がやがやと酔った船員たちが休息を求めて船内へ足を運ぶ。
ユニが後片付けを終えた頃にはもう船員も全員寝たのだろうか、先程までの賑やかさはなく、静寂の空間が広がった。
起きてても仕方がないので、自室のベッドに寝転がり、ごろごろとふかふかの布団を楽しんでいると、はたまたノックの音。

「…どちらさまですか?」
「俺だユニ、ミストだ」

もう寝ようとしていた頃だったので、少し不機嫌な様子でドアを開ける。
見てみるとどうやら酔っているのか、少しばかり顔の赤いナイトミストがそこに立っていた。

「入るぞ」
「えっ、あの、いやですけど」

サフィールの自室は基本的に寝るためだけの部屋なので、他人を招き入れる様には出来ていない。
それに、ナイトミストが部屋に入ってくることが意味するのはただ一つだけだった。
開けっ放しの扉を見ながら、彼女は溜息をつく。

「…外すぞ」
「だから嫌ですって、ちょっと、聞いてますか…!」

先程までサフィールが寝転がっていたベッドに腰を掛け、彼女の首に結んであるリボンを丁寧に解いていく。
抵抗しても無駄だというのはもうわかっているが、せめてもの抵抗として文句をぽろぽろとこぼしていく。
しかしナイトミストはそんなことを気にする様子もなく、ユニの首筋を舐める。

「…船長、それやめてください」
「いきなりだと痛いぞ、強がるのはやめとけよ」
「そうじゃ、なくて…単純に嫌悪感が」
「ひでえ奴だなぁ、なら遠慮なく」

ぷつり、という音を立て、ナイトミストの牙がサフィールの首筋に刺さる。
当然の反応としてそこからは血が溢れるが、それを彼は一滴も零さずに口へと含んでいく。
所謂吸血行為。
グランブルーのキャプテンことナイトミストは世に名を馳せる純血の吸血鬼の真祖様なのだ。
当然彼が腹を満たすには血を飲まなければならない、サフィールはその事実に目を細めながらもゆったりと与えられる媚毒の効果に抵抗をなくしていく。

「…っ、あ」
「あともう少しだから、な?」
「や、…あの、」

意地悪い笑みを浮かべたナイトミストに、サフィールは口を尖らせ不満の表情を表すが、そんな表情も彼の前では無力に等しく、無抵抗な彼女の上に重心を落とす。
流石に身の危険を感じて必死に足をばたばたと動かせば、ナイトミストは笑いながら徐々に体を密着させる。

「船長、…やめて、くださいよ!」
「このままだと辛いのはお前の方だけどな?」
「それはそうかもしれませんけどえっとそういうのはちゃんと好きな人とあのその」

押し倒された状態で、顔を真っ赤にしながらあたふたとするサフィールに、そんなんだといつまで経っても大人になれないぞ、と苦笑した様子で彼女の髪の毛を弄ぶ。

すると開いていた扉から赤髪の悪魔の姿が一つ。
悪魔と言っても彼はこのグランブルーではかなりの常識人に当たる人物である。

「船長、船員に手を出すなよな」
「悪いなジン、どうしてもヒューマンの血を定期的に飲まねえと」
「相変わらずだな船長、…ていうかお前も、女好きの吸血鬼クルーいるから気をつけろよな」

吸血鬼に注意を払う理由はただ一つ。
彼女ユニは、グランブルーで唯一の人間の女の子だった。




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