吐き出す




バイトではミスの連続。家では自炊を殆どしなくなった。テレビを見たって本を読んだって、笑い合ったり共感してくれる人がいなきゃ、何も楽しくない。

雅治と居た時の方が何倍も楽しくて、不安な事なんて何ひとつなかったのに。



「あんたなんか痩せた?てかお昼そんだけ?」
「うーん、なんか食欲なくてさ…」
「言ってみたいわー。いやでも食べなきゃだめだよ?ただでさえ細いのにそれ以上いったら可愛いくないって」
「だよね、…わたしって可愛いくないよね」
「…いつになく病んでるっぽいね。何かあったの?」

何かあったと言えば、それは確実にあった。わたしは本当に可愛いくない。自分から雅治を突き放したのに、一人で後悔したりとか、勝手に食欲は失せていくし、やってる事と心がちぐはぐでめちゃくちゃ。


事の一連を初めて人に話した。あーとかうーとか途中で唸りながらも、友達は最後まで口を挟まずに聞いてくれた。

「…それで、もう今は一緒に住んでなくて。一人暮らしって大変なんだなって改めて痛感してるところ」
「いやそうじゃないでしょ!てかなにそれ名前!意味わかんない」
「…うん」
「いい?よく聞いて」
「…はい」
「好きっていう気持ちはね?頭で考えるものじゃないんだよ。恋愛は全部ここ!ここで考えるの!」

熱弁する友達が、わたしの胸のあたりをトンと小さく叩く。そして更に、ずいっと顔をわたしに寄せた。

「あの人のことが気になる、他の人にとられたくない!わたしが幸せにしてあげたい!猿でもわかるわ!」
「さ、猿って…」
「あんたは猿以下!理系でもない癖に色んな方向から物事を見て、それで何がわかるの?先の恋より目先の恋よ!お互い幸せになろうね、なんてクソ喰らえなんだから!」

流石に前に大失恋しただけの事はあるというか、説得力が半端じゃない。わたしは当然何も言えなくなって、宗教のように、この人の仰る通りだと思った。

「…待って、あたし超良い事言ったっぽくない?」
「うん。感動した。もう総理大臣になりなよ」
「え、初の女性?なろうかな。今のあたしだったらいける気がするわ」
「…わたし、変わりたい」
「変わる?え、整形するの?そういう事言ったんじゃないよあたし」
「違う違う、整形とかしないって!でも、今すぐ雅治のとこに行くのはなんか…なんか違う気がするって言うか、虫が良すぎるじゃん。あっちはあっちで、もしかしたらもう彼女作ってるかもしれないし」
「ありえるねー。あの顔だもん、普通にありえる。それだったら、」
「うん、今度はわたしが頑張るよ。奪ってみせるっていうのも悪女っぽくてどうよ?」
「いいんじゃない?…あんたから頑張るって言葉が出るとは思わなかった」

雅治の震える手が頭から離れない。あの時、どんな気持ちで、わたしに想いを告げてくれたんだろう。自分の気持ちを、その人本人に打ち明けるのって、きっととんでもなく勇気のいることなんだと思う。

今度はわたしが勇気を出す番だ。まず一歩、次の一歩をどこへ踏み出すかは、その後考えたらいいんだ。依存は良くない。だけどお互いを求め合うのはきっと良い事なんだ。

「あたしだったら今すぐ雅治くんとこ行くけどなー」
「うん、でもわたしはまずは一歩から、頑張ってみるよ」
「…溜め込んだら吐き出しに来なきゃだめだよ?」
「ありがとう。…なんかすっきりした!お腹空いてきちゃった!お昼こんだけじゃ足りないな」
「コンビニ行く?あたしもなんか甘いもの食べたい」
「太るよー」
「今はフリーだからいいんですー」




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