今にも泣き出しそうだ。
どうしようか。

少し虐めて泣かせてみようか。

「悔しい?泣いちゃう?嫌ならおしゃべりの練習でもしようか?」

我ながら、機嫌を逆なでさせるような事を言ったもんだと苦笑する。

ふと、アルエの方を見ると、下唇を噛んで、泣き出してしまうのを必死で止めようと我慢している様子が窺えた。


――しまった、言い過ぎたか?


等と思いながら、アルエを呼ぼうとした瞬間。

「ぐす、レイ、ヴン、さんの、ばかあああっ!ひぐっ、ふえぇぇえええんっ!!」

幼子の涙腺はとても弛いもので、多少我慢した程度では中々抑えられないものだ。
アルエはびーびーと泣き出すとレイヴンの身体を叩き始めた。


――あーあ、やってしまった。


殴られても痛くはないけれど、心は少しばかり痛んだ気がした。
泣き続けるアルエをあやすが、どうにも泣き止んでくれない。

「ごめんって、アルエちゃん。許して、ね?あぁっおっさんの服で涙と鼻拭かないで…」

さんざん泣いた後でアルエがレイヴンの羽織で涙と洟を気がすむまで拭くと、漸く落ち着いたらしくいつの間にか眠ってしまった。

「本当に子どもになっちゃったのね…」

泣き疲れて寝る子がいるとはよく聞く話だが、今のアルエもそうらしい。

「寝顔は可愛いけど、ねぇ」


――あーあ、拭かれたところがカピカピになってるわ。


しかし、アルエはいつまでこのままなのかと、白く汚れた羽織と腕の中で眠っているアルエを見ながら、溜め息をついた。


――早く元に戻りますように…、と。



子どもは涙腺も弛いらしい

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