そのなな




「オーディション!?」


紡さんの言葉に陸が驚いた声を出す。


「どういうことです?私たち7人で、デビューするんじゃないんですか?」


物事をしっかり掴んでいないと気がすまなさそうな、一織が反論する。
これは上の決めたことなら私は構成考え直さなきゃなあ、なんて思いにふける。


「ごめんなさい!本当にごめんなさい……!」


「そんな……」


せっかく掴んだチャンスを不意にしたくない三月が呟く。


「……オーディションか……」


壮五も小さく呟く。


「マネージャーを責めても仕方ないよ。……わかりました。オーディションの準備をします」


「OH……。昨日の味方は今日のエネミーです……」


ナギが肩を落としながら言う。


「あんたらのうち4人、今日でさよならか」


「なんで自分は受かる前提なんだよ!」


「あっはっは!環いいね!」


自信たっぷりの環に笑いが溢れる。突っかかった三月は不満そうではあったけども。


「受かりてえし」


「……オレだって……。絶対に……、絶対にステージに立たなきゃ……」


陸も熱い思いを口にする。
きっとそうだ、ここにいる皆、そうだ。


「どうなってんのよ、この事務所…」


ぽつりと呟けば、隣にいた大和にぽんぽん、と頭を撫でられる。
いや、慰められてる場合じゃないんだけどね。こういう時にお兄さん発揮されても私困っちゃうなぁ。


「……ごめんなさい……。急な変更で……」


「仕方ありません。ですが、信頼関係がひとつ失われたことは、しっかり自覚してください」


一織の言葉にうんうん、と頷く。


「あ……」


初めてのマネージャー仕事な紡さんには申し訳ないけど、この業界は信頼関係が肝だ。出鼻からこれじゃ、先が思いやられる。


「そんな冷たい言い方……。やむを得ない事情があったんですよね。マネージャー」


「あなたは遊びに来たんですか。これはビジネスですよ。彼女はビジネスパートナー。ステージに立っている間、安心して背中を預けられる人でなければ、顔も名前も託せません」


「ビジネスってそんな……。一織は高校生だろ?大人ぶって背伸びしなくたって……」


「あなたは幼稚園児みたいですね」


「は!?」


「にこにこ手を繋いで。お遊戯の後お昼寝して、先生に花丸貰えれば幸せですか?」


強い物言いの一織に陸が紡さんを庇うように言う。
たしかに高校生らしからぬ発言だけど、それだけ彼はこれに真摯に向き合ってる証拠だ。


「……っ、ちょっとおまえ、年上に対する口の利き方っていうかさ……」


「おまえって言いましたか」


空気がだんだん悪くなってきた。
それに反して私はわくわくしてきた。こういうの好き。若いね。
なんて思ってるとそれを察した大和にちょっと強めに頭に一発もらった。痛い。


「こら!止めろよ一織。ごめんな、口の悪い奴で……」


三月が2人の間に止めに入る。さすがお兄ちゃん。


「ほら、陸くんも落ち着いて」


壮五も陸側に入って2人を落ち着かせる。


「…………っ」


「ふん」


陸と一織はとりあえずは落ち着いたようだが、お互いまだ睨みあってるあたり、納得はしていないようだ。
紡さんは困った顔で何か呟いてたみたいだけど、こっちまで聞こえなかった。


「…………」


大和が思案顔する。そして


「りょうかーい。俺は抜ける」


そう言い放った。


「ちょっと、大和」


「や、大和さん!?」


私の大和への声と紡ぎさんの驚いた声が重なる。


「ここにいる誰かを押しのけてまで、やるつもりはない。俺の志望動機なんて、どうせ復讐みたいなもんだ。まともな夢を持ってる奴にゆずるよ」


「復讐……?」


「じゃあ、お疲れ」


「ま、待ってください!」


そう言って去ろうとする大和を紡さんが引き留める。


「オーディションだけでも、どうか受けていってください。こんなこと、私のわがままかもしれませんけど……。
もっと、見てみたいんです……。歌って踊る、みなさんが見たいです。お願いします!」


「…………」


「若い女の子に頭下げさせて、それでも帰るつもり?」


「OH……。レディ1人に、頭を下げさせるわけにはいきません。ワタシからもお願いします」
「オレからも!」


「僕からも」


メンバーが次々頭を下げるなか、私は大和を見ながら笑うと、困ったように頭を掻いた。


「……馬鹿だな、おまえら。ライバルが1人減るんだぞ」


「そりゃそうだけど、こんな風に減ったって嬉しくねえし」


「…………」


皆のまっすぐな目が大和に突き刺さる。


「……わかった、わかった!やるよ、オーディション」


「ありがとうございます!」


その目に、大和は折れて了承をした。

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