そのご
いろいろ問い詰められるかのように大和が囲まれてるのを見て、大変そうだな。なんて他人ごとに考える。
「なあ、マネージャー、お腹空いた」
「えっ!?」
「このタイミングで…」
大きな子の発言に苦笑する。
なんか私ここに来てからずっと苦笑してる気がする。
「こらこら、マネージャーはお母さんじゃないんだから。それに、さっきお弁当を食べただろう」
「のり弁小さかった」
成長期の男の子にのり弁は少ないかな、って思うけどこの事務所の収入を考えればそのくらいなのも頷ける。
それにまだこの子達デビューもしてないから、そんなにお金かけれないみたいだしね。まあ先々ではいい弁当になることを祈ろう。
「のり弁の上は100円高くなるんだ。日替わりで具も一品多くなるしね」
「私も最初はのり弁だったなあ」
「今は、違うのか?」
「私と君たちじゃ収入が違うのだよ」
「ちぇ…」
大きな子に不服そうな顔をされる。
「あはは、かなめちゃんはうちの出世株だから」
大神さんもそう言いながら笑う。
「次は唐揚げ弁当がいい」
「ワタシはハンバーグ弁当がいいです」
「シングルがランキングに入ったらね」
ちっちゃい子と外国人風の子の意見を却下する。
「それまでずっとのり弁か……」
大和が残念そうな声で言う。
「みなさん、仲がいいんですね。前からお知り合いだったんですか?」
「いいえ、ほとんど初対面です」
「そうなんだ。すごく息が合ってたから……」
皆の様子を見てた紡さんがそういうと、大神さんが思い出したような顔をする。
「そうだ、紡さん。社長が紡さんを呼んでいましたよ。社長室に行ってきてもらえますか?」
「社長が?わかりました。それでは、一旦失礼しますね」
「はい。いってらっしゃい」
赤い髪の子が紡さんを見送って、大神さんと紡さんがレッスン室を出ていく。
「さて、と。あ、君、ちょっといいかな」
赤い髪の子をちょいちょいと手招きする。
ちょっと気まずそうな顔をしたけど、素直に従ってくれた。
レッスン室の隅、他のメンバーに聞こえない場所まで連れていき、くるりと振り返る。
「君、名前は?」
「あ、七瀬陸です。よろしくお願いします、かなめさん」
「うんよろしく。さて、本題に入るけど、君のその息切れさ、気管支からくるものだよね?お医者さんとかに激しい運動しちゃだめですよー、とか言われなかった?」
「…言われてきました…でももうだいぶ!」
「良くなってないよね?現に一番陸が体力ないし、それだけの息切れを起こしている。これからこの業界でやっていくならそれは致命傷にしかならない。わかる?」
「…はい」
しょんぼり、って感じの声で返事をする陸に思わず頭を掻いた。
「あー、叱ってるわけじゃないんだけど、この世界ってさ、体が資本なのね。これから陸は歌って、踊って、走って、パフォーマンスを見せていかなきゃならない。振付師の立場から言って、君だけを特別扱いできないしする気もない。最高のものを作らなきゃいけないからね。でも無理もさせれない。そこのところわかる?」
「はい」
まっすぐにこっちを見る目は純粋で、もうこちらから折れるしかなかった。
「あー…もうわかった!やれるだけやろう!でも、無理だと思ったらすぐに言う!無理をしない!約束できる?できないなら今から社長室行く」
「できます!」
「よし、じゃあこの話おしまい!はい、これからよろしく!」
「よろしくお願いします!」
あー…なんか難しい仕事受けちゃったよこれぇ…。
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