◎ 慣れてる君
あの後、撮影も滞りなく進み、カメラマンさんもテンション高いほどの完成度の作品が出来上がった。
カエデさんも親指上げて微笑んでくれたから、いい作品が出来上がったのだろう。と思っていいと思う。
写真チェックをさせてもらう。白背景に散らされた花弁と、額を合わせて笑う私と六弥さんの写真が、一番印象に残った。
今回の撮影は雑誌の特集だった。恋愛特集のイメージ撮影。
女性のファッション雑誌の特集らしく、柔らかい雰囲気での撮影だった。
「OH、美しいですね」
一緒に写真を確認していて隣でぼそり、と六弥さんが呟いた。
「そうですね」
「もちろん、アナタがですよ」
私の方を向いてそう言うので、びっくりして六弥さんのほうを見れば、茶目っ気たっぷりのウィンクをくれた。
「六弥さんも素敵です」
「素敵なレディに言われるのは、悪くないですね」
にっこり、笑いながらそう言う彼は、なんだか手馴れてるな、なんて思っちゃったりして。
「撮影は以上になりますー」
「お疲れ様でしたー」
拍手と一緒に撮影終了が告げられる。
私もお疲れ様でした、と言いながら周りのスタッフさんに頭を下げる。
「お疲れ様でした」
「葛城さんも、お疲れ様でした」
六弥さんに頭を下げ控室に戻る。ライトに負けないように派手目に化粧した顔を落とす。
いつものようにナチュラルな顔に戻して、控室を出た。
「待ってください!」
後ろから呼び止められ振り返る。
「六弥さん、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした。よかったらラビチャ交換しませんか?」
アナタと仲良くなりたいです。そう言う彼に少し目を丸くする。
だって今日会ったばかりで、たぶんこの仕事くらいだ、会うのは。
「え、あ、はい」
美形ってこういう時ずるいと思う。
真剣な顔で言われたら、断れないようなオーラがあると思う。
これでまだそこまで売れないアイドルなんだから世の中まだまだだな。なんて思ったり。
「それでは、今度連絡します」
嬉しそうにそう笑う六弥さんに返事をすると、彼は自分の控室へと戻っていった。
そんな彼を見送り、私はスタジオを後にした。
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