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ビンタして



「負けは許されないんじゃないの?」
「い、いやだがしかし…」
「わたしも部員と同じだよ!ほら、さあ来い!」
「いや、名字それは、」
「なんで?わたしが女だから!?でもマネージャーだって立派な仲間じゃん!」

全国大会が終わって、俺達立海は3連覇、を成し遂げることなく、結果は青学に負けて準優勝。常勝常勝と常日頃から言っていた俺達に負けは許されない。真田は手塚に勝った。だけど俺は負けた。(あんなボウヤに)

負けた者には制裁を、ということでもちろん真田から俺はビンタを喰らった。ちくしょうあの老け顔、本気でやりやがって。次は俺が絶対お前に制裁してやるからな、とリベンジに燃えていた時だった。

俺達立海テニス部にはマネージャーが居て、まあ俺が誘ったんだけど、彼女はとても優秀だ。気がきくし頭もいい。おまけに他の女の子達みたいにミーハーじゃないから、俺達をちゃんと真正面から見て、分析して、練習メニューだって個人個人で考えてくれたり。そんな真面目な彼女が、今回部長の俺がビンタされた所を見て、何も言わないわけがない。

突然真田に向かって、「わたしにもビンタして!」と本人は全くの無自覚ドM発言をしたのだ。

はっきり言ってこの状況、超面白い。みんな練習なんかそっちのけで二人に注目している。

「幸村には出来てわたしには出来ないの?わたしの方がブスなのに!」
「えっ、い、いや!名字は決してそんなことは…」

面白過ぎるでしょ名字。なんだよそれ、俺の方が美人って自分で言っちゃうんだ?真田超困ってる。なんだあの老け顔、マジで滑稽過ぎる。

「男らしくないなあ!早くビンタしてってば!」
「おっ、男らしくない…?俺は、男らしくないか?」
「うん、全然。だってわたしにビンタしてくれないじゃん」
「いや、それはお前は女だし、もしかしたら傷になったりとか、」
「しないしない、わたしこうみえて肌とか全然荒れないもん。みてほら、ゆで卵みたいでしょ」

真田の手をとって、ぺちぺちと自分の頬を軽く叩かせる名字。あー、顔真っ赤だよ真田。そりゃあそうだ、アイツ女の子に慣れてないから。ていうか普通そんなことしたら怒られるよ、不埒な!って。

でもそれをしないってことは、少なくとも名字のことを大事に想っているからだ。もちろん俺も大事だと思っている。なんたって彼女は俺達の仲間だからね。でも名字は嫌なんだ。仲間なのに、仲間外れにされてるみたいに思ったんだろうな。

「手加減したら怒るよ」
「…う、うむ、わかった」
「よし!さあ来い!」
「…い、行くぞ、本当に、いいのか?」
「いい!もう思い切りやっちゃって!殺す気で!」

少し目を離した隙に話が飛んでしまったらしい。どうやら真田の方が折れて、ビンタせざるを得ない状況に持って行かれたんだろう。名字は怖がる様子もなく、真田の前で歯を食いしばって立っている。ていうか殺す気でって…君本当に死ぬよ。そんな小さい身体で真田の本気のビンタ喰らったら普通に考えて身体ごと吹っ飛ぶよ。

真田はすー、はー、と深呼吸をして、少し躊躇いながら手を振りかぶった。あーあ、女の子がビンタされるところなんて見たくないよ。まあ見るけど。

勢いよく振りかぶった割には、ぺちん、と変な音が鳴った。うわ、真田の奴やりやがった。本気でやれってあれだけ言われたのに、思い切り手加減しちゃったよ。これはやり直しだな。

「…やり直し」
「なっ、い、いいじゃないか!今のが俺の本気だ!」
「真田の本気と手加減くらい、わたしでもわかるよ」

観念するしか方法はないよ真田。名字は結構頑固だし、俺達と同じくらい負けず嫌いだから。3連覇出来なかったことだって、自分に責任があったんじゃないかって責める位、名字もテニスが好きなんだ。

だから尚更、手加減なんてされたくないんだよ。

「…わたしだって、悔しいんだよ」
「む…?」
「3年間一緒に頑張って来て、最後の夏に負けちゃうなんて。何がいけなかったんだろうって、だってみんないつもと変わらなくて、強かった。なのに負けたってことは、わたしが…!」
「お前の所為じゃない。そんなことは誰一人思っていない」
「そうだけどでも!わたしなりに、けじめっていうか、制裁されなきゃ気がすまないんだよ!」

どんだけ真っ直ぐなんだ、とツッコミを入れたくなるくらい彼女はいつだって真っ直ぐだ。俺達に対して、テニスに対して、自分に対して、決して嘘はつけない。俺が真田に試合でさせたことだって、いい気はしてなかっただろうしね。

「名字、」
「…何?」
「俺には無理だ、出来ん。どうしてもと言うのなら、他の奴に頼んでくれ」
「…それはわたしが女だから?」
「違う。そうじゃない」
「じゃあ何でっ、」
「お前のことが大切だからだ」
「…え」

そんな臭い台詞、一体何処で覚えて来たんだろう。大真面目な顔で、あんな台詞言われたら、俺なら間違いなく吹き出すね。でもまあ、相手があの真面目な名字だからなあ。
俺達だって大切に思ってるけど、それはみんな言わないだけだ。偶々今真田は言ったけど、いつだって俺達は名字に感謝しているよ。

「俺達にとってお前は特別なんだ。お前は嫌がるかもしれないが、それでもいい。お前は大切にされていればそれでいいんだ」
「…不公平じゃん」
「ああ。だけどお前はそれでいいんだ。俺達と平等じゃなくていい」
「なんかそれ、納得いかないんだけど」
「だろうな。でも俺はお前に本気でビンタは無理だ。出来ん。どうしてもと言うなら他の奴に頼め」
「…いい。真田じゃなきゃ意味ないもん」
「…?、どういう意味だ」
「なんでもない。今日はビンタ諦める」
「あ、明日も答えは同じだぞ!?」

もうすぐまた一波乱起こりそうな予感がする。しかもそれは、恋、かな?面白ければなんでもいいや。



fin.




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