一緒に居て欲しい、とわたしから少し大胆な発言をして一週間。
仁王くんは本当にバイトをやめたらしく(どこでバイトしてたかは何故か教えてくれない)、わたしの誘いも断ることはなくなった。それどころか毎日のように部活帰りに二人で寄り道して帰る日々だ。
自分で言うのもなんだけど、わたしと仁王くんは所謂今、ラブラブ、なんだと思う。

もしも仁王くんがこれからも本当に、本当にわたしだけを好きでいてくれるとしたら、それはすごく幸せなことだし、もちろんわたしもその倍幸せにしたいくらいの心持ちでいるつもりでいる。

それはそれとして、ここからが本題。いや、難題だ。実はわたしは未だに…し、処女なのです。バージンなんです!

ついこの間までは別に処女ですけど何か問題でも?的な、初めては結婚する人とがいいんですけど的な考えを持っていたのだけど。だけど彼氏が仁王くんとなれば、そんな考えは嫌でも改めなくちゃいけなくなると思ってたし、すぐに喰われると思い込んでいた。

なのに。それなのに。
わたしの身体は未だ純潔。れっきとした処女。
そりゃあ何度か「俺んち行こ」とか「ホテル行くか?」とか冗談か本気かもうわたしみたいな経験不足女じゃ判断さえつかない発言はされたことはあるけど。
わたしが嫌だと言ったら仁王くんはすんなり言うことを聞いてくれるし、しまいには「名前が嫌がることはしたくないぜよ」とか付き合う前に人のファーストキス奪った奴が何言ってやがる、てことまで言ってきたりして。

ますますわたしには、仁王雅治という男がわからない。一緒に居たいと自分から豪語した手前、仁王くんが何考えてるかわかりません、じゃそれはまずいと思うんだけど。
今までの女たらしと言われていた、あの仁王くんが!まさかわたしに未だに手を出してないなんて、誰が信じるでしょうか。
過去に何人も彼女いた仁王くんは偽物だったのかな?それとも無理してわたしに合わせてくれてるのかな。いろんなことを我慢して付き合ってくれてるのかな。だとしたらなんか、申し訳ないっていうか、そんな無理してわたしと付き合ってほしくない、と思う。(一緒に居たいとは思うけどね)



「おつかれー」
「ん」

部活帰りの仁王くんと、本日も放課後デートをする約束をしていた。(ちなみに昨日も一緒に帰りました)

終わり頃にテニス部をちらっと見に行こうかと思っていたんだけど、昨日買ったばかりの、以前柳生くんに勧められた本を読んでいたらあっという間に待ち合わせ時間になっていた。遅れることはなかったけど、昇降口に着いて間もなく銀髪の猫背は姿を現した。

「髪、ちょっと伸びたね」
「そうか?自分じゃあんまわからん」
「伸びるの早い人はエロいって言うよね!」
「小学生かお前さんは。まあ俺エロいけど」

仁王くんはジュエリーショップの変(一週間前の出来事)の次の日に髪を切った。特徴的だった尻尾みたいな銀色の束は今はもうなくて、さっぱりとしたショートヘア。(男子にショートヘアって言うのもおかしな話だけど)
どういう心境の変化か問いただしてみれば「なんとなくじゃ」と言いながら何故か頭を撫られた。

言うまでもないけれど、学校中の女子達は短いのもかっこいいとか、逆に色気が増した気がする、とかもうざわざわ騒ぎ立てまくりだ。
わたしは別に短かろうが長かろうがどっちでもいい、というかどっちも似合ってるし、どちらにしても3秒以上目を合わせられない程かっこいいから、出来れば一度ダサい髪型にして欲しいと思うくらいだ。

「何食いたい?」
「んー、ラーメンかな」
「また女っ気のないもんじゃの」
「色気とは無縁だからね。仁王くんは?」
「えー俺焼肉食いたい」
「お金ない」
「俺もじゃ」
「よし、ラーメンに行こう!」
「塩がウマい店な」
「えー!とんこつの気分なんだけど!」

つくづくわたしと仁王くんは合わない。わたしが勧めた本を仁王くんはおもしろくなかったと言うし(もう二度と貸さないことにしたよ!)、趣味がダーツなんてそれ女の子でかぶる子いないでしょ、って感じだし。仁王くんとは好きな食べ物も見たい映画も、殆どのものに関して意見が合致しない。

だけど仁王くんは例えば今日みたいに、わたしがラーメンを食べたい!と言えば彼自身がラーメンの気分じゃなくても、わたしに合わせてラーメンに付き合って一緒に美味しいと言い合って食べてくれる。それはすごく嬉しいし、もちろん優しいと思うんだけど、…なんだかなあ。合わせてくれなくても、大丈夫だよって、言いたい。
そんなことしなくても、わたしは仁王くんと一緒に居たいと思っているし、仁王くんの全部ひっくるめて、わたしはもう好きになっているんだもん。



「いただきます」
「うわ、こってり」
「それがいいんでしょ。ほらいただきますちゃんとして」
「いただきます」
「肘つかない」
「…将来有望な小姑じゃな」
「冷めないうちに食べちゃおっと」
「無視か」

塩がいい、と言っていた仁王くん。だけどこの店の人気No.1はとんこつで、わたしも家族で初めて来て以来このとんこつのスープの味が忘れられない。それ程にウマいイチオシとんこつラーメン。
メニューには塩なんかありはしなくて、店に行く前にそのことをちゃんと仁王くんには伝えたけど、「とんこつでいい」とわたしの手を引いたまま歩みを止めることはしなかった。

胸の辺りがきゅん、とする。これこそがときめきというやつらしい。だけども同時に、もやもやとした感情が胸の辺りに突如発生する。仁王くんと出会ってから、わたしの心はどきどきしたりずきずきしたりいつも大忙しだ。慣れる日なんてくるのかなあ。

ラーメンを啜る姿も男らしくてかっこいい。って見惚れなくていいからわたしもラーメンを啜ろう。それはもう女子力を微塵も感じさせない程豪快に。


「ごちそうさまでしたー」

ガラガラと重めの引き戸を開けて店を出る。腹八分目とは正に今のわたしの胃の状態のことを言うんだろうな。
さらりと二人分のお勘定を済ませてくれていた仁王くんにも「ごちそうさまでした」となんとなくお礼も兼ねてわたし自ら彼の手に自分の手を絡ませてみる。返事の変わりに仁王くんも指を絡めてくれた。(相変わらず冷たい手だなあ)

外はすっかり暗くなっていて、上を見れば星がちかちかと輝いている。「明日も晴れかな」なんて本当に内容のない話を振ると「最近雨降らんのう」と適当に返してくれた。

こんな時、ふと思う。
仁王くんはわたしと一緒にいて幸せなのかな?わたしと付き合ってて、楽しいとか嬉しいとか、思ってくれたりするのかな。わたしは多分我儘なんだと自分でなんとなくそう思うし、自分勝手なんだと思う。仁王くんも相当自由人だけど、わたしには合わせてくれる、というか、わたしが喜びそうなことをいつもしてくれる。(き、キスとかね)

更に加えて仁王くんがわたしのために色々な事を我慢してくれているんだとしたら、わたしから仁王くんにあげられるものって、一体なんだろう?
世界中の彼氏がいる彼女は、どうやって彼氏を喜ばせて、幸せにしてあげているのかな。


「に、仁王くん」
「ん?…あー、もしかしてもう帰らんといけん時間か」
「や、そうじゃなくて」

わたしの家門限ないし、とは口には出さずに、足を止めないまま仁王くんの少しごつごつした冷たい手をぎゅう、と強く握る。

「…名前?」
「わたし、だめだね」
「は?」
「やっぱりだめだ。全然」
「…すまん、話がわからんのんじゃが」
「わたしなんか全然、仁王くんと、吊り合ってない」

ぴたりと、仁王くんが足を止めた。わたしも同じように、少し遅れて歩くのを止める。

「どういう意味じゃ」

違うの、仁王くん。怒らないで、聞いて。
一緒に居るって決めたから、一緒に居て欲しいって思うから、だから。

「とっくに、好き、なんだよ」
「!?」
「だからわたしも、もらってばかりは嫌だ」
「な、んじゃ急に、そんなん、」

「わたしも仁王くんに、たくさんお返ししたい。嬉しいとか、楽しいとか、わたしだけもらうんじゃなくて、仁王くんにももらってほしい。わたしから、倍にして、ううん、倍よりもっともっと増やして、あげたいの」

わたしのために、いろんなことを我慢する必要なんてない。
困らせて、時々どきどきさせてくれるくらいで丁度いいんだよ。

「だ、だから要するにね!?」

要するに、要するにさ。


「欲張りで、いていいよ」

顔は赤くないだろうか。声は震えていただろうか。
仁王くんの綺麗な瞳を、初めて3秒以上見つめた気がする。
仁王くんは目は逸らしはしないけど、戸惑ったような表情をしている。そして喉仏が綺麗に上下して、漸く彼が口を開いた。

「都合のいいように、とっていいんか」
「うん、ホテルでも家でもどこでも行くよ」
「…今のでムード壊れかけたぜよ」
「萎える?」
「馬鹿、その逆じゃき」

あんまり可愛いこと言わんで、と路上にも関わらずぎゅうっと抱きしめられる。
こんなことされたら、もう頭の中で仁王くん以外のこと、考えられるわけないじゃんね。





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