そのはち
各々、オーディションに向けて準備をする。
そんな中、環が私の方にやってきた。
「どうしたの環」
「オーディション、受かりてえ」
「うん、そうだね。皆そうだよ。ここにいる、皆、そう」
「でも、オレは、ぜってえ受かりてえ。かなめはオーディションいっぱい受けてきたんだろ?なんか、コツとか、あんの?」
「うーん、コツかぁ」
ここで環1人にアドバイスしたってなったら贔屓になっちゃうな、って思って他のメンバーを見たら、他のメンバーも聞き耳立ててるのが伺えて、くすりと笑った。
「コツってのはないけどね、私が心がけてるのは、審査員に届けー!って思うこと」
「届け?」
「そう。私のパフォーマンスがあなたの心に刺され、届け、伝われ、って思うことだと思うの。緊張するし、ヘマもするよ。もちろん。でもね、その心だけは伝われ、って毎回思うの。そうしたら結果はついてくるよ」
「気持ち、か。わかった、やってみる」
「うん、頑張れ」
環を送り出すと今度は入れ違いに紡さんがやってきた。
「かなめさん…すみません」
「今度は紡さんか。どうしたの」
「あの、ここではちょっと…」
「あぁ、一旦出ましょうか」
そう言って紡さんを促しながらレッスン室を出た。
「それで、どうかしました?」
「本当に、今回はすみません…」
「あぁ、いいんですよ。まだ何も始まってはいませんから」
そう言いながら手を横に振るとそれでも申し訳なさそうな顔をする。
「あの、実はですね、お願いがあって…かなめさんに、このオーディション、見ていてほしいんです」
「え、アドバイス、しちゃいましたけど」
「いいんです!今回、その、私1人じゃちょっと不安で…」
「初めての仕事ですもんね」
「はい…」
表情を曇らせる紡さんに安心させるように肩をぽんぽん、と叩く。
「いいですよ。見ておきます。皆の本気感じて私もインスピレーション受けるかもしれませんしね」
「すみません。ありがとうございます!」
頭を下げる紡さんに、そろそろ行きましょう。とレッスン室の方へ向かった。
「オーディションを始めます!」
中に入り、紡さんの一言でメンバー決めのオーディションは始まった。
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