◎君の居場所
「ねえ見た?昨日のTRIGGER出てたやつ!」
「見た見た!藤堂さんは?」
「あー、私見てないわ。てかTRIGGERって?」
アルバイトしている職場で、同年代の子たちが目を輝かせて話している。
「藤堂さんTORIGGER知らないの?!今超人気のアイドルじゃん!」
これ!って言って売り場から持ってきた雑誌には、天を中心とした3人組が写っていた。
それに、ふーん、ってだけ返す。
「藤堂さんってアイドルとか興味ないの?」
「興味ないっていうか、そのグループに興味がないです」
興味がない、当たり前だ。
だって天は、私たちを見捨てたんだ。その感情が拭えない。
あれから何年経ったっけ、なんて思ったりした。それくらい時間が経ってしまった。
陸とも連絡取らなくなったし、今何してるのかも知らない。
だから天のことなんて尚更だ。あの頃のことはもう思い出したくないくらい自分の中では嫌な思い出だ。ワースト3に入るレベル。
そんなこと思ってると来店を告げるベルが鳴った。
皆で反射的にいらっしゃいませー、と無気力な声でお迎えした。
そしたら、他の二人が来店したお客さんを見てざわざわしだした。
どうしたんだろ、って思ってそっちを見るとさっきまで雑誌で見ていた姿が。
「え、え、TRIGGERだよ!」
「え、嘘でしょ!」
興奮している二人と、す、っと静かになる私の心。
「天…」
天が目の前にいる。
こっちのざわめきが気になったのか、彼が振り返る。
私と目が合って驚いたような顔をした。
「ゆきほ…」
天が呟いた声はバッチリこっちまで聞こえてて、他の二人に知り合いなの!?っていう顔で見られる。
その二人に苦笑いで返して、天を見る。
向こうはびっくりした顔したまま止まってて、アホ面に鼻で笑う。
それに反応したのか少し拗ねたような顔をした。
「天、どうかしたのか」
「知り合いか?」
連れの他の2人が天に声かけてたのが聞こえる。
「…別に、なんでもない」
ふい、と逸らされた視線。
そこが天の居場所なんだね。
―――遠いよ。