「あ、あー、そうだ!思い出したー!」
すごく棒読みでお客さんが言う。
「ああ?」
「わ、私、実は父にもしものことがあったときは、この劇団のこと頼まれてたんですよねー」
すごい…大根…です……。
「え!?本当ですか!?」
「んなわけあるか!」
私は小声での伊助への言葉に突っ込む。
しかしここは、話に乗るしかない。
「ほ、ほらー、松川さんも支配人だし、何か聞いてたんじゃないですか!?」
「ええ!?いや、別に」
そこで断らない……!!
「聞いてましたよね!?」
「こんな大事なこと忘れてるはずないよね!?」
私とお客さんの顔を見て、状況を把握したような顔をした。
「そ、そういえば、聞いたことがあるような……ないような?」
ないような?じゃないわ!話合わせて!
「要は、団員を増やして四組ユニットを揃えればいいんです。ですよね、ヤクザさん?」
「まあ、そういうことだな」
「だったら、問題ありませんよー!私が新しい劇団員を連れてきますから―!」
「本当ですか!?」
「え、そんな、無茶ですよ!」
この街の役者希望は皆、中堅から大手の劇団所属希望だ。
それなのに、そんな簡単に四組分のメンバーが揃えれるとは思わない……。
「で、その新しい劇団員とやらは何人で、いつ来るんだ。まさか全員その素人みたいなのじゃねえだろうな」
「ええと、一人……いや二人です!大丈夫です。私には父から授かったツテと演劇虎の巻があるんです!」
「やったー!これで劇団は救われる!」
この状況で、このお客さんの言葉を信じているのは伊助、ただ一人。
やくざも信じてない顔してるし、私でさえ信じてない。
「……日没までだ」
「え?」
「今日の日没まで待つ。俺の前に新しい団員を連れて来い」
「本当に待ってくれるんですか……?」
「人数合わせの素人は認めねえぞ。それと九条を役者に戻すのも無しだ」
一瞬私でもよければ、と思ってやくざの顔を見ると一蹴された。私まだ何も言ってないのに。
「心配ご無用!この幸夫さんの娘様がいるからには百人力です!」
何を根拠にこの人は自信満々に行ってるんだろ……。
お客さんが無理矢理提案してくれたからぎりぎり私たちは生かされた。それだけ。まだ生き残れる可能性は低い。でも、0じゃなくなった。
「できなかったら看板は即取り壊しだ」
「わ、わかりました」
「行こう。二人とも。……お姉さんも」
「あいあいさー!」
「は、はい!」
私はお客さんの手をとって早足で歩きだした。
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