テニス短編 | ナノ

 知らない

君がどれほど悩んだのか
この先の苦悩を受け入れる覚悟をしたのか
私は、何も知らされないまま。


知らない




いきなり、とることの出来なくなった、国光との連絡。
前は、忙しくても週一で連絡とりあっていたのに。


「なにか、知らない?」


幼馴染の周助にそう聞いても、唯々困ったように笑うだけ。
きっと、彼は知ってるんだけど教えてくれることはないだろう。


「ねぇ、国光…」


“会 い た い”


苦しいよ。
辛いよ。
どうして私に話してくれないの?
不安は、募っていく。




それから数日後、突如鳴り響いた彼専用の着信音。


「国光!!」


『あぁ、ざくろ。すまない』


謝ってほしいわけじゃないの。
理由を聞かせてほしい。
言いたいことはいっぱいあった筈なんだけど、この電話一つで、声を聞けたという事実で私は何も言えなくなってしまった。


「どうしたの…?」


『その、だな…』


どうにも歯切れの悪い国光の言葉。
時と共に蓄積されてきた不安は、更に加速する。


『すまないが…―――』




切れた電話。
私は何を言われたのか分からず、動けずに居た。


『別れて、ほしい』


それは、本心からの言葉?
そう、聞ければよかったのに。
勇気がない私は、問うことが出来なかった。


「わか、った…」


泣きそうになるのを堪えて、そう返した。


『…今まで、悪かった』


その言葉で、終わってしまった2人。
泣くにも泣けず、唯、時間が過ぎる。




前に進めない私。
元気付けようとしている周助。
ねぇ、貴方は何か知ってるの…?
でも、どうしてだろうね。
国光との時間が大切すぎて、それを知って前に進むのを拒む自分が居るんだ。


「国光…」


気付かれないように小さく呟く。
会いたいよ。
貴方の声を、姿を、存在を、固体をこんなにも欲してる自分が居る。
気付かないフリしても、気が付けば彼と比べてる。
……未練がましい、なんて分かっているのに。




それから、彼を忘れたくて勉学に没頭していたある日、偶々明日が休みになった周助が私の家を訪ねてきた。


「ざくろ、君に話があるんだ」


「…話?」


周助はいつになく真剣な眼差しでそう切り出した。


「手塚は……留学することになったんだ」


「え…?」


それは、本当に唐突だった。
確かに国光はこの小さな島国では、もったいないような力を持った人だった。
でも、確かにあの中で笑顔を見せてくれてたのは確かで。


『彼奴らは、家族みたいなものだ』


そう言って笑っていたはずなのに。




「彼奴は、ドイツで活動していくことになったんだ。…前々から本人の希望もあったんだけど…。今回のドイツで、プロ転向を視野に入れて活動していくことになる」


そう告げる周助の顔はどこか苦しげで、憂いを帯びていた。


「それから…手塚がざくろとの別れを切り出した理由は此処にもあるんだ」


「え…?」


「今回の、成功しても、失敗しても此れから先の未来、ざくろを安心させれる場所には出来ない、って…。手塚にしては珍しく、すごく辛そうな声で、そう言ったんだ」


告げられた真実。
愛されてないわけじゃなかった。
愛されすぎていた、事実。


「バカ、よね…」


「そうだね。ざくろも、手塚も」


後悔が渦巻く。
あの時、私が引き留めてたら。
あの時、私が聞いていたら。
進んだ時計、戻りはしない。



君の成功の声が。
君の苦悩から解放される日々が。
進む時の流れの中で、この場所まで、聞こえますように。

End




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