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毒の華



「聞いてよ忍足!」
「また白石か」
「今回はひどい!ひどいからマジで!」
「まあ聞いたるわ、何があってん」
「あのね、」


蔵の束縛がひどい。それはもうひどい。

わたしが他の男子と喋るのなんてもうありえない、以っての外だし(忍足ともこうやってこそこそ蔵の目を盗んで話すことしかできない)、携帯の中に入っている蔵以外のアドレスは家族と女友達のみで、男子はもちろん男の先生とさえも話すことを禁じられている。仮に話しているところを見られようものなら、スピードスター越えの速さでやってきてそのまま人気のない所へ強制連行。「俺がおるのになんで話すん?」「あれだけ言うてんのにまだわからんみたいやな?」等責めに攻められまくってそのままお仕置きだ。(しかも性的な)

「さっき体育でさ、転んだの。ほら」
「うわーお前なんやそのガーゼ。ダサいなあ」
「あんたに言われたくないんだけど!いや、ていうかね?蔵とはクラスが違うからさ、わたしのクラスの保健委員が連れてってくれたの。手当もしてくれて…」
「それを白石が教室から丁度目撃したんやな?あいつ今席窓側やし」
「ザッツライト!どう思います!?普通彼氏なら自分の彼女連れてってくれてありがとうな、くらいのもんじゃないの!?」
「まあ今に始まったことやないやん、心配でしゃーないねんお前のことが」
「なんで忍足は最終的にいつも蔵の味方しちゃうのさ」
「別にしてへんけど。ちゅーか嫌なら言えばええやん。男と話したいんやけどー、て」
「ばかじゃないのそんなこと言ったら何されるか…!」

「何を言うん?」

「「え」」

「探したで名前。昼になっても俺のとこ来ぇへんし、謙也もおらんし」

「お、おぉ〜白石!元気そうやな!いや〜よかった!おっ、あ、お、俺昼学食やったわ!ほ、ほなまた後で!」
「あっ、ちょっ!忍足!?」

流石は浪速のスピードスター、逃げ足も尋常ならざる速さだ。ていうか置いていくとかマジないからありえないから!!

「で?名前。何を言うんやて?」

一瞬で全身の毛穴から冷たい汗が流れ出る。やばい、怒ってる。怒ってるよ。笑ってるのに怒ってるのがわかるよ!それくらいオーラ半端ないよ…!

「いやあの、忍足とは少し世間話をしただけでね?べ、別に蔵が心配するようなことは何もないし、うん、わたしはほんとに蔵一筋だからさ!いやマジでほんとに!」
「俺は別に怒ってるわけちゃうで?…ただ、名前がこそこそ謙也と会ったり、見ず知らずの男と保健室に行ったりしてることが悲しいだけや」

世間一般じゃ今の蔵の状態は怒ってるっていうんじゃないかな?くろーいオーラが犇々と伝わってくるし、正直今すぐこの場から逃げ出したい程怖い…!

「あっ、そうだ、わたし今日蔵にお弁当を…」
「話逸らそうとしても無駄やで名前。その弁当持って一緒に屋上行こか」

お弁当に関しては嬉しいらしく、少しだけ、本当に微々たるものだけど嬉しそうな感情混じりに笑った。
わたしのクラスに一緒に戻って机の横から鞄を持って行き屋上へ向かう。蔵の束縛が酷い事を知っている、数少ない理解者である友人はグッドラックと親指を立ててわたしを見送った。ああ、所詮他人事だよなそうだよな。わたしはこれからこっぴどくお仕置きされるんでしょう。口で説教されるだけだといいな。

蔵の束縛は今に始まったことではない。既に付き合う前からわたしに対してだけは異常な程心配性で、付き合ってもいないのに、他の男のとこに行くなだの何だのと言われていた。実際わたしは多少心配される程度は嬉しいし、束縛されること事態は、蔵の一種の愛情表現だと思っている。いるけれども!ここまで酷いと流石に嫌気がさしてくるよ!


「はい、お弁当」
「おおきに。…お、今日もうまそうやん」

お弁当箱の蓋を開けて、嬉しそうに目を輝かせる蔵はさっきとはまるで別人だ。(正直可愛いと思う瞬間のひとつである)
これでお互い食べながらどんな酷いことを言われるかわからないんだからたまったもんじゃない。

「で?何の話しててん。謙也と」
「えー、あー、…最近テニスどうよ?的な」
「嘘はあかんで名前。正直に言うたら許したるし、な?」
「(嘘ばっかり…!)言わないとだめですか」
「当たり前やろ。ちゅーか今日の玉子焼き最高やわ、砂糖加減が絶頂やわ」
「ありがとう」

どんな話の流れだこれ。日常会話みたいになってるけど、内容全然だからね!彼氏が彼女に嫉妬して怒ってるっていうシーンだから!でも玉子焼きは自分でも自画自賛したいくらいの出来栄えだよね。うん。

「…く、蔵の束縛がひどい!っていう話をね、忍足にね、してたんだけど、」
「…で?」
「けど、けどっ、そ、それは蔵がわたしをもうめちゃくちゃ愛してくれちゃってるからであるからして!喜ばしいことであるからして!つまりは蔵大好きーってことを忍足に…」
「じゃあ名前は俺がお前以外の女と二人でこそこそ休憩時間に密会してもええっちゅーんか?」
「え、ええ!?それはだめでしょ!嫌だなそれ!」
「なんでやねん、名前がしてたんと同じやろ。俺が体育で怪我して、まあ怪我するとかそんなドジ踏まんけどやな。そんで保健委員の女の子に連れて行かれて、保健室で手当してもろて。それは名前はええん?気にならんのん?」

なんでこんな意地悪な質問をしてくるんだろう。そんなの嫌に決まってるし、これだけ蔵の束縛がひどいだの、嫌気がさすだの思っておいて、自分が逆の立場だったら嫌だなんて、自分勝手にも程がある。
蔵は既にお弁当を完食して、水筒から熱いお茶を注いでわたしに渡してくれた。複雑な心境のまま受け取ると、蔵はわたしの頭をぽんぽんと軽く撫でる。こっ、このタイミングとか狡すぎる!

「ご、ごめんなさい。もうしない」
「俺も、名前以外の女の子と喋りたいとか思わんから」
「でもね、忍足は蔵の友達だし、お互い良き理解者っていうか、本当に絶対恋愛対象にはならないっていうか」
「んー、せやったらアイツと話してくる、って一言言うてから行って(許可せんと思うけど)」
「!、う、うん!わかった!そうするよ!次から絶対そうする!」
「ん。それとあんまり忍足忍足言わんで。俺の名前呼んで」
「え、あ、く、蔵?」
「もっと」
「蔵」

「ん、名前」

バカップルの会話にしか聞こえないだろうか。だけどわたしは蔵が馬鹿みたいに好きで、蔵もきっと阿保みたいにわたしのことが好きなんだ。好きだから不安になるし、好きだからずっと二人で一緒にいたいと思う。他の女の子が入る隙間なんてきっとゼロにしたいし、蔵も同じ気持ちなんだろう。

いきすぎた束縛は嫌になる時あるけれど、それでもわたしは蔵が大好きだから仕方ない。



「忍足聞いてよ、蔵がまた」
「ちょ、名字後ろ後ろ!」
「え?」

「ほんっまお前はわかってへんみたいやな。やっぱり身体に教えんとわからんらしいな?」

「うぎゃー!忍足助けてえぇー!」
「ちょ、お前それ逆効果ややめろ!し、白石!俺は無実や!何もしてへん!…し、白石?」
「謙也さえいなくなれば名前はもうお前んとこにはこんくなるよな?」
「し、白石、ちょっ、ま、俺関係ないてえぇえぇ!」


fin.




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