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fireworks




「ちょっとここで待っとって」

と、言われたので、言われた通り待っている。もう1時間も。


夏祭りに誘ったのはわたしの方だし、欲張りなこと言えないんだけどね?さすがに1時間をちょっと、と言われてはこっちも困るわけで。せっかく浴衣を着てきたにも関わらず、仁王はいっそ褒めてくれないし。元々ダメ元で誘ったから、OKしてもらえただけで既に奇跡だったんだ。ちょっと舞い上がって、期待なんかしてみたりして、も、もしかしたら脈ありかも…!?なんて思ったわたしがバカだった。要するにわたしは見事あの詐欺師仁王雅治に踊らされたというわけか。ちくしょうめ。

あと30分もしたら、メインである花火が打ちあがってしまう。一人で見るのもなかなかオツなもんか?いや、浴衣のぴちぴち現役女子高生が一人で花火なんて痛すぎる。アホらしい、帰ろう。わたしって奴は本当にアホだな。



「…はあ」

本当は今日、花火をバックにしてロマンチックに告白、なーんて男がやりそうなシチュエーションを考えてきたのに。相手がいないんじゃそれも妄想で終わりだよ。ていうかもうフラれたことになってるじゃんね、この今の状況がさ。

「え、あれ?」

ふと、こんなセットされた髪この際どうでもよくなって髪の毛をいじってみたら。ない、ないじゃないか。この日の為に買った簪が。

「う、うそ、」

…ほんと最悪だ。好きな人には逃げられるし、ひとつも満喫してないこの祭りで髪飾りまで失くすなんて。この人ごみの中探す気なんかすぐに失せるし、ていうかもうどうでもいい。てか、自暴自棄になりそうなんだけど。


「っあ、おった、やっと見つけた」
「!?、に、におっ…!?」

どうして、とこちらが発言するより先に、「あそこで待っとけって言うたじゃろ」と少し不機嫌な顔で言われた。いやいや、不機嫌な顔したいのはこっちだよ!?今まで一体どこで何してたっていうの。まさか別の女の子とも予定がかぶってて、そっちとかけもちとか?…あり得る、かなりあり得る。

「ま、待っとけって、あれから何時間経ってると思ってんの!?」
「え、今何時?」

ぱ、と仁王が右手の腕時計を見る。高そうな時計。どこのだ。なんだよそれどうした。誰からもらったんだよおい。

「8時50分か。花火には間に合ったけええじゃろ」
「……わけねーだろ」
「え?」
「いいわけねーだろこのタコ!今までどこ行ってたの!?わたっ、わたしはついさっきまであそこでずーーーーっと待ってたし、あんたに不機嫌な顔される筋合いなんてないわ!ちっとも間に合ってないっての!」
「…ちょ、名字?」
「わたしと来たくないならOKなんてしないでよ!こんなん着てきちゃってバカみたいじゃん!つーかバカじゃん!ちょっとは可愛いとか言ってくれんのかなと思ったら何にも言ってくんないし、二言目には暑い暑いって、もう北極にでも行っちゃえば!?」
「お、落ち着けって、な」
「わたしが、今日どんな思いで誘ったか、」

何も知らないくせに、とそこまで言い切った後は、声が震えて言葉が続かなかった。

屋上で一緒にサボッたり、お互い部活帰りに待ち合わせて買い食いして帰ったり。そんな友達という心地良い関係に終止符を打ってやろうと思った。わたしは仁王がずっと好きで、友達としてももちろん好きだけど恋愛対象として見てた。それをずっと隠して友達のフリを続けるのは、自分にも仁王にも嘘をついていることになる。それがわたしはとても、とても嫌で後ろめたかったのだ。

うまくいっても、いかなくても、わたしにとって大事な一日になるはずだった。それなのに、仁王と居た時間は本当に僅かなもので。下手したらわたしが一人で待ってた時間の方が長かったんじゃないかな。


「ごめん、わたし花火いいや、見ない。帰る」
「は?」
「仁王は見て帰ればいいよ」

ごめんね、と自分勝手に仁王の前から今度はわたしが消える。だけどわたしみたいに言うことを聞いてくれない仁王は、がっしりとわたしの腕を掴んで引きとめた。
何、何だよ今更。…何でわたし、こんな状況に喜んでんの。何、期待してるの。救いようのないバカだな。


「相変わらず勝手に突っ走るのう。人の話は最後まで聞くって小学校で教わらんかったか?」
「い、痛いんだけど」

そんなに強く掴まなくても逃げないよ、と言いたくなる程込められた力は強かった。

「離さんぜよ。やっと捕まえた」
「…仁王が勝手にどっか行ったんだよ」
「悪かった。ほら、これ。これ探しとったんよ、なかなか見つからんくてのう」
「あ、え?か、簪…!なんで、」
「通った道探したんじゃがなくてな。人が持っとったナリ」
「…そ、それを、わざわざ?」
「わざわざっちゅーことでもないが、まあ、お前さんに似合うとったけぇ、俺が勝手にしたことよ。気に入っとったんじゃろ?」
「う、ん」
「で?」
「え?」

「今日は俺を、どんな思いで誘ったんか、聞かせてくれるんじゃろ?」

そ、それは…ええ!?このタイミングで?と、思っていたら、なんとも言えぬタイミングでバーン!と大きな音が鳴り響いた。そのまま少し離れた人ごみの上を見上げると、大きな花火が、ひとつ、そしてまたひとつ。次々に空高くあがって、夜空に光を、輝きを解き放っている。

花火をバックにしてロマンチックに告白、というのは正にこのタイミング…?もうよくわかんないけど、人生勢いが大事だ。転んでもまた起き上がればいい。七転八倒上等だこのやろー。


「おー、あがったあがった」
「に、仁王!」
「ん?」
「わ、わたしが、今日誘ったのは、」

誘ったのは、ね。


「仁王のことが…」
「…俺のことが?」
「ちょっ、もうニヤニヤすんな!真面目に聞いて!つーか答えわかってんだったらもうよくない!?」
「ダメ。ほれ続き」
「…っ、わ、わたしは仁王のことが、す、す、す…」
「すー?」

「好き!」
「俺も好き」

「…んえ?」
「おっ、名字見てみんしゃい、ハート」

仁王に言われてもう一度夜空を見ると、大きなピンク色をしたハートの花火が打ちあがって、消えて、そして今度は一回り小さな二重のハート花火が大きな音を立てて夜空に咲く。あまりのタイミングの良さにうっかり涙腺を刺激されてしまったじゃないか。花火職人天晴れだ。

「ちょ、っとごめん、さっきの花火の音で聞き間違えたかもしれないから、もう一回聞いていい?」
「何?」
「に、仁王ってわたしのこと、」
「好きじゃけど」
「さ、さらっと…!えっ、いつから?」
「さあ?つーかお前さん、さっきからずっと」

顔真っ赤じゃけど、大丈夫か?とニヤニヤしながら言われては、余計に赤くなってしまう。熟れたトマトみたいに赤いかもしれない。なんとなく自分でもわかる。夏だけど今は涼しいはずだもん、汗なんて殆ど誰も掻いてない。更年期?いやいやだからまだぴちぴちの女子高生だってば。

「大丈夫なわけないでしょ!ず、ずっと好きだった人と両想いなんて、嬉しくて死にそうなのに!」
「…あーもう、何でそんな可愛いこと言うん」
「え?」
「花火もう見たし、帰ろ、てか俺ん家行こ」
「仁王ん家?いいけど、なんで?」

テストはまだ先だよ?と真面目に返すと、仁王は溜息をついてわたしの手をとって歩き始めた。ちなみにいつも試験が近くなると仁王家にお邪魔して勉強を教えてもらっている。故に仁王家に行くという流れにおいて違和感とか不信感は何一つない。ていうか、本当に最後まで花火見ずに帰っちゃうのか。もったいない。

「なんでって、それ聞く?」
「え、聞いちゃだめ?」
「…ちゅーしたい」
「!?」
「なんならここでもええけど、お前嫌じゃろ」
「い、嫌だ!したくない!」
「傷つくけえもっとソフトに言うて」
「ちゅ、ちゅーって、ええ!?わたしと仁王が!?」
「言うとくが、俺は常々思っとったナリ」
「やだやだ恥ずかしいまだ早い死ぬ!恥ずかしすぎて!無理!」
「うるさい、言うこと聞きんしゃい」

と、いきなりほっぺたにちゅーしてきたので、もう大人しくするしかなかった。

「な、なんかお互い意識してギクシャクとか、なしにしようね」
「大丈夫、それお前さんだけぜよ」
「なんでそんな普通なの!?」
「普通に見える?」

不敵に笑った仁王があんまりかっこいいから、花火なんかよりよっぽどこっちを見てる方がいいなと思った。



fin.




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