ぷろろーぐ




「あー、轟さん、ちょっといいかな」


「はい」


いつも通り、レッスン室で次の仕事のダンスを練習してる時だった。
所属してる事務所の社長である小鳥遊社長に呼び出された。
仕事も安定していただいてるし、最近では有名なシンガーさんのバックダンサーとしてMVに出させていただいたし、何かその時に非礼でもあったのかな、なんて不安な思いを抱きながら駆け寄る。


「ああ、そんな不安そうな顔しなくてもいいよ。うちの事務所で男性アイドルグループを作ることになったんだけどね、そこの振付師をお願いしたいんだ」


「は?」


思わず変な声が口からこぼれる。
だって私は今までたくさんのステージを踏ませてもらったけども、振付、なんてしたことないのだから。


「なんで私なんですか」


思ったことを素直に口に出せば、社長はいつもの笑みを崩さないまま言った。


「この前、アーティストさんの後ろで踊ったとき、君の感性で踊ったところあったでしょ。それが評判良くてね、ぜひ君にお願いしたいんだ」


確かにこの間の撮影でフリーで動いて構わない、ってところはあったけども、そこが評価されたからと言って、振付師なんて大きな仕事、ただのダンサーに頼むだろうか。
そう思ってるとそれすらも読み取ったのか社長が


「正直な話、外から雇うのがちょっと、ね」


「あー…はい」


芸能事務所、って言ってもうちはそんなに大きくない。
外部から振付師を頼むってなると、余計に経費が嵩むのだ。


「わかりました」


そう答えると、社長はホッと笑ったのだった。

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