペアなんて山程おったはずやのに。まさかわたしが告白リサイタルを開いてしもた所為でめっちゃ時間経ってしもてたとか!?んなバカなことがあるわけ…!

「あー、もしかしたら俺らより後の奴ら、もう帰ってしもたとか」
「あった!」
「あ?」
「いや、なんでも」
「お前頭大丈夫か、やっぱ謙也んとこ行こうや」
「いやせやからさっきからそれ誰?」
「俺の知り合いの童貞」
「俺の知り合いだけでええやん。かわいそ」
「いやいや、知り合いだけやとなんか遠いやん。一応仲間やし」
「一応なんや…」

それよりどうする、真っ暗ん中帰るか?と提案してくる一氏くん。正直今のわたしはこわいものナシや。いや、お化けはこわいんやけど、リサイタルのお陰で鋼の鎧を手に入れた。精神的には今どんなことが起こっても耐えられるくらいの。はっきり言って無敵状態や。ドンキーコングで言うたら、ビックリマークの樽とった時みたいな?

「帰る。帰れる。今なら行ける」
「…ほんまかいな。お前がそう言うならほな帰ろか」

ところで一氏くんよ。わたしのリサイタルの返事はどうなったんだい。まさかあれをサラッと流して明日からも普通に、とか言うんじゃないだろうな?それは男としてない。だってわたしの知っている一氏くんはもっとこう、口が悪くて、男が好きで、性悪な…いいところひとつもなんやん!

「ん、行くで」
「…え?何、」
「っ手じゃ!手ぇ出さんかい!こけたりしたら危ないやろ!」
「……」

少し大きな手のひらに、ぽん、と自分の手のひらを重ねてみる。強引にぐんと引っ張られて少し身体が前につんのめったけど、なんや、やっぱりこの人はわたしが好きになっただけある。男らしくて、優しくて、かっこいい。これが一氏くんや。

「一氏くんよ」
「ああ?」
「さっきのリサイタルのことやけど」
「…なんや」
「わたし、返事いらないや。…こうできるだけで、幸せやし」

えへ、と笑うと、ムッとした顔で一氏くんが振り返った。月明かりが丁度、一氏くんの顔だけを照らしているみたいや。

「アホか、告られたのに返事もせえへんなんて俺の美学に反する!」
「び、美学…?」
「俺は好きでもない女と手ぇ繋いだりせえへん」
「…うん?」
「(こいつ、わかってないな)…っ今繋いでるっちゅーことは」
「…え、あの、ってことは?」
「言わすなや!少しは自分で考えろ!」
「ええー!リサイタル返ししてくれるんちゃうの!?」
「誰がするかあ!俺は元々物静かな男なんや!」
「どこが!?」

好きな女としか手を繋がない。それはつまり、そういうこと?

「ねえねえ!」
「なんや!言わんぞ!」
「一氏くんもわたしのこと好きになったん?」
「は?」
「この短時間で恋に落ちたん!?」
「…短時間…でもないけど…(結構前からやし)」
「わたしってやっぱり好きな人に惚れさせるとか、そういう力があるってことかしら!」
「いやない、ないて」
「リサイタルの女王ここに誕生!みたいな!?」
「やっぱり謙也んとこ寄って帰ろか」


fin.




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