信じてる




雨が窓を叩く音がどうにもうるさくて眠れん。ついでに名前の事をこうして毎晩のように考えてしまう。
名前と会わない日がもう何日続いた?こんなんはアイツに出会ってから初めてのことじゃ。部活で毎日顔を会わせ、卒業しても家に帰ればアイツが居てくれた。正に夢のような時間だったわけじゃ。

ここまでする必要はなかっただろと今更になってアイツを騙してしまった事に後悔している。これじゃ本当に、終わりぜよ。

ベッドの中で眠れず、芋虫のようにウジウジと女々しい事を延々考え、丸まっていた時だった。チャイムの音が確かに聞こえた。俺の部屋か?それとも隣?…日付はとっくに変わっとる。誰じゃ、こんな時間に。

もう一度、チャイムの音が鳴らされ、俺の部屋じゃと確信する。このまま無視しようかと思ったが、眠気はまだ来てなかったし出てやる事にした。


ノゾキ穴を覗いてぎょっとした。な、んで、名前が?

緊張か、それとも罪悪感からか、玄関扉を開ける手が震える。この向こうに、名前が本当に居るんか?

ゆっくりと扉を開けると、びしょ濡れで息を切らした名前の姿がこの目ではっきりと確認出来た。

「ご、ごめん、こんな時間に」
「…なんで濡れて…傘はどうしたん」
「や、なんか忘れちゃって」
「忘れるってお前、」
「どうしても雅治に会いたくて」

やめろ、そんな目で見るな。めちゃくちゃにしてしまいたくなるじゃろ。

「タオルとってくるけぇ待っとき」
「あっ、いい!いいから!このまま聞いて!」
「いやでも、」
「お願い、聞いてほしいことがあるの」
「…わかった」

身体に付着した雨粒が、首から鎖骨にかけて流れるのを見て目を逸らす。なんでこいつはいつも無防備なんじゃ、と腹を立てつつも、邪心を振り払って名前の話を聞く事に専念する。

なかなか話を切り出さん名前を気長に待ってやった。不思議と、今なら何分だって何時間だって待ってやれるような気がした。

「い、今から本当に勝手なことを言うね」
「ん、わかった」
「雅治が前にわたしに言ったこと…今ならすごくよくわかる。本当に、今更なんだよって自分でも思うんだけど」
「…?」
「他の女の子に雅治をとられるのは、わたしも真っ平ごめんだって思った!」
「…え…」

「雅治に彼女がいても、もうわたしのことっ、好きじゃなくても!傍にいたいって、いてほしいって思うから…っ!」

だから…!と目に涙を溜めて気持ちを打ち明けてくれる名前が堪らなく愛しかった。身体の芯から震える、この感覚。こんなの、初めてじゃ。

「わたしとっ、結婚してください!」
「…は?」

「…や、だから、わたしと結婚、」
「いや聞こえとる。…ちょ、待て、話がぶっとんだじゃろいきなり」
「だって結婚したら彼女云々の問題もなくなるかなって。だって雅治独身でしょ?」
「いや独身も何も、…俺彼女すらおらんし、」
「はっ?」
「すまん、あれ嘘じゃ」
「う、そ?」

力が抜けたのか膝からカクンと崩れ落ちそうになる名前をなんとか抱きとめた。やっと、この日が来た。俺はその場で名前を抱きしめた。どうしよ、本気で嬉しい。

「ま、雅治…?」
「嘘ついてごめん。悪かった」
「……」
「俺が好きなのは名前だけじゃ」
「…嘘じゃない?」
「嘘じゃない。信じて」
「…うん。信じる」

誰が何と言おうと、俺の事を信じてくれる奴だった。俺がやってないと言えばじゃあそうなんだと信じてくれたし、俺も名前を100%信じていた。自分の気持ちに嘘を付けない奴だからこそ、こんなにも俺との関係に悩み、苦しみ、だけど本気で考えてくれた。

随分と遠回りをしてしまったが、この腕の中にある温もりは、確かにある真実だ。

「雅治、ここ玄関だよ」

扉を開けたまま玄関先だという事を完全に忘れていた。が、そんなことは俺にとってどうでもいい事じゃ。扉を閉めるとすぐに、今までお預けを喰らった分がっつくようにキスをした。嫌がったってやめてやるもんか、と思っとったけど、嬉しそうな名前を見て余計にヒートアップする。

「まさはっ、」
「ん、名前」
「っ好き、…好きなの、…好き…!」
「バカ、煽るな」
「雅治は?」
「…俺も好き」
「…ふふ、やっと同じになれたね」
「身体もな」
「えっ、ここ玄関…!」
「関係ないぜよ」

お互い立ったまま、器用に名前の服を剥いでいき、俺はこの日、神様とやらに全ての願いを叶えてもらった。





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