◎ 知らない
君がどれほど悩んだのか
この先の苦悩を受け入れる覚悟をしたのか
私は、何も知らされないまま。
知らないいきなり、とることの出来なくなった、国光との連絡。
前は、忙しくても週一で連絡とりあっていたのに。
「なにか、知らない?」
幼馴染の周助にそう聞いても、唯々困ったように笑うだけ。
きっと、彼は知ってるんだけど教えてくれることはないだろう。
「ねぇ、国光…」
“会 い た い”
苦しいよ。
辛いよ。
どうして私に話してくれないの?
不安は、募っていく。
それから数日後、突如鳴り響いた彼専用の着信音。
「国光!!」
『あぁ、ざくろ。すまない』
謝ってほしいわけじゃないの。
理由を聞かせてほしい。
言いたいことはいっぱいあった筈なんだけど、この電話一つで、声を聞けたという事実で私は何も言えなくなってしまった。
「どうしたの…?」
『その、だな…』
どうにも歯切れの悪い国光の言葉。
時と共に蓄積されてきた不安は、更に加速する。
『すまないが…―――』
切れた電話。
私は何を言われたのか分からず、動けずに居た。
『別れて、ほしい』
それは、本心からの言葉?
そう、聞ければよかったのに。
勇気がない私は、問うことが出来なかった。
「わか、った…」
泣きそうになるのを堪えて、そう返した。
『…今まで、悪かった』
その言葉で、終わってしまった2人。
泣くにも泣けず、唯、時間が過ぎる。
前に進めない私。
元気付けようとしている周助。
ねぇ、貴方は何か知ってるの…?
でも、どうしてだろうね。
国光との時間が大切すぎて、それを知って前に進むのを拒む自分が居るんだ。
「国光…」
気付かれないように小さく呟く。
会いたいよ。
貴方の声を、姿を、存在を、固体をこんなにも欲してる自分が居る。
気付かないフリしても、気が付けば彼と比べてる。
……未練がましい、なんて分かっているのに。
それから、彼を忘れたくて勉学に没頭していたある日、偶々明日が休みになった周助が私の家を訪ねてきた。
「ざくろ、君に話があるんだ」
「…話?」
周助はいつになく真剣な眼差しでそう切り出した。
「手塚は……留学することになったんだ」
「え…?」
それは、本当に唐突だった。
確かに国光はこの小さな島国では、もったいないような力を持った人だった。
でも、確かにあの中で笑顔を見せてくれてたのは確かで。
『彼奴らは、家族みたいなものだ』
そう言って笑っていたはずなのに。
「彼奴は、ドイツで活動していくことになったんだ。…前々から本人の希望もあったんだけど…。今回のドイツで、プロ転向を視野に入れて活動していくことになる」
そう告げる周助の顔はどこか苦しげで、憂いを帯びていた。
「それから…手塚がざくろとの別れを切り出した理由は此処にもあるんだ」
「え…?」
「今回の、成功しても、失敗しても此れから先の未来、ざくろを安心させれる場所には出来ない、って…。手塚にしては珍しく、すごく辛そうな声で、そう言ったんだ」
告げられた真実。
愛されてないわけじゃなかった。
愛されすぎていた、事実。
「バカ、よね…」
「そうだね。ざくろも、手塚も」
後悔が渦巻く。
あの時、私が引き留めてたら。
あの時、私が聞いていたら。
進んだ時計、戻りはしない。
君の成功の声が。
君の苦悩から解放される日々が。
進む時の流れの中で、この場所まで、聞こえますように。
End
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