気合入る及川さん
あの日から、花巻は無意識に彼女を探すようになった。
例えば、授業中に外で体育してるクラスだったり、休み時間の廊下だったり。
もう既にそれは恋する少年のそれだった。
それを見てニヤニヤ笑うチームメイトに照れ隠しでちょっかいをかける回数も増えてきた、そんなある日だった。
「 よーし、それでは及川さんが一肌脱ぎますかー」
いつも通りの昼休み、及川が急に花巻を連れ出した。
「 なんだよ…俺にそういう趣味はないぞ」
「 俺だって無いよ!」
失礼しちゃう!なんて言いながら購買の方に向かう及川の後ろを花巻は付いていった。
なにやら自信満々のこの男は、鼻歌なんて歌い始めて周りから注目を浴びていた。内心、やめてくれ。と思ったのは内緒だ。
購買が近づくにつれて、人が多くなる。
そして、購買とは別に人が視線を向けている先に及川が進んでいった。
「 徹!遅いじゃん!」
ご飯なくなっちゃう!と言う少女はここ数日視線の先で探していた苗字だった。
「あれ、花巻くんも購買?」
「 あ、うん。苗字さんもなんだね」
「最近朝練早いからお弁当間に合わないんだよねー」
なんて言って笑う彼女に自然と頬が緩む。
及川も気を聞かせてか、会話にあまり入ってこない。
そんな及川に少し感謝しながら購買に進む。あとで牛乳パン奢るわ。
「あ、及川、いつもの買ってきてー」
「おっけー」
及川に苗字さんが小銭を渡す。
それを当然のように受け取って及川がずんずんと前に進む。
「え、何お前いつも購買買ってやってんの?」
「ほら、名前小さいから、あの中に入ったら埋もれちゃうでしょ」
「まあそうかもだけど」
そう言いながら、ひょいひょいと惣菜パンばかり買っていた。
「あれ、及川ってそんなに惣菜パン食べたっけ」
「ああこれ、全部名前の」
「え!?」
俺のはこれ、と言いながらいつもの牛乳パンになんか甘そうなパンを中心に選んでいた。ぱっと見、それを食すのは逆だ、と思うが、及川が惣菜パンを食べるところを想像し難いあたり、本当なのだろう。
花巻は苦笑しながら自分のパンを買った。