「……はあ」
「どうしたの? カロン、さっきから全然集中出来てない」
「ん、ちょっとね……」
 まるで角のような白い髪飾りをつけたカロンが返した。ロイヤルパラディンに入団して早数年。カロンもマロンも十分戦線で戦える人材となり、ここ数日はずっと訓練に励んでいる。一部では黒の賢者、と呼ばれる事もあるらしい。

「ねえユニ、ブラスター・ドラゴンって知ってる?」
「ブラスター・ドラゴン?」
 守護竜やドラゴン・エンパイアの竜たちとは何か違うのだろうか、とユニは軽く小首を傾げた。
「ロイヤルパラディン所属の竜の仔」
「竜の仔……それがどうかしたの?」
「ねえユニ、キミはどう思ってる?」
 質問に質問で返される。
 何が、と返そうとしてカロンの目がふざけたそれではない事にようやく気付いた。

「今のロイヤルパラディンは、弱いよね」
「カロン、いきなり何を、」
「理想ばかり求めていて何か変わると思う? 先日のクラン会議でも、聖騎士団の言う事は甘ったるかった」
 ユニの制止など見えないかのようにカロンは続ける。
「ヴァンガードたちの世界とクレイ、均衡が崩れて来てるのに……主たるロイヤルパラディンがいつまでも夢見てるようじゃこの世界は変わらない、そうだろ」
「……それは、わたしも思うけど」
 毎日毎日模擬訓練ばかり。なんのための騎士団、なのだろうか。
 人々を率いるロイヤルパラディンは確かに理想を求めたからこそ強くなれたのは事実だ。けれど、いつまでも理想を求めるだけではいられないのが現実。

「でも……だからって、どうにかなるの?」
「ブラスター・ドラゴンが今、ソウルセイバーに意見を伺ってる」
「意見?」
「意見というより正確には忠告と言った方が正しいのかな。そろそろ決着が着く頃だと思うよ――ほらね」

 言った瞬間、砂埃が二人の横を通り抜けた。続いて、神殿が崩れる音。どこかの屋根が崩落したらしい。

「カロン、これって」
「……オレはロイヤルパラディンを離反する。ねえユニ、一緒に、来ない?」
「……わたし、は!」
「ブラスター・ブレードの甘さよりオレはブラスター・ダークの現実を取った。ソウルセイバーより――奈落竜の強さを」
「カロ、ン」
「一緒に行こう。現実を見なよ、やるべき事は現実の先にあるんだ」
「っ……!」

――バイロン、さん。わたしは、どうしたらいいんでしょうか。
 カロンの言う通りロイヤルパラディンから離反する者が沢山いるのであれば、最終的にロイヤルパラディンと新興勢力の戦いになるという事は目に見えている。そうしたら治療兵は仕事に駆り出されるだろう。

 力が、欲しい。
 カロンもマロンもシャロンさんもバロンさまも――バイロンさんにも、認めてもらえるような。

「わたし、は、」
 何より、放っておく事は出来ないのだ。
 生まれた頃からの幼馴染みを。この短い人生の大半を一緒に過ごして来た、大切な黒の賢者を。


「――そこで何をしている!」
「ちっ……来やがったか」
 ロイヤルパラディンの象徴たる青いラインの入った白い鎧を纏った騎士が二人に声を掛ける。一般兵だ。
 カロンがぱらり、と魔導書を開く。よく見ればその本は普段持っている騎士団支給のものではない。カロンの詠唱にあわせて光ったそれから閃光が迸って一般兵を攻撃する。
「か、カロンっ!」
「……お願いユニ。答えて」
 カロンが再びユニに腕を伸ばす。

 ――わたし、は。
 ユニの脳裏に力ある賢者がフラッシュバックする。

 そうして、彼女は。
「いいよ、行ってあげる」

 カロンの腕を、ゆっくりと取った。



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