私の落ち着ける場所

「1年苗字、入ります!」

2度部室の扉をノックし大きな声でそう言って扉を容赦なく開ける。

「うぉ!?苗字!もう少し気づかいを持て!」

部長にそう言われるも私はもうすでに更衣室で着替えを終えて、部室に荷物を置くだけなのだ。顔を赤くさせる先輩方を見てもときめきとか恥じらいとか思わない。
なぜなら入部数日のある日に先輩の先輩自身を見て「そこも鍛えられたらいいっすねー」なんて言ってしまうくらいには気にならない。
というか先輩たちが早く慣れてほしい。他のマネージャーがおとなしすぎただけだと思うんだ。

「名前、先輩方の言うことが正しい」

「げ、寿一…」

先輩方にばっかり意識が行っていたせいか、隅にいる天使…福富寿一の姿に気が付かなかった。彼は正しいと思ったほうの力になるからなー。こればっかりは私が悪者なようだ。

「俺はいつでもおめさんに見られてもかまわないぞ、名前」

「お前のは全力で断らせてもらう」

ばきゅん、じゃねえよ。寿一の金魚の糞こと新開隼人は得意のポーズを決めていた。早く上のジャージ着ろバカ。

荷物を部室に置くと早足で外に出てマネージャー業の準備に入る。
ドリンクを作りながら少しずつ覚えてきた先輩たちの好きな味に近づけるように一本一本心を込めて作る。
まあ粉入れて振るだけの簡単なお仕事ですけど。ただ忘れてはいけない。ここは箱根学園自転車競技部。その数が尋常じゃない。
あの大所帯に対してマネージャーが3人とかふざけているのか。そのマネージャーも2人が3年だから、今の3年が卒業したら私の死亡フラグはビンビンだ。
先のことはどうにかなる、なんて思いながらとりあえず今やらなくてはならない仕事を終わらせる。
あとは、朝練の時に先輩が干してくれた(私は入学式ということで来なくていいとのお達しだった)タオルを取り込みながら畳んでいく。

畳み終わってドリンクの準備も終わらせたら丁度先頭陣が戻ってきた。
先輩たちの速さに軽く感動しながらタオルとドリンクを渡して回る。

「お疲れ様ですー」

「おー…」

全力で回してきた先輩たちに配りまわっていると丁度寿一たちが帰ってきた。


「おつー」

「ああ」

「名前、浮き過ぎだな」

「あ?」

「…あぁ、化粧か」

二人にじっとこっち見られる。
確かにほかのマネージャーは化粧してないし、でも私にはこれが普通で仕事に支障がないように気も配ってる。
だから部長さんも容認してるし、あとは周りが慣れるだけだと思うんだけどなー。なんて思いながら寿一と新開に手を振り他の部員にドリンクやタオルを配って回る。

そんな繰り返しすらも、私の落ち着ける場所なんだ。

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