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好きな子程


今日の合コンに来るはずやった子が来られんようになった、て突然電話がかかってきて、来てほしいと言われた。わたしも暇やったし、彼氏欲しいーて毎日のように言うてるくらいやから断る理由があらへん。所謂数合わせっちゅーやつやとわかっていながらも、そこそこに自分なりに男ウケの良さそうな服を着て、待ち合わせ場所へ行った。


「なんでお前がおんねん」
「…こっちの台詞やし」

待ち合わせ場所に時間5分前に行くと、友達も相手方の男連中もみんな集まっとった。
まさかその中に中学高校がおんなじのクラスメイトが居てるなんて。聞いてない、っちゅーかなんでよりによって一氏!?(白石とかやったらええのに!)

久しぶりに会ったのに、再会の喜びなんて全然湧いてけえへんし、寧ろテンションはだだ下がりや。一氏とは昔から反りが合わなくて、口は悪いし嫌味ばかり言ってくる、ほんまに嫌な奴という認識しかない。それに加えてわたし以外の女子にはわたしと全然扱いが違って、憎まれ口なんて叩きもせえへん。それがまたわたしをムカつかせる。女よりも男が好きなただの変態ホモ野郎や!

近くの居酒屋まで移動して、わたしは一氏とは対角線の場所に座った。目の前に座った人は、イケメンとまではいかんけど、髪型とか気ぃ使うてるって感じで、悪くない雰囲気や。とりあえずこの場では一氏以外の男やったらええわ。

一通り自己紹介なんかを終えて、お酒も進み出した頃、目の前の彼、上野くんが話しかけてきた。

「自分、ユウジと知り合いなん?」
「え、あー、うん。中高一緒で」
「へえ。四天宝寺って可愛い子多いって聞いたことあったけど、ほんまやったんやな」
「え?そうなん?」
「自分が可愛いっちゅーことやで」
「!?」

な、なな、何を言い出すんやこの人!恥ずかしげもなくようこんなこと…!
どう反応したらええかわからんくて、わたしはそのまま俯いてしもた。熱い。お酒がまわってしもたんやろか。いやでもまだ一杯も飲んでへん。

「彼氏おらんのん?」
「…お、おったらこんなとこ来てないよ」
「はは、せやなー。でも名前ちゃん可愛いし、こんなとここんでも出来そうやん」
「お、世辞はいいよ」
「お世辞ちゃうよ。ほんまに思てる」
「あ、う、…あ、ありがとう」

こんなにストレートに褒められたことなんて今までにない。恥ずかしくて、残りのお酒を一気に煽った。あ、かん。なんかめっちゃ顔熱い!

「顔真っ赤やけど、大丈夫?酒弱いん?」
「いや、弱ないけど…き、今日はなんかあかんかも」

そう言うと彼はわたしの耳元に顔をふっと近づけて、小さな声で「連れて帰りたい、かも」とそんな甘い言葉を吐いた。ぼん、と爆発的に顔の赤みが増してしまう。こ、こんな積極的な人初めてで、どうしたらええかわからん。軽いパニックに陥っているわたしの頭を、隣からぱしっと叩かれる。…え?

「飲み過ぎやろドアホ、何鬼みたいに顔真っ赤にしてんねん」
「っひ、一氏」

さっきまで隣には友達の女の子が座っとったはずなのに、いつの間にか一氏と入れ替わっとる。…っちゅーかなんでわたしが叩かれなあかんねん!

「上野はお世辞が上手いだけや。何舞い上がって目ぇハートにしとんねん。お前なんか全っ然可愛ないで」
「は、はあ!?なんなんさっきから!あんたに関係ないやん!邪魔せんといて!!」
「お前みたいなブスは一人黙々と飯食うてるんがお似合いや!」
「な、だ、誰がブスや!」
「お前しかおらへんやろブス」

ムカつく!ムカつくムカつくムカつく!!なんやこいつ!わざわざ席替わって毒吐きに来たんか。ほんまありえへん。相手にするだけ時間の無駄や。
わたしは一氏が持っていたビールを奪いとって一気に飲み干してやった。

「あっアホ!一気とかお前、」
「うるさい!もうあっち行ってよ!一氏の顔なんか見たくない!」

かかか、と体温が一気に上がったような気がする。ふわふわして気持ちええような、気持ち悪いような。隣にいるのが一氏やなかったらどれだけええか。わたしは一氏を視界に入れないように、目の前の上野くんへ視線を戻した。

「大丈夫?あんま飲み過ぎん方がええと思うけど…」
「大丈夫大丈夫ー」
「しんどかったら俺面倒みるさかい、いつでも言うてや」

なんて優しい人なんや。一氏なんかとは雲泥の差やな。一氏なんかゴキブリみたいなみんなから気色悪いと思われる存在に近い。

「おいコラ色ボケ女」
「な、だっ誰が色ボケ女や!!」
「お前ちょお来いや」
「はあ?え、ちょっ何!?」

唐突にわたしの腕を強引に掴んで、無理矢理席を立たされる。上野くんは困ったような顔をしただけで一氏を止めることはせんかった。


そのまま店の外まで連れて行かれて、わたしはそこで思っ切り腕を振り切る。

「な、なんなんいきなり!なんで邪魔すんの!?」

ちょっとは上野くんの優しさ見習ったらどうや!と店の前にもかかわらず構わず声を張った。お酒もまわって、加減がわからへん。
昔から一氏はそうや。わたしが他の男子と喋ってたら今日みたいに邪魔をして、酷い言葉の暴力をわたしに浴びせる。一体何が気に入らんねん。わたしがあんたに何したって言うんや。わたしのことが嫌いなんやったら、もう関わらんといて欲しい。

「お前が上野に色目使いよったから止めたったんやろ。…お前みたいなちんちくりんがこないなとこ来んなや」

何なん、ほんま。わたしがいつ上野くんに色目使うたんよ。何であんたに言われなあかんの。うるさいねん、余計なお世話や。

「…うるさい、あんたに関係ないやろ」
「あるから言うてんねやろ、どうせ合コン来たって誰もお前に興味なんか持たんわ」

これには流石に堪忍袋の緒が切れた。大阪の夜の街にパァン!と気持ちええくらいの音が響く。叩いたのだ。この憎たらしい男を。


「っな、何すんねん!」
「…なんなんや、ほんまに、」
「…あ?」

「わたしのことが嫌いなんやったら、もう放っといて!」

じわ、と涙が出そうになるのを必死に堪える。泣くもんか。わたしの泣き顔なんか見たらそれこそこいつのドS心を擽るだけや。
せやけど一氏はわたしの瞳にうっすら涙が溜まっとるんを見逃さへんかったようで、ぎょっとした顔でわたしを見た。なんやねんもう、帰ってよ。


「好きやからやろ!」


酔ってへんはずの、一氏の顔が、夜でも分かる程に赤い。何、今、なんて?

「なんで分からへんねんドアホ!…好きな女が他の男と仲良くしとったら腹立つに決まっとるやろ」
「す、好きな女、って」

「お前しかおらへんやろ」

意味がわからへん。やって一氏は昔から、わたしには暴言しか吐かん癖に。わかるわけないやん。こんなに難しすぎる、愛情の裏返しなんか。

今まで堪えていたものが、一気に溢れ出した。子どもみたいにうえーんと声をあげて泣いて、落ち着いてから言葉を紡いだ。

「っ、き、嫌いとしか、思えへんわ、あほ」
「なっ、泣くなって」
「すっ、好きなら、普通優しくするやろ…!」
「それが出来たらこんな遠回りせえへんわ」

不器用にも程がある。こんな告白の仕方聞いたことない。わたしもわたしで、お酒のせいで思考も涙腺も大分弱まってしまっとって、頭の中がぐちゃぐちゃや。

「お前は、俺だけ見とったらええねん。アイツに色目使うくらいなら俺に使え」
「だ、だから、使ってないって言うてるやん」

「お前なんか誰も興味持たんへんから、俺が貰ってやる言うてんねん」


遠回りする癖に、ここでこんなに直球を出されたら、心も揺らいでまうやんか。


「そんなに言うなら、本気なら、貰えば?」
「…言うたなお前。前言撤回無しやぞ」

ええんやな?と一氏はわたしとの距離を詰めた。今、手を伸ばせば触れられるこの距離に、あの憎たらしい一氏が居るなんて。こんなに違和感を感じて、こんなにどきどきそわそわすること他にない。

「ほんまに貰うで」
「人のこと散々ブス言うといて、ほんま、わけわからん」

「お前みたいなブス、俺くらいの男がお似合いや」

黙っていればかっこええのに、ほんま一言も二言も多い男や。散々一氏に振り回されて、結局最後はこいつの手の中なんて、ほんまわたしはただのアホや。お酒の勢いで、こんな奴に告白されて、ちょっとでも嬉しいと思ってまうなんて。貰ってほしいと思うなんて。


「…これだけ言わせろ」
「…何」

「中学からずっとお前が好きやった!小春と同じくらい可愛いと思うてた!」

「せやから俺と付き合うてくれ!!」


何もそんな大声で叫ばんでもいいでしょうに。聞いてるわたしの身にもなれこのアホ!
道行く人が一氏を見る。「は、恥ずかしいからやめて!」と懇願しても、今の一氏には関係無いらしい。

「返事は」
「え?」
「俺と付き合うか、付き合わんか、どっちや」

選択権はわたしにある。今まで散々この男に馬鹿にされ続けて、わたしもやられっぱなしでよく悔しい思いをした。一氏とのやりとりはわたしの学生時代の中でも色濃く残ってるし、絶対に消えてなくなったりはしない。わたしは一氏が嫌いやった。それは間違いないあの頃の事実や。


「わたしのこと好き?」
「…あん?」
「付き合いたい?」
「…お前、ふざけてんとちゃうぞ」
「ふざけてへん。気持ちを確かめてんの」
「……なんとか程いじめたいっちゅーやろ」

好きに決まってる、付き合いたいに決まってるやろこの色ボケ女!と一氏はぐっとわたしの肩を固定して、顔を傾けてキスをした。


fin.




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