このまま



ふっと目が覚めて見えたのは見慣れた天上だった。ああ、だめだ、昨日雅治とどうやって別れてここまで来たのかが思い出せない。二件目まではなんとなく記憶はあるけど…。

今日は講義午後からだし、まあサボっても別にそんなに問題はないだろう。

久々に酔っ払ってしまった、と後悔しつつごろんと横に寝転がる。

「へ、」

な、な、な!?なんで雅治がここに!?

え、待って待って、えっと、昨日は雅治と焼肉屋いって、そこでハイボールぶっかけた。そこまでは絶対あってる。ちゃんと覚えてる。で、そこから二件目。居酒屋行って、その後は…!

どんなに一生懸命思い出そうとしても、この状況に至るまでの記憶が全くない。なんで!?なんでこんなとこで寝てるの!?

ばっ、と思い切り雅治の上の布団を剥ぎとってみた。ああよかった、服はちゃんと着てる…、ってことは、や、ヤってはないよね?

「ま、雅治!」
「…ん、?」
「ごめん!この状況を説明して欲しい!」
「…名前、もうちょいこのまま」
「う、うぇっ!?」

寝惚けている雅治に、がばっと布団ごと抱き締められる。まま、待って待って何これ心臓持たない…!

「雅治、おっ、起きてってば!」
「昨日、」
「う、うん?」
「名前が泥酔して、」
「…みたいですね…」
「心配だったけぇここまで送って、」
「う、ありがとう」
「したら帰るなって名前ちゃんが可愛いくおねだりを…、」
「ぎゃあああ嘘!!!」

暴れるわたしを離しはしないと雅治はがっしりホールドのままだ。
記憶にないとは言え、そんな恥ずかしい事をまさか自分から…。し、死にたい。今すぐ人魚姫みたく泡にでもなりたいよ…!

「安心ししゃい、何もしてないけぇ(生殺しだったけど)」
「そ、それはそうだと思うけど…」
「なんじゃ、ちょっと前まで毎日一緒に寝とったじゃろ」
「それとこれとは全然違うの!」
「何が」
「何が、って…」

何が、と言われるとそれは今ここで伝えるわけにはいかない。だけど今までと今とじゃ、わたしの気持ちも、わたし達の関係も違うから…!

「意識して、ほしいんじゃ」

後ろから耳元で囁くように、雅治がそう告白してくれた。意識なんて、とっくにしちゃってるよ。今だって、心臓が全力疾走した後みたいにばくばくいってる。

「何もせんけぇ、もうちょっとこのままでおりたい」
「…っ、う、うん」

わたしも、嫌じゃないから。とは口に出して言えなかった。とてもじゃないけどそんな台詞わたしからは言えない。一体昨日はどんな駄々のこね方したんだ。お酒の力って怖い。

「ま、雅治」
「ん?」
「昨日、わたし何か変なこととか言ったりとか…」
「変なことって?」

例えば、わたしの心の奥の奥にしまってある、気持ちとか。

今度はわたしが頑張る、と決意はしたものの!実際に何をどんな風に頑張ればいいのかがわからない。

気付いて欲しいなんて我が儘な事は思ってないけど、かと言って生まれてこの方告白なんかした事ないから、どうやって雅治に気持ちを伝えたらいいのか本当に、知らなくて。

どきどきするし、そわそわもする。自分が自分じゃないみたい。雅治相手にこんな感情、昔の事を思い返せばありえない、のに。

付き合えないと言った。一度雅治を突き放して、傷つけた。都合のいい話は、簡単には出来ない。

「雅治、」
「んー」
「今日大学は?」
「名前とずっとこのままおれるんならサボる」
「じゃあわたしも」
「…(あーくそ、可愛いのう)」

ぎゅう、とわたしを抱き締める力が強くなる。嬉しいのかな?わたしも同じように今幸せだと思ってるよ。だからもうちょっとこのままでいよう。




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