short | ナノ

やくそく


「…ん、…?」
「おう、なんだやっと起きたか。明日期末だってのに呑気すぎんだろい。つーかお前もうちょいマシな格好で来いよ、短パンやめろ短パン」
「…あり、ブン太?」
「寝ぼけてねーで勉強しろい」

どうやら試験勉強するために訪れたこの丸井家のブン太の部屋のベッドで、休憩するために寝転んだ際眠りについてしまったらしい。にしても懐かしい夢を見た。なんで今更…。

ブン太に言われた通りとりあえずベッドから降りて、ブン太の向かい側に足を崩して座る。「服直せバカ」と言われしわくちゃになって乱れた服を直し、「髪直せアホ」と言われ髪を手櫛で梳く。ていうかあんたほんと口悪いな昔から。

「今何時…?」
「7時」
「7時ぃ?」
「お前が寝てっからだろい」

あの夢でも確か…、ああ、あれは7時に待ち合わせたんだ。ブン太は、覚えてるかな。あの時のこと…あの時約束したことを。

「ねえブン太」
「んだよ…あ、ちょい待てお前口のとこヨダレが」
「え、ついてる?」
「かぴかぴになってる、ったく色気もクソもねぇな」

そう言いながらブン太はわたしの口の端についたヨダレの痕を手でごしごし取ってくれる。この行為でようやくわたしは目が覚めて、次いでに間違いなくブン太はあの頃の約束なんて覚えちゃいなくて、わたしのことなんてなんとも思っていないことが分かった。まあお嫁さんにしたい女がこんなヨダレの痕つけてたらそりゃあ冷めるに決まってるか。

「で?なんだよ」
「え、あ、ああ、いやでも覚えてないのわかったからやっぱいいや」
「はあ?なんだよそれ、気になんだろい」
「…覚えてないと思うけど」
「?」
「秘密基地って、覚えてる?」
「あー、あったな、そんなこと」
「あ、それは覚えてるんだね」
「あの日帰って死ぬほど怒られたからな」
「わたしも、死ぬほど怒られた」
「懐かしいなー、あれ」

ブン太は目を細めて思い出を振り返っているのか、微笑んだ。じゃ、じゃあ、もしかしたら、あのぼでーがーどの件とか、覚えてたりするのかな?

「あの、じ、じゃあさ、ブン太」
「ん?」
「あれ、覚えてる?」
「あれって?…ああ、あれか!」

おっ、覚えてる!?じ、じゃあもしかして未だにブン太が彼女作らないのって、もしかして、もしかしてわたしのことが…!

「お前急に泣きだすんだもんよー、マジ焦った。自分でついて来るっつーから連れてってやったのに。まああの天候は予想外だったけどな」
「…え?」
「え、その話じゃねーの?お前が泣いて俺も泣いちまったっていう…」
「ち、違うに決まってんでしょ!」
「えぇ?じゃあなんだよ、ぼでーがーどの件か?」
「!?」
「つーかぼでーがーどってウケるくね?なんだよぼでーがーどってって感じだよなあ」

おっ、覚えて、る!?でもなんでそんなさらっと…あの時あんなに真っ赤な顔してた癖に…。ブン太にとってあんな指きりはただの子どもの頃の話で、今はそんなの思ってない、時効だって、そういうことなのかな?

わたしは、わたしは今でもあの言葉を信じているのに、ブン太はそうじゃないって、そういうことなんだね。

「…っ、う、っく、」
「!?(デジャヴ…!)」
「ぶ、ぶ、ブン太のばかぁ!」
「は?え、ちょ、おいっ!」

立ち上がってブン太の部屋から逃げ出そうとした。のに、足がもつれてブン太のすぐ隣で転んでしまった。「…高校生にもなって何やってんだお前」と半ば呆れた様子でブン太はわたしを覗き込む。起き上がる気も失せて、そのままうえーん、とあの頃みたいに泣いた。流石にママの名前は呼ばないけど。

「…指きりしたのに、約束破るの?」
「あ、あれはガキの頃の話だろい?」
「…わたし、嫌だよ。ブン太がわたしじゃない人と結婚するの」
「は、はあ!?」
「ブン太はいいの?わたしが、違う男の人と結婚するの」
「……」

何も言わないブン太にますます嫌気がさしてくる。本当に、ブン太にとってわたしなんかもうどうでもいいただの幼馴染でしかないんだ。じわじわと涙が次々に溢れてくる。泣き虫なところも昔と変わってないじゃないか、わたしのバカ。

「わ、わたしだってその気になれば、すぐに彼氏なんか出来るんだからね!」
「なんだよ、それ」
「だってブン太はいいんでしょ、わたしが違う男の人と付き合って、結婚しても」

無言、というのは肯定ということだ。わたしは勝手にそう捉える。何も言わないなんて、ブン太なんかもういい、もう知らない。わたしは起き上がって今度こそ部屋を出る決意をした。のに、ブン太に腕を掴まれてもう一度絨毯さんこんにちは、だ。しかも今度はブン太に両腕を抑えつけられて身動きさえとれなくなってしまった。ど、どういうこと?

「ダメに決まってんだろい!」
「…え、え?」
「え?じゃねーよこのバカ!最後まで人の話聞かねーとこマジ直せっつの。いいか、耳の穴かっぽじってよく聞いてろい!」

こくりと頷く。ブン太の顔が、赤い。逆光でもわかる程、真っ赤に染まってしまってる。


「俺の傍にずっと名前を置いときてぇのは今も変わってねーよ」
「…ほ、本当?」
「でもボディーガードとしてじゃなく、つまり、その」
「つまり…?」
「…っまだ言えねえけど!もうちょっとでかくなったら言う!それまで彼氏つくんじゃねーぞ!違う男と結婚とか言語道断だからな!」
「え、い、今言って!」
「いやだから、」
「す、好きってこと、じゃないの?」
「!?」
「違うの?」

ブン太の真っ赤な顔が、面白くて、それに答えなんてもうわかっちゃったから。困らせたいと思うのも、好きな人にだけだと思うんだ。こんなに顔が赤いんだもん、ヒントだってたくさんもらったし、そういうことなんじゃないかな。

「わたしは好き。ブン太のこと、好きだよ」
「…お前、いつの間にそんな魔性の女になったんだよい」
「…?」

「俺もだよ、バーカ」

そう言ってブン太はわたしの腕を解放すると同時に熱い唇を重ねてきた。「…もちろんファーストキスなんだろうな」とムッとして聞いてくるブン太に、「当り前でしょ」とぎゅうっと抱きついて返答する。

「約束した日からずっと、ブン太一筋だから、わたし」
「俺は約束なんかするよりもっと前だけど」
「え、そ、そうなの?」
「つーかごめん、長年の俺の我慢ぶつけていい?」
「え、何?」
「いや、言葉じゃなくて、こういうこと」

そう言うとブン太はまたわたしにキスをして、それから何度も何度も、角度を変えてわたしにその長年の我慢、というかつまりはわたしに対する愛情的なものを、わたしの身体に流し込んでくる。息が上がって苦しくなった頃には、全身ブン太からの愛でいっぱいになってしまっていた。



fin.


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