お昼大作戦
「あ。サンキュー徹」
「いえいえ」
「本当に苗字さんのだったんだね」
「うん!惣菜パン最高!」
「それ、完璧男子体育部のセリフだからね」
「いいのー!」
及川からパンを受け取りながらニコニコ笑う彼女に、花巻は心に温かいものを感じながらも少しの嫉妬を抱いていた。
「今日は名前もご飯一緒食べよ!」
「え、バレー部は集まって食べるんじゃないの?」
「たまにはいいじゃーん!皆も喜ぶって」
「んー、あ、花巻くん、いいかな?」
花巻の方を見上げる苗字にときめきが増す。
自然な上目遣いとはこんなにダメージが大きかっただろうか。
「え、あ、うん」
「やったー!」
動揺のあまり単調な答えしか出てこない自分に嫌気がしたけど、それでもこれからのことに胸を弾ませたのも事実だ。
早く行こう、と及川の腕を引く彼女に、及川に少し嫉妬したがそれはまあ、しかたないと思うことにした。
花巻と及川、つるんでいた期間が違う。仲がいい方を選ぶのは当たり前だ。それでもチクリと刺す心の痛みは、隠せずにいた。
屋上。
この時間は利用者も多く、人気スポットであるが、一箇所、毎回同じメンバーが集まる場所がある。
「遅かったじゃねえか、クズ川」
「ちょっと岩ちゃん!その言い方いくら及川さんでも傷つくんだからね!?」
「って、お、苗字さんじゃん」
「はーい!今日はお邪魔しますバレー部の皆さん!」
「気にすることないってー、な、花巻」
「おう」
内心緊張で、試合でもこんなに緊張したことないくらいだったけど、平静を装って松川の隣に花巻は腰を下ろした。
そして円になるように苗字が花巻の隣に座り、そこから及川、岩泉の順になった。
(隣…!)
何度も言うが緊張でそろそろ倒れるんじゃないかと言うくらい緊張しきっている花巻は自分の食事も上手く喉が通らなかった。
「花巻くん体調悪い?」
「いや、そういうわけじゃないよ、大丈夫」
そんな2人の様子を微笑ましく…を通り越し、ニマニマと見つめる松川と及川。松川はとりあえず殴って、岩泉にヘルプの視線を送ると何やら汲み取ったのか岩泉のパンチが及川を襲った。
それを見て満足そうに笑うと、苗字も楽しそうに笑った。
「ちょっと!及川さんが殴られてそれを笑ってみるなんて名前ひどいんじゃない?!」
「いやあ、仲いいな、って思って」
そう言いながら可笑しそうに笑う苗字に少し空気が和む。
それから、談笑しながら昼休みは徐々に終わりを迎えていた。