「ユニ?」
「え、あ、はいっ!」
「何固まってんの、オレだよ」
「ってああなんだ、カロンか」
「……その言い方は酷くない?」
「だって……で、どうしたの?」
「やっぱり忘れてた。今日会議あるって奈落竜が言ってたの忘れた? ユニだって幹部クラスなんだからそういうの忘れないでよね」
「あ……ごめん。なんか実感なくてさ」

 幹部、なんて。
 今の自分が得られる役職なのだろうかとユニは口ごもる。彼女の中ではまだ、自分はシャロンやバイロン、バロンを凌駕する賢者ではないのだ。例えその魔力が幾ら強大であろうとも。

 カロンに連れられて入った巨大な会議室には円形にテーブルが並んでいた。
 先程ユニの部屋を訪れたばかりのヴァハがユニに気付きひらひらと手を振る。丁度彼女の隣が二席空いていたので、ユニはカロンの腕を引いてそこに着席した。
 室内を見回してみれば普段は奔放でどこにいるのかも解らない魔女たちが珍しく全員揃っていた。ユニの隣に座る月光の魔女ヴァハ、髑髏の魔女ネヴァンに秘薬の魔女アリアンロッド。三人が同時にいるところを見たのは初めてだ、とユニは目をぱちくりさせる。
 ネヴァンの隣には水色の髪の少女が座っていた。漆黒の乙女マーハ。ロイヤルパラディンで無茶な戦場指揮を取った故に謹慎処分を受けていた少女だ。年齢はユニと近く、実際に騎士団では何度か会話をした事もある。
 奈落竜が座るのであろう席はまだ空席で、その右隣にはブラスター・ダークが、左隣にはザ・ダーク・ディクテイターが控えており、ユニは改めて場の空気の重さを感じ取った。

――本当に、わたしがいる意味が解らない。
「それにしても遅いね、奈落竜」
 バイヴ・カーが布をひらひらとさせながら呟いた。それに対して確かにねえ、と隣のヴァハが零す。
「ダーク、なにか聞いてない?」
「俺は何も」
「ふーん……ってかあたしたちなんで集められてんの?」
 マーハの問いかけに全員が口ごもる。ここにいる誰も奈落竜に招集された理由を聞いていないのだ。


 それからたっぷり三十分くらいして、やっと奥の大扉が開いた。漆黒に染まる闇の竜が姿を現す。

「待たせたな」
「いいえ。それで奈落竜、本日はどのようなご用件でしょうか」
 ネヴァンがにっこりと笑って奈落竜の前にドリンクの入ったコップを出現させる。
 ファントム・ブラスター・ドラゴンはそれに口をつけてから重々しく息を吐いた。

「――ロイヤルパラディンを襲撃する」
「ロイヤルパラディンを……!?」
 まさかこのタイミングで、といったふうに場にいた誰もがざわついた。
「そのために各員には戦力の増強を願う。我も今から力を溜める。決戦は――二週間後だ」
 ユニは必死に思考を巡らせた。最近なにかあったかしら、と。考えて、そういえば昨日、惑星クレイの全クラン集合会議があった事を思い出す。各国のクランが一同に会するのだ。確かこちらの代表はブラスター・ダークだったはず。
 解散、と奈落竜が短く告げて姿を消した。重々しい雰囲気は残ったままだ。だが聞かなければ先に進めない。
「あ……あの」
「どうしたんだい、ユニ」
「昨日のクラン会議に出席したのはダークですよね。もしかして昨日、何かあったんですか?」
「……気付かれては仕方ないな」
 はあ、と溜め息をひとつ零してダークが足を組み替える。

「ブラスター・ブレードと言い合いになったのだ。ロイヤルパラディンとシャドウパラディンのどちらがクレイの引導を握るかという事でな」
「ロイヤルパラディンとシャドウパラディンが……?」
「ああ。あいつはロイヤルパラディンこそ相応しいと言った。だが俺はそうは思わない。だからこそ俺たちは――シャドウパラディンに属しているのではないか」
「……オレもダークの言う事に賛成。生意気、勝手すぎ。どうしてオレたちが離反したのか解ってないみたいだね」
 カロンが呆れたようなリアクションを取る。
「そして、決着を付ける事が決まったんだ。二週間後にな」
「だから奈落竜は……っ」
「ああ。各員、やる事は解っているだろう?」
 ダークがちらりとヴァハとネヴァン、それにアリアンの魔女トリオを一瞥した。
「解ってる。今日は満月だ。奈落竜に絶好の魔力を与えるチャンスだよ」
「私の方も死者の準備は整っているわ。アリアンは?」
「あたしの方も上々。薬は着実に出来上がってるわよ」
 それに頷いてから、マーハ、とダークが軽く名前を呼ぶ。
「ハイドックの指揮は取れてる。一般兵も問題ない。ジャベリンやレイピアたちに連絡も回してあるわ」
 再びダークがこくりと頷いた。

「カロン、それにユニ。魔法部隊の指揮を任せても平気か?」
「うん、任せてよ」
「わたしがお役に立てるのなら、幾らでも」
 隣に座るカロンに併せてこくり、とユニは頷いた。
――指揮、なんて。出来るのかしら。

「大丈夫だよ、ユニ。普段通りにやっちゃえばいいから」
「……うん、頑張る」



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