どうして




わたしのことが好きだと言った。あれはきっと嘘なんかじゃない。疑う要素なんてひとつもないくらい、雅治の目は本気だったし、だからわたしも本気で答えなくちゃと思った。

それなのに、どうして?どうしてこうなってしまったの?

どうしてわたしは、こんなにも傷ついているんだろう。


「何それ意味わかんない!」
「…ね、わかんないよね。もうどうしたらいいんだろうね」

好物であるチーズフライを食べながら、今回のことを友人に話してみた。当然感受性豊かな彼女が黙って聞いていられるわけもなく、ドン、とレモンサワーの入ったジョッキを感情に任せて机に置いた。

「何それ何がしたいわけ?」
「さあ。…でも出来たもんはもう仕方ないっていうかさ」
「仕方なくないし!名前頑張るって言ってたじゃん!彼女なんか奪っちゃえばいいんだって!」
「えええ、まさかの略奪?」
「だって絶対名前への当てつけじゃんそんなの!これだから男ってねー、あっすいません梅酒ロックひとつください」

かなりのハイペースで飲んでいるにも関わらず顔に赤みも差していなければ悪酔いももちろんしていない。やっぱこの人お酒強いなあ、と呑気に関心しつつ、思いの他今回の件で傷ついている自分について話してみた。

「そりゃああんた普通だって。好きな人に彼女出来て傷つかない人とかいないよ」
「…いやそうだけどさあ、なんかこう、ずっと胸が痛いんだよ。今まで雅治に彼女が出来ても、こんな気持ちにはならなかったのに」
「…そん時は好きじゃなかったからでしょ」
「や、多分ね?多分だけど、いつだってあの人はわたしを一番に考えてくれてたんだと思う。彼女との約束よりわたし優先してくれたりとかさ。それが原因で彼女に色々言われたことあるんだけど、その時も何故かわたしのこと庇ってくれて。…バカなんだよ、あの人」
「バカっていうか、超愛されてるよねそれ」
「まあ、今思えば嬉しことだけどね。…でも今回はそうじゃないっていうか、全然連絡来ないし、わたしから誘った時も断られたから、もしかしたらすごく彼女のことが大切で、わたしのことよりもずっと、大好きな人に出会っちゃったんじゃないかって思ったら、なんかさ、ね」

泣きそうになるんだよ。と自分で言っておいて本当に泣きそうになる。ぐいっ、とグラスのお酒を一気に呷って、涙と一緒に飲み込んで我慢した。

「…なんで泣いてんの」
「だっ、だっでさあ〜!」
「大丈夫だよ、頑張るよ」
「うっ、うぅっ、もーあたしと付き合っちゃおうよ!」
「わたしが男だったら付き合うよ絶対」
「あたしが男であんたが女に決まってんでしょおー」
「もうどっちでもいいよ」

すいませんわたしも梅酒ロック、と店員さんに注文をお願いして、二人して梅酒ロックを飲みながら切ないお酒に酔いしれた。

雅治はわたしのことを好きでいてくれると余裕ぶっているからこんなことになるのだ。いつまでもぬるま湯に浸かるのはもうやめよう。雅治が誰を好きだろうと、誰と付き合おうと、いい。わたしは、雅治が好きだ。

結ばれなくてもいい。こんな風に自分以外の誰かのことを大切に思えることだけでもきっと素敵なことだ。

「もうさー、彼氏彼女じゃなくて、結婚しちゃえば?」
「け、結婚?」
「だって最初っから順番おかしかったじゃん。だからもうこの際さ、告白するなら結婚してくださいって言うのがいいと思うのよあたしは」
「結婚ってそんな、いきなりすぎない?だって彼女いるんだよ?しかもそでれフラれたらわたしもう立ち直れないんだけど」
「でもそのくらいしなきゃ彼の心は動かないかもよ?それに名前のプロポーズなら受け入れてくれると思うけどなあ」
「なんとなくで言ってるでしょ」
「バレた?でもあたしのなんとなくは当たるのよ。まあ、あくまでこれはあたしの意見だから、名前のしたいようにすればいいよ」
「…うん、わかった」

今更気持ちを伝えるとなると、どんな風に言葉にしたらいいんだろうと悩んでしまう。そもそも彼を前にして気持ちを伝えることすら極度に緊張するだろうに、そんなんで結婚とか、ありえないありえない。

ぶわ、と顔に熱が集まるのはこの梅酒のせいかな。話題はずっと雅治で持ちきりなものだから、無性に彼に会いたくなった。




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