飲み過ぎ




二件目、の次は三件目に行こうと、酔いつぶれた名前は言った。

もうやめときんしゃい、と俺が言うても聞かんくて、三件目は俺が良く行くダーツバーに行く事になった。

「雅治はあー、ほんっとにだらしない!だらしないんだよー」
「あーはいはい、その通りじゃなー」
「そんでもって冷たいしー冷めてるしー」
「同じ意味じゃけどな」
「んー、んーんー、でもー、優しいからあー、モテるっていうかー、顔!顔がね!イケメンなんですよね!」
「名前、飲み過ぎ。水もらってくるけぇ待っとけ」
「えー!だめ!行っちゃやだよー!」

これが素面ならどれだけ嬉しいか。行っちゃやだ、なんて普段の名前からは絶対聞けんお言葉じゃ。ボイスレコーダーでも仕掛けときゃよかった、と思いつつ無理矢理名前から離れた。

「水ください。あともしアイツがここに来たら全部ウーロン茶で出して」

アイツ、と指を差した先には名前。何故かこの短時間で俺以外の奴に絡んどる。何やっとんじゃ全く。あんまり甘やかすもんじゃないのう。

「名前、水飲みんしゃい」
「はあー?水とかいらないしー、つーかお酒もらってきてよー、ウォッカベースがいいなー」
「ダメ。ほら、離れて」

知らない男に絡みつく名前を見せられて、もちろん俺はいい気がせん。「すいませんコイツアホで」と頭を下げて強引に男から引っぺがす。

「雅治ー、ふふふ、ヤキモチですか?」
「…そうじゃけど?」
「…あ、う、ば、バカー!」
「いて」

手に負えんな全く。ここまで泥酔した名前は初めて見た。元々そんなに酒に弱くないはずなんじゃけど、流石に今日は飲み過ぎとる。どうにか言いくるめて一旦店の外に出た。
天気予報は晴れのち曇り、じゃったはずじゃけど。ザーザー降りとか、傘持ってないし。

「名前ちゃん、雨じゃ、雨」
「雨ぇ?」
「もう帰るか?」
「…雅治」
「ん?」
「なんか、わたしと早くお別れしたいみたいだね」
「…そんな事ないぜよ」
「いやあるね。絶対ある。帰りたそうな顔してる!」

それは名前の明日を考えて、とは言わんかった。酔っ払いに何を言ってもどうせ明日には忘れられるんじゃし。今日の事を綺麗さっぱり忘れられるのは辛いけども。

「…久しぶりに会えて、嬉しいのはわたしだけ?」
「え…」
「もっと一緒にいたいって、思ってるの、わたしだけなのかな」

涙声でそんな嬉しい言葉言われたら、本間に俺の好きなようにしたくなるんじゃけど。我慢しろ、理性を、と脳内に全力でストップをかけながら、名前の背中を擦る。

お前だけなわけないじゃろ、そんなの俺はずっと前から思っとる事ぜよ。会えて嬉しいし、何度も抱きしめたい衝動に駆られた。それが出来たならとっくにそうしとる。

傷つけたくないんじゃ、精一杯、俺のやり方でお前を振り向かせたいと思っとる。今日がだめでもその次、次がだめならそのまた次、ってそうやってチャンスを自分で作って行こうとも思っとるよ。

名前に嫌われる事だけが、唯一怖い。

「名前は俺の気持ち知っとるじゃろ。思ってないわけない」
「っ、そ、そう、かもだけど、」
「また誘うけぇ、今日は帰ろ、な」
「…うん」

これ以上一緒におったら、俺は自分を抑えきれる自信がないんよ。




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