01

それでも公演日というのは、近づく。
お客さんが公演をこなす度に、減っていく。そりゃそうだ、私が客でもこんな劇団の公演見に来ない。ご贔屓さんも離れるやつだ。そう確信がもてるほど、ここ最近のMANKAIカンパニーの劇はひどいものになってしまった。
私が脚本書けばいいのだろうけど、いかんせん、最終学歴高校、現代文の成績は2だ。文章がなりたたない。


「少しはまともな脚本家がいれば違うんだろうけどなぁ···」


そう頭を抱えていると、劇場の外がうるさくなってきた。
まさかあのやk···借金取りがやってきたんじゃ、そう思って伊助と顔を見合わせて、慌てて外へ走った。


「九条さん!」


「咲也はそこにいて!開演の準備してて!」


そう伝えて走った。


「きゃあああ!」


先に表に行ってた伊助の叫び声が聞こえる。私の感は外れてなかったというわけだ。頭が痛い。


「おらおらおらー」


金髪の手下くんがショベルカーに乗って、私たちの劇場に突っ込んできているのが見える。


「ああああ!!」


私も思わず変な声が漏れた。というか言葉じゃない。ただの叫びだ。心から漏れた叫び。こうなるまで放っておいたのは私たちだけど、あの銭下馬やくざ容赦ってものがない。同じ人間なのだろうか。···いや、この場合完全に悪いのは私たちMANKAIカンパニーなんだけど。借金返せてなくてもうどれくらい経ったよ、って話だ。まだこのやくざの方が良心的なのかもしれない。これも仕事だしな。


「どうだー!ショベルカーだぞー!つえーぞー!こえーぞー!」


「なんですかその子供みたいな煽りは!?」


「きゃあああ!やめてええ!」


「伊助うるさい!」


私も慌てているこの混乱のなか、こちらをぼーっと見ている女の人に気づく。
え、ここ今危険だよ!?


「アニキー!壊しちゃっていいっすかー!?」


「やれ、迫田。ただし、あくまでも看板だけだからな。建物はバーレスクに改装して使う」


「あいあいさー!」


元気の良い返事で物事を進めようとしてるけど、ほんとにちょっと待って。
「ちょっと、勝手に決めないでくださーい!」


「そうだそうだ!行け伊助ー!」


「ありさちゃんも行くんです!」


「えー···」


そんな無茶な···か弱い乙女にそんなことできるわけないでしょうが。というよりも行きたくない。あの銭下馬やくざ怖い。


「アニキのためならえんやこらー、っと!大型特殊免許とっといてよかったっすー!」


私たちにはよくなかったっすよ、金髪の、ええっと、迫田さん。


「やめてくださーい!」


「どけどけー」


伊助が居てもなお進んでくるショベルカー。私は少し離れた位置から見守っている。だってほら、危ないし。


「ちょ、ちょっと何やってるんですか!?人がいるのに危ないじゃないですか!」


見ていたお姉さんがこっちのことを心配してくれる声がする。
ああ、見たことない人だけどありがとう。今は私たちの良心だ。


「だから危ないと警告した」


しれっと答えるやくざ。私は伊助の側は危ないと判断し、お姉さんの近くに行った。事故に巻き込まれたくない。平和で安全安心が一番。うん、それが大事。


「いや、そういうことじゃなくて!」


「お願いします、古市さん!やめてください!」


「そうですやくz···古市さん。やめてください!」


「ほら、この人たちだってこんなに頼んでるのに!」


ああ、やばい。お姉さんが天使に見える。そしてこのやくざは悪魔だ。間違いない。


「千秋楽までに借金全額耳揃えて返せなかったら、実力行使させてもらうと言っただろうが」


「これから千秋楽なんです!この公演でお金が入れば、利子分くらいはなんとかーー」


そうなんです。千秋楽まで客が0ですが。


「迫田、止まれ」


「あいあいさー!」


ショベルカーが止まる。いや、長い距離走ってんな。あのショベルカー。早く動かれてもそれはそれで困るけど。


「客は入ってんのか」


「ま、まだゼロです」


「公演は何時からだ」


「あと3分です」


「迫田、やれ」


「あいあいさー!」


「待って待って待って」


あまりのテンポの良さに見守ってしまった。このままじゃ潰されちゃう!


「あわわ!待ってください!お客さんはこれから入るんです!」


いや、誰が客なんだよ···私のアルバイト代から出す···?


「どこにその客がいるんだ」


「え、えーと……」


私と伊助で通りがかりであろうお姉さんを見る。これで入ってくれたら天使。いや女神様だ。入ってくれなかったら私たちのこの劇場は終わりだ。さらば愛しのMANKAIカンパニー···。


「お客さんなら、きっと、この辺りにー……」


「あー、あははははは」


お姉さん助けて。まじで。酷い芝居しか見せれないけれども!


「ーー客なら、ここにいます」


女神様ぁぁぁぁぁああああ!
お姉さんが優しすぎて後光が見える。あれ、涙も出てきた。


「ほら!ここにいました!」


「お前、さっきは通りすがりの通行人Aだって言ったじゃねえか」


「これ、証拠のフライヤーです」


え、嘘だ。


「え!?本当にお客さん!?」


私は慌てて伊助の足を踏んだ。


「いっ!」


一瞬蹲りそうになった伊助を、気合いで立たせる。


「これから他にもお客さんが来るかもしれないし、壊すのはせめて公演を見てからにしてあげてください」


···前世でどれだけ徳の高いことをしたらこんな女神様になれるんだろう。すごい。好き。


「お前、この劇団の最近の舞台見たことあんのか」


「え?ないですけど……」


「私もこんな女神様しばらく見てないです!」


「ありさちゃん、しー!」


伊助に口を押さえられる。だって事実じゃん。今回の公演の初めてのお客さんじゃん。千秋楽にしてやっとお客さんじゃん。私間違えてないよ!?


「だろうな。あと九条うるさい」


べー、だ。
あ、睨まれた。怖い。伊助助けて。


「舞台は見たことないですけど、この劇場の看板はなんとなく見たことがあるような気がします。小さい頃に来たことがあるような……」


「ーーそうか」


なんと、あのやくざが懐かしそうに目を細めた。ずっとそんな顔してればイケメンでいい感じのお兄さんなのに。なんでやくざなんだろうな。まあ、ここまで待ってくれた優しいやくざだけどね。


「と、とにかく、公演を見てください!今日は新入団員の初舞台なんです!」


「団員が増えたのか?」


「そうなんです!初舞台を踏む直前に舞台が取り壊されるなんて、そんなかわいそうな役者いませんよ!?」


「そして、その役者はかわいいです!」


「……かわいいかどうかは別として、迫田、その辺でしばらく待ってろ」


「あいあいさー!」


さっきからあの人、あいあいさーしか言ってないな。


「あの……?」


「さっさと開演しろ」


「はい!」


「わ、私、咲也に伝えてくる!」


これはなんだか大変なことになりそうだ!
バタバタと裏に回り、準備してる咲也のもとに行く。


「公演するよ!大丈夫、練習した通り。大丈夫」


この舞台に演出もくそもないけど、仕方ない。
久々に機材を動かしアナウンス用のマイクや大道具やらの最終確認をする。
うん、あとは女神様よろしくおねがいします!


「いきますよ」


「お願いします」


『本日はご来場いただき、誠にありがとうございます』


伊助のアナウンスが始まる。
幕が、上がる。



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