うーんと背伸びして | ナノ

 画面の向こうの君

あれから、たまにラビチャでチャットするようになって、六弥さんとそれなりに仲の良い関係を築けていると思う。
例えば、他のメンバーの面白いエピソードだったり、その日あったことだったり他愛もない話をするようになった。
そんなある日。ふと付けたテレビから聞こえてきた声に意識が持っていかれた。

『続いてはIDOLiSH7の皆さんでーす』


『よろしくおねがいしまーす』


そこに映ったのは7人の男性アイドルグループ。
もちろんそこには六弥さんの姿もあって、あの日以来だ、なんて思う。
客席も設置されてるこのライブ型の音楽番組は人気でもう結構長いことやってる。いつもはただのBGMとして聞いている番組も、知った顔があるとこんなにも見え方が変わってくるのか、なんて思いながら見る。


IDOLiSH7が名前呼ばれた時の黄色い歓声。
改めてすごいな、って思う。
噂では最初の頃はお客さん集まらなくて大変だったって聞いてたから、今この声援を受けてる分の努力を、彼らはしてきたということなのだから。


そう思って、なんだか私がちっぽけに思えた。
スカウトされて成り行きで読者モデル続けてる自分には、彼らは大きすぎた。そして、もちろん六弥さんも。
画面の向こうの彼はあの日以上に輝いていて、すごく彼の居場所なんだ、って実感したと同時に遠いものに感じた。
遠い、私と彼との距離があまりにも。
あの日、隣にいたのは確かに彼だったのに、今この液晶の向こう側にいる彼とは違う存在なのかもしれない、そう思うほどに。
そして嫉妬にも似た感情が渦巻いた。だって、この前隣に立っていたのは私なのだ。
私、なんだ。


これは、まさか。


自分が抱いた感情にまさか、と思ってしまう。
だって、あの日会っただけで、他に会ったことなんてなくて。
気のせいだ。そう思いながらも輝いたステージの上に立つ彼だけから目が離せなくなっていた。



彼らの出番も終わり、私は無意識にスマホを手に取っていた。
ラビチャを開き、ここ最近一番目にした名前にチャットを送る。


【お疲れ様です。
テレビ見ました。かっこよかったです】



当たり障りないコメント。
その文を何度も考えて、消して、この短い文で終わった。それからは返事も待たずに、寝室へと戻り、眠りについた。
夢の中に現れた彼は、悔しいかな、ステージの上で輝いていた。



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