04
翌日、昨日仁王くんと一緒に居たクラスの女の子がぶつかった事を謝ってくれた。こんな可愛いくていい子なのに、どうして仁王くんはこの子に本気にならないんだろう。(わたしが男だったらこの子と付き合うのにな)


「柳生くん、この本面白かった!ありがとう!」
「それはよかったです。ラストの裏切られた感じが私はすごく気に入っているんですよ」
「裏切られた感じ…」
「あ、名字さんは気に入りませんでしたか?」
「えっ、あ、いや、わたしもすごくいい裏切られ方だったと思った」
「やっぱり私と気が合いますね。また何かいい本に巡り会ったらお貸し致します」
「うん、わたしもいい本見つけたら貸すね!」

裏切られた、正にそんな感じだ。せめてこの本みたいに、いい裏切られ方をされたかった。それともわたしの考え方が堅いだけで、もっと柔軟に昨日の事を考えたら、裏切られた、という考えには辿り着かないのかな。

「ねえ、柳生くん」
「何です?」
「仁王くんてさ、心臓に毛生えてないんだって」
「…えっと、それは、どういう意味です?」
「わたしね、あんないっぱい女の子と遊んでるくらいだから、度胸あるんだろうなあって思ってたの」
「ああ、なるほど。…仁王くんは、全く真反対にいますね」
「反対?」

「彼は人よりも、臆病なんですよ」



柳生くんの言ってたことが全然理解出来ない。仁王くんが臆病?そんなバカなことあるわけない。臆病な人は普通、日曜のカフェで頭にコーヒーかけられたり、資料室で思い切りビンタを喰らったりしないはずだもん。

「意味わかんないねー…」

家でごろごろと猫と戯れつつ、リビングで携帯を眺めていると、登録のない知らない番号から突然着信が入った。え、何、誰?

「はい」
『あ、私です、柳生です』
「え、柳生くん?」
『すみません、番号変わったんです』
「あ、そうなんだ。じゃあ登録しとくね」
『はい。あ、それと、もしよければ、なんですが』
「うん?」
『今から少し学校に出てこられますか?』
「え、今から?」

なんだろう、珍しいな。柳生くんが電話してくること事態珍しい事なのに、学校にわざわざもう一度行く、なんて。少し面倒臭いけど、柳生くんのお願いなら、聞かずにはいられない。

「いいよ、行く。部活終わったの?」
『あ、はい。じゃあ昇降口で待ってます』

本当に用件のみで通話は終了した。わたしはもう一度制服に着替えて、すぐに家を出た。



昇降口で、と言ったのは柳生くんの方なのに、そこへ行っても彼は居なかった。「おーい柳生くーん」と少し大きな声で呼んでも返事はない。部活終わったって言ってたのにな。
とりあえずテニスコートの方へ行ってみると、茶色い頭が見えた気がした。

「あっ、柳生くーん、おーい」

近づくと柳生くんは振り返って、にこりと笑って「すみませんこんな時間に」といつもみたいに遠慮がちに言う。

「寒くないですか?」
「平気だよ全然。柳生くんは半袖で平気なの?」
「私は先程運動したばかりですから」
「そっか」

それから一緒に昇降口に向かって、少し空いたスペースに二人で腰掛けた。柳生くんは本当にジェントルメンで、わたしが座る場所にハンカチを置いてくれた。…あれ、でもこのハンカチって、確か。

「これ、わたしの?」
「…バレたか」

いつもの柳生くんの声じゃない。え、…この人は、誰?

「…に、おう、くん?」
「プリッ」

するり、と頭からヅラをとると、現れたのは綺麗な銀髪。また、騙されてしまった。この男に。





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