おかしい。絶対おかしい。どうかしてる。
仁王くんと付き合い初めて早三か月。正直一週間、もって二週間だと思っていた。だって彼は絶対にわたし以外の女の子と遊ぶと思ってたし、過去にそうしていたんだから、そう思うのが普通だ。

それなのに仁王くんは全然、全くわたし以外の女の子に興味がなくなったみたいに、ウザいくらいにわたしにべたべたしてくるし、人目も憚らずにイチャイチャしようとしたがる。嬉しいことなのかもしれない、喜ばしいことなのかもしれない。だけどわたしにはまだ、そんな風には思えなくて。逆に怪しいと感じてしまう。


「浮気してると思うの」
「え?」
「仁王くんだよ!絶対浮気してる!だってありえないよ!わたし一人とずっと付き合ってられるわけないし!」

仁王くんと付き合った翌日、学校に行けば、わたしからも、恐らく仁王くんからも言ってはないはずなのに、「きっと大切にして頂けますよ」と柳生くんに笑って言われた時は、本当に驚いた。柳くんに廊下ですれ違った際にも「なかなかお似合いだと思っている」と何を根拠に言っているのかわからない事を言われた。ていうかどこからの情報なんだろう。

一応付き合っている内に周りのみんなにもバレていって(ていうかあんだけ校内でベタベタされたらバレないわけない…!)、今じゃ多分学校内でわたし達が付き合っていることを知らない生徒はいない、と思う。いや、真田くん辺りは知らなそう、ていうか興味無いだろうな。

「仁王君が浮気を…」
「柳生くんもそう思う!?」
「いえ、何故そう思うのですか?」
「な、なぜって…えー、なんか、なんとなく怪しいっていうか、女の勘ってやつだよ」
「なるほど。女の勘は当たるといいますからね。でも実際に目撃した訳ではないのでしょう?」
「う、うん」
「それでは仁王君が少し可哀相ですよ。と、言っても彼の今までの行いが良ければそのような事は思われないのでしょうけど」
「そうだよ、あいつの行いが悪いのが悪い!」
「では私も協力しましょう」
「え!?いいの!?」
「ええ、私にとっては仁王君も友達ですが、名字さんも大切な友達ですから」
「や、柳生くん…!」

あんたって人は、と目を潤ませる勢いでがっ、と熱い握手を交わす。仁王くんとは違って、暖かい手だった。
ゴキブリが一匹居たら、後100匹は居ると思え。これと同じように、仁王くんにも女の子が一人居たら、後100人は居ると思った方がいい。例えが少し気持ち悪いけど、これに近い。
一回目は許すと言ったけど、一回目撃した時点でそれはもう殆ど黒だ。目撃した所で仁王くんに別れを切り出せるかどうかわからないけど、少なくともわたしは、傷ついてしまう、と思う。

実は今日、昼休み仁王くんに一緒に帰ろうと言ったら、「今日はすまん、用事があってな」と言われて何かをはぐらかされるみたいに頭をわしわしと撫でられた。いつもより少し強めの力だった。怪しい。かなり怪しい。
今は試験週間の為、部活は自主練習とされていて、出たい人だけ出ればいいという風になっている。仁王くんは出たり出なかったり不規則らしい。毎日出ていると柳生くんから聞いた、真田くんとは大違いだ。

基本的にわたしの所へ来て、べたべたして満足気に自分のクラスへ戻っていく事が多いんだけど、たまにわたしから仁王くんの所へ行って、それこそ今日みたいに一緒に帰ろうとか放課後どこかへ行こうとか誘っても、断られてばっかりだ。

それってちょっとわたし、可哀相だと思うのです。別に、別にいいんだけど。ちょっと寂しいっていうか、彼氏に何度も断られたらわたしだって悲しいっていうか、傷つくんだよ。


「今日も見事に断られたからね、まだグレーだけど、これから黒になるよ」
「…名字さん、よりによって尾行ですか」
「え、だ、大体こういう時って尾行するんじゃないの?さっき購買であんパン買っておいたけど。はい、柳生くん」
「刑事ドラマの見すぎですよ、というか今時刑事ドラマでもあんパンは見ないですね」
「まあまあ、いいじゃない。雰囲気が大事だよ。なんかほら、尾行してるんだ!って気持ち入るじゃん。そういうの大事じゃん」
「相変わらず面白いですね。あ、仁王君ですよ」
「よし、ミッションスタートですね柳生刑事!」
「(こんな形で協力する事になるとは…)はいはい」

教室から出てきた仁王くんを廊下の後ろから少し間隔をあけて尾行開始。彼女の誘いを断っといて、一体どこへ行くというんだあのエロホクロ。も、もし本当に別の女の子に会いに…とかだったら本当、どうしよう。

それから仁王くんは普通に昇降口を抜けて、校門を抜けて校外へ出た。どうやら浮気相手は校内の人間じゃないらしい。まあ、初めて遭遇した時みたいに、綺麗な年上のお姉さんと、というパターンがあるからね。仁王くんの垂れ流しフェロモンの力は本当に侮れない。

「名字さん、もう少し上手く隠れないと、バレると思いますよ?(もうバレていると思いますが)」
「だって見失っちゃうよ」
「私は目はあまり良い方じゃないですけど、そんなすぐ見失ったりしませんよ」
「そうかな?じゃあこれ、あんパン食べていいかな」
「(この流れで何故)…突っ込みが追いつきませんね」

仁王くんの背中は相変わらず猫背で、ポケットに手を入れたまま未だ誰とも密会せずに歩いている。
気が付けばもう街の方に出ていた。


「わたしが街に行こうって誘っても断られるのに…」
「何か理由があるんですよ」
「他の女の子と遊ぶから?」
「決めつけてはいけません。真実を知るまではわかりませんよ」
「…だって」
「(仁王君もですが)…名字さんは仁王君をとても慕っているのですね」
「し、したっ…慕ってないよ別に!普通だよ普通!」
「ちょっ、声が大きいです…!」
「あっ…」

だって柳生くんが変なこと言うから…!わたしが仁王くんを本気で慕ってるなんて、だってそれは彼女だし、好きあってなきゃいけないし、でもあんな100円ゲームで決めたことだから、だから…!

わたしが本気で仁王くんを好きになっちゃった、なんて、そんなのなんか悔しくて、本人には絶対言えない。言えるわけない。

表なら付き合う、なんて上から目線で仕方なく付き合ってあげるんだよって、そんな風に始まった恋なのに。それなのにわたしが、仁王くんに本気で惚れてるって言ったら、彼は何て思うんだろう。


「み、みつかっちゃったかな…」
「どうでしょうね」
「え、ていうか、仁王くん居なくなっちゃってるよ!」
「そうですねぇ、見つかるより見失う方が先でしたね」
「そうですねーじゃなくて!えぇ、どうしよう、どこ行ったんだろう」


「何しとんじゃ、お前ら」


「…え?」
「では、私はこの辺で」
「えええ!?」

「柳生、お前さん明日自主練出ろ、俺も出るけぇ。試合じゃ」
「穏やかじゃないですね。嫉妬深い男は嫌われますよ」
「元々そんなに好かれてないんでな」
「すれ違ってしまわないように気を付けて下さいね」
「は?」
「では、失礼します」

「や、柳生くーん!」
「名前、お前はこっちじゃ」

そうして仁王くんに首根っこをつままれた。思わず変な声が口から出そうになる。ちょ、扱いがいつもと違うんですけど!わたし猫じゃないんですけど!!


「すいませんほんの出来心で、ほんっとすいませんでした」
「謝罪はいいけぇ、ちょっとついて来んしゃい」

仁王くんの手が首根っこから、今度は手首に移動して、そのままずいずいと引っ張られて、わたしは仁王くんの行くがまま着いて行った。



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