俺は何かと名前に甘かった。
あいつに行きたい場所があれば、俺は其処に連れてゆくし、あいつが腹が減ったと言えば何かしら食わせる。それがいつも当たり前だった。
 
 
それは名前が我儘な性格なわけではない。
俺が勝手にあいつのしたい事をさせているだけだ。
ただ、名前が俺の側に居てくれればそれで良かった。
名前の欲している物を与えれば、俺の側に居てくれると思ったのだ。
 
 
明日離れてしまったら困る。
手放したくない。
どんな事をしてでも、名前を側に置いておきたかった。
名前の側に居たかった。
名前を手放す事なんて出来ない。
 
愛していた。
ただ名前を好いていた。
それは生まれて初めて知った感情で。
それが恋情だと知った時、絶対に手放したくないと思った。
否、手放すつもりなどなかった。
 
 
 
「ねぇ、キュウゾウ」
「…なんだ」
「キュウゾウはさ、何でいつも私の我儘を聞いてくれるの?」
「……」
 
 
側に置いておきたいから。そんな事を言ったら、名前は何て言うだろうか。謙遜をしたり、俺を見放したりするのだろうか。
 
 
「私の我儘を聞いてくれるのは嬉しいんだけどさ、」
「……」
「でも、何か悲しいな」
「…悲しい…?」
 
 
悲しい?どういう事だ。
自分のしたい事が出来ていると言うのに、一体何が悲しいと言う。
俺は、名前をずっと悲しませていただけだったのか?
 
 
「キュウゾウが私に色々としてくれるのは嬉しいよ?でも私ばっかりで、私はキュウゾウに何もしてあげられない」
「……」
「それって何か悲しくて、少し、寂しい」
 
頼られてない感じがして。
 
 
「……」
 
 
違う。側に置いておきたかっただった。
悲しませるなど、毛頭なかった。
むしろ頼られたくて、名前も側に居させようとしていた。
 
 
「ねぇキュウゾウ。私に出来る事なら、何でも言って。キュウゾウの力になりたいし、それに」
 
 
「キュウゾウが大切で、私、ずっとキュウゾウの側に居たいから」
「…大切…?」
「たまには、キュウゾウの我儘も聞かせて?」
「俺の、我儘……」
 
 
名前は顔を赤らめ、俺を見つめていた。
そんな名前を見て思う。
俺の我儘。それはただ一つだけだった。
 
 
「なら…ずっと俺の側に居ろ」
「え?」
「俺が名前の我儘を聞かなくなっても、ずっと俺の側に居ろ」
「…我儘を聞いてくれなくなったって、私はずっとキュウゾウの側に居るよ?」
 
 
名前は一瞬驚いたように目を見開いたが、やがて穏やかに微笑み、嬉しそうに言葉を発した。
 
 
無理に側に居させようとせずにも、名前は側に居てくれる。
拘束なぞせずとも。
束縛なぞせずとも。
 
 
 
あいつは俺の側に居てくれるだろう。
 
 
名前の表情を見て、すぐに分かった。
名前は確実に、自身の事を好いているという事を。
それは自惚れでも何でもなく、紛れもない事実だった。
 
 
 
 
 
 

笑顔宇華さま(無関心
 
 

 
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