テニス短編 | ナノ

 傘

もう、怖がらないよ
貴方の性格(こと)を知ったから

これからはもっともっと
貴方のいいとこ知っていくから





ある雨の日。傘を忘れて生徒用玄関で途方にくれているときだった。


「…神田?」


もう誰も居ないはずの時間帯に、後ろから聞こえた聞きなれぬ声。
後ろを振り向くと、ジャージ姿の宍戸くんが立っていた。
私は、宍戸くんに対して良い印象を持ってなかった。…どっちかって言うと、怖いからあんまり関わりたくないなぁ、って思ってた。


「お前こんな時間まで何してんだ?」


「えっと…委員の仕事が長引いて…」


そう言うと、あぁ、お前図書委員だもんなと言って笑う。


「…宍戸くんは?」


「あ?俺?監督に捕まってた」


ほんと困るよな。と言いながらも少し笑ってる。




「さっきからここに立ってるみたいだけど、もしかして傘忘れた?」


悪戯っぽく笑う宍戸くんに、私は軽く頷いた。


「今日朝から雨降るっつってただろ?」


見てこなかった?と聞くから、コクン、って頷いた。


「じゃぁ…ほら」


「え?」


「貸してやるよ」


私に渡された折り畳み傘。
宍戸くんが投げて渡すもんだから、反射的に受け取ってしまったけど。


「返すのは、今度でいいから。それ使って帰りな?」


「でも…それじゃあ」


「俺は頑丈だから!」


歯を見せて笑う宍戸くんは、じゃな!って言って土砂降りの雨の中ジャージを頭に被りながら帰っていった。
その後、私はお言葉に甘えて、宍戸くんの貸してくれた傘を使って家に帰った。




次の日、昨日の雨が嘘のように晴れ、私は昨日借りた傘を鞄に入れ、学校に来た。
教室に入ると、お友達と話している宍戸くん。


「宍戸、くん」


少し震える声で名前を呼ぶと、宍戸くんとお友達の…芥川くん?が私のほうを向いた。


「どうしたの?神田さん」


にこやかに笑って話しかけてくる芥川くん。


「えっと…」


「ジロー、お前じゃなくて神田は俺の名前呼んだの」


そう言って笑う宍戸くん。




「これ、ありがとうございました」


私は昨日借りた傘を渡した。


「あー…濡れなかったか?」


「はい、おかげさまで」


「よかった」


顔をふにゃって崩して笑う宍戸くん。
その顔を見て、少しドキッてした。


「なぁ…神田」


「はい?」


「ざくろ、って呼んでいいか?」


「あ、はい!」


お互い真っ赤な顔して笑った。
少し、貴方と仲良くなれた今日。これから、もっと貴方の事知りたい。
この気持ちがなんなのか、それがわかるのは、もうちょっと先のお話。

END




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