そのきゅう
静かに、オーディションは始まった。私は紡さんの横に立って皆を見る。
「1番、和泉一織。17歳。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
紡さんの返事に、課題曲の歌とダンスが始まる。
一織の歌もダンスもそつなくこなすタイプ。高校生らしい弾けた感じはないものの、クールにこなしていく。動きも若くて安定感からセンターにいてもおかしくない。そんな感じを受けた。
「2番、二階堂大和。22歳。どうぞ、よろしく」
「よろしくお願いします」
私、大和の審査しちゃいけないんじゃない?
歌にもダンスにも大和のもとから持っている表現力が発揮されている。世界観に引き込まれるようなその魅力に思わず見入ってしまう。
ちらり紡さんの方を見れば、もうだいぶ大和の世界に引き込まれていた。
「3番、和泉三月!21歳!よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
三月は決して上手いというわけではないけど、その笑顔に、一生懸命なところに心が持っていかれる。アイドルとして、大事なものをちゃんと持っている、そんな感覚だ。
それに、これは私の主観でしかないけれど、やっぱり兄であるからか、どこか大和とは違う頼もしさがあった。グループを底から引き上げてくれるような、そんな頼もしさ。
「うす。4番、四葉環。17」
「よろしくお願いします」
あの少しつたない感じから吐き出される言葉とは裏腹に、ダンスの動きがピカイチ。長身からくりだされるダイナミックな動きに、運動神経のよさが相まって完璧にダンス向き。こういう特化したパフォーマーがいても悪くはない。
歌も悪くなく、まだまだ伸びしろはありそうだし、声がいい。通常時とのギャップが激しいのも売り込みでは大事なとこだ。
「5番。逢坂壮五。20歳です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
一織とは違う安定感のある動き。即戦力になってもおかしくはない。どこにも穴はなく安定感のあるメンバーは必須だ。それに壮五には艶っぽさを感じた。ミステリアスなその印象はどうとっても合格点。
「OH、運命の再会ですね、マイレディ」
「あ、あはは。どうも」
「6番、六弥ナギ。19歳。よろしくお願いします」
彼の動きには優雅さが伺えた。顔の作りの綺麗さもさながら、その動きは王子さながらで色っぽくも美しく踊った。
若い女の子にもマダムにも好かれそうなその魅力は、環とはまた違う彼の持つギャップだった。
「七瀬陸!あっ……。7番、七瀬陸、18歳です!よろしきゅ、よろ、……お願いします!」
「あはは。緊張しないでください。よろしくお願いします」
「はい……っ」
陸は抜群に歌が上手かった。他の人の歌が少し霞むくらい、そのくらい歌が上手かった。緊張してるからどうかと思ったけど、歌ってる姿はもうプロのそれだ。こんな才能ある子が埋もれていたなんて、もったいない。そう感じるほどに。
「みなさん、オーディションお疲れ様でした。審査結果が出るまで、こちらでお待ちください。」
こうして、7人のオーディションが終わった。
そして私たちはレッスン室を出た。
「……かなめさん、どう思います」
「いやぁ…難しいですね。もう私には誰も外せません」
選ぶ、というのがこんなにも難しいことだとは思っていなかった。
皆個性的でよかったし、甲乙つけがたい。それどころか、今私の中ではもうすでに7人でピースがはまってしまっているのだから、選ぶに選びきれない。
2人でああでもないこうでもないと言いながら事務所に向かった。
「どうですか、紡さん。3人選べましたか?……ってあれ、かなめちゃんも審査したの?」
「はい。難しいですねぇ」
「…………。はい。決まりました」
「え!」
私が思案していたら紡さんは少し考えた後、そう言った。
「さすが、社長のお嬢さんです。決断が早いですね。それでは、グループのメンバーを、社長に報告してきてください」
「はい」
そう言って社長室に紡さんが行ったのを見送る。
「はー。どうなんのかなあ」
「ふふっ。大丈夫、きっとかなめちゃんの思うのと同じだよ」
「そうですけど大神さーん、頭使いましたよー」
「はいはい、今コーヒー淹れてあげるから」
そう言ってコーヒー淹れに行った大神さんを見て、あの7人のことを思い返した。
やっぱりどう考えても誰を外すことも私にはできなくて、思いっきり頭を掻きむしりたい気分になった。
「はい、コーヒー」
「ありがとうございます」
紡さんが社長室に行って、私はそわそわしていたら大神さんが安心させるような微笑みを向けてきたので慌てて平常心を保つ。
「かなめちゃんもこれから忙しくなるよ」
「どっちがですか?」
「仕事も、彼らのことも」
「え、お仕事きてるんですか!」
「きてるよー。詳細、決まったらまた伝えるからね」
「よろしくお願いします!」
グッと力が入る。
そうだ、彼らのことばかり気にしてられない。私自身の仕事も頑張んないと。
そう思ってコーヒーを飲み終わった頃合いで、紡さんが戻ってきた。
「決まりましたよ!」
「本当ですか!どうなりました!?」
「ふふふ、まだ内緒です」
「えー!」
大神さんにごちそうさまでした!って言って紡さんの後を追った。
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