ばいばい



バイトまでの道中、必死に言い訳を考えたけど、上手な言い回しが見つからなくて。結局、雅治の言いつけを破って、ここに来てしまった。のはいいんだけど。

「なんで幸村ん家にみんないるの」

「今日は独り者で集まってお好み焼きパーティーしようってことで」
「楽しそうだなおい、っていうかなんでわたしも誘ってくれないのー!わたしも独り者仲間じゃんか!」
「え、仁王と一緒に住んでるだろ?」
「だから雅治とは付き合ってないんだって」
「まだ付き合ってなかったの?」
「はあ?」
「あー、ゴホッ、なんでもない」
「何そのあからさまな咳。あ、ていうかそうそう、今日明日ここに泊めてよ」
「…いいけど、なんで?」
「雅治が彼女連れてくるんだって。だからわたし邪魔だし、いたらかなりマズいじゃん?」

家主の承諾も得たことだし、とりあえず今日帰って言い訳もせずに済む。一先ず雅治とのやりとりは休息。そんなことよりわたしもお好み焼き食べたい。

「あ、名前先輩!お久しぶりっス!」
「赤也ー、久しぶりー。元気だったー」
「ちょ、なんスかその棒読み!可愛い後輩に会えて嬉しくないんスか!?」
「いやいや嬉しいよ、おいで赤也」
「!、先輩!」

「はーいそこまでー」
「!、ちょ、何スか丸井先輩!ヤキモチとか見苦しいっスよ!」
「誰がヤキモチだ!…よお、っつってもこの前も会ったな」
「あ、うん。会ったね」
「で、お前まだ彼氏出来てねーの?」
「うるさいな、ブン太だってとっかえひっかえしてるって聞いたけど」
「違うって、いい女に巡り会えてねーだけ」
「うわ、最低。引くわー、普通にないわー」
「うっせ!」
「あれ、今日ジャコーは?」
「ジャッカルな。今日は仕事だって」
「へえ、大変だね」

「名前お前、前に会った時より1.25キロ太っているんじゃないか?」
「ええ!?嘘、マジ!?…って相変わらずその超細かい性格直ってないんだね、柳」
「直すつもり等無いからな」
「なんで柳がモテるのか不思議でならないんだけど」
「顔じゃないのか」
「ああ、なるほど納得」
「弦一郎は丁度お前が来る32分前に帰ってしまったぞ」
「別にわたし真田は?って聞こうとしてないけど」
「心の中で思っていただろう」
「…っはー、遂に心まで読めるようになったのか」

結局わたしが来た頃には、この幸村ハウスには家主である魔王と、ブン太に赤也、柳の4人が居た。柳生も真田と一緒に明日の朝が早いからとついさっき帰ってしまったらしい。ちょっと残念だけど、また会えるだろう。

「お好み焼き、食べる?焼こうか」
「食べる!」
「ふふ、ブン太、一人前よろしく」
「あいよー」

雅治が居たって居なくたって、わたしの世界は同じように楽しくて、明るい。雅治もきっと同様に、わたしが居なくたって幸せで、楽しい世界が広がっているのだ。
だからわたし達がそういう関係なることは、例え地球上に雅治と二人だけになったとしてもあり得ないことだと思う。…いややっぱ二人だけだったらどうかな。わかんないな。

「わー、おいしそー!」
「ったりめぇだろい、俺様特性お好み焼きだからな」
「いただきます!」
「どーぞ」

ブン太の作ったものは、本当にプロ級で、頬っぺたが落ちそうな程おいしい。嫌なことも何もかも忘れて、ただ食べる、ことだけを考えられる。

「んー、おいしい!」
「ほんとお前って、」
「美味しそうに食べるよね」
「名前先輩が食べてるとこみると腹減ってくんだよな」
「この食べっぷりであれば1.25キロ太るのも納得がいくな」

こんなに騒がしい食事は何時ぶりかな。別に雅治とご飯食べてる時も会話はするし、楽しいけど、今日はもっと楽しい。ああもうわたしみんなでここに住みたいな、とか甘えた考えまで浮かんじゃって。だってこのお好み焼き本当においしいんだもん。

その時丁度わたしの携帯がぶるぶると震えて、画面には"仁王雅治"と出ている。思わずやばっ、と思って進んでいた箸を止めた。ど、どうしよう、雅治には男の家には泊まらないからって言ってあるのに!

「ん?名前、携帯光ってんぞ」
「え?あ、え、はは、いいのいいの、雅治だし」
「お、仁王?じゃあアイツも呼ぼーぜ!」
「え!?だめ!だめだよ!?」
「は?なんで?」
「いやだって、ねえ、ほら、雅治は明日の準備とかあるでしょ」
「準備って?」
「彼女が来るにあたって、わたしの私物を隠したり」
「そんな浮気隠してるみたいなの、俺ぜってーヤダわ。いいから貸せって」
「あっ、ちょっと…!」

ブン太に強引に奪い取られた携帯は、ぴ、と雅治と繋がった。やっば、…ていうか、わたしは何をこんなに焦ってるんだろう?よくよく考えたら、別に雅治に男の家に行くなとか言われる筋合いはないような…え、そうじゃん。間違ってないじゃんわたし。

「もしもし仁王?俺!わかるか?」
『…名前にかわって』
「おーい、お前俺だよ?わかんねぇの?ブン太だって」
『お前に用ないんじゃけど』

「…名前、なんかよくわかんねーけど、仁王がえらい不機嫌だぜ」
「わたしにかわれって?だから出ないでって言ったのに」
「出ないでとは言われてねぇ」
「もー、…も、もしもし雅治?」

『今どこなん』
「えーと、幸村ん家」
『行かんって言うたのに?何で嘘つくん』
「…ごめん」
『今すぐ帰って来んしゃい。話はそれからじゃ』
「か、帰らないよ。だって明日彼女連れてくるんでしょ?だったら今日明日ここに泊まる」
『なんでそうなるんじゃ、俺は女の家に泊まれって言うたじゃろ』
「なんで?なんで雅治にそんなこと言われなくちゃいけないの?」

お互いだんだん熱くなってきて、この空間には一人じゃないにも関わらず、大きな声をあげてしまう。雅治とこんな風に言い合うのは、学生時代から一緒に居て一度だってなかった。だってずっと、ずっと気の合う奴だったから。
こんな風に怒られる意味も、沸騰していく感情を、わたしは知らない。どうやって沈めたらいいのかわからない。

「わたしがどこで何しようと雅治には関係ないじゃん。自分が人に干渉されるのは嫌う癖に、わたしのことは干渉してくるの?意味わかんない」
『…そんなに幸村がええんか』
「え?」
『だったら幸村と住めばええじゃろ。料理だって、』
「はあ!?雅治がわたしの家に突然来て、突然おいてくれって言ったんじゃない!それを今更何!?わたしが見つけた物件だし!別に最初から一緒に住むつもりじゃなかったし!」

何を意固地になってるんだろう。わたしは何でこんなにムカついてるんだろう。
だってよく考えたらさ、彼氏でもなんでもない相手に、男の家には行くなとか、遊ぶなとか、言われる筋合いなんてないじゃない。しかも雅治は家に女の子連れこんで、二人でイチャイチャするわけでしょ?わたしは肩身の狭い思いもしたくないし、彼女に嫌な思いもさせたくないから気を遣って家を空けてやろうって思ってるのに。雅治もわたしにちょっとは気を遣えよ。わたしは雅治が彼女連れてくる度に、嫌な思いしてるんだよ。

どうしてそれをわかってくれないの?

「もういい!その部屋あげる!ばいばい!」

ブチッと自分から通話を終わらせた。かっとなって色んなことを口走ったけど、どう、しようか。
目を白黒させながら、顔をあげると、幸村達が唖然としてわたしを見ていた。え、引かれた?

「…お前がそんなブチ切れるとこ初めて見た…」
「ふふ、俺は面白かったよ。ただあんまり怖くなかったけどね」
「いやいや十分ひどかったっスよ!」
「仁王の奴、結構ダメージ喰らっただろうな」

様々な言葉をかけられて、これで、よかったんだろうかと思ってしまう。とりあえず。

「これからどうしよう…」
「え?俺のところに来るんじゃないの?」
「…い、いいの!?」
「いいも何も、そのつもりで言ったんだと思ってたけど、違うの」
「え、あ、いや…」

「えー!幸村部長ずりい!俺も住む!住みたい!」
「お前は来週アメリカだろうが」
「ちぇっ」

「本当に、いいの?幸村、」
「俺は別にいいけど。…ただ、仁王と違って手を出さない保証はないかな?」
「え!?」
「冗談だよ、ふふ、可愛いなあ」
「え、ちょっと、何、怖いんだけど!やっぱブン太ん家にしようかな!」
「俺実家なんだけど」
「いいじゃんケチ!柳!」
「俺はお前とは住みたくない」
「こっちだって願い下げだバカヤロー」


結局住めるところなんてここしかなくて、しばらく本当に幸村ハウスにお世話になることになった。



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