テニス短編 | ナノ

 何よりも、本気

君はもう、この雨と一緒に
流れていってしまったんだね


何よりも、本気。




「岳人ー早くしてよー」


「ちょっ…今してるだろ!」


俺が寝坊してすっげぇ焦っとると、ざくろは何が楽しいのかわかんねぇけど、玄関でケラケラ笑った。


「なんでお前はそんな余裕なんだよ」


「私は岳人さんと違いますからー」


「くそくそ!」


どこか自慢するように言うもんだから、準備終わってすぐざくろを叩いてやった。


「いった…」


「何今更か弱い子ぶってんだよ」


「私みたいにか弱い子が他に何処に居るの?」


いつものように冗談を飛ばしながら、俺たちは家を出た。




「あー、今日は少し帰ってくるの遅くなると思う」


「んーわかった。終わったら早く帰ってきてね?」


「わかった」


不意に見せる可愛いところ。こんなにも、愛しい。


「じゃあ、行ってくるわ」


「ん、いってらっしゃい」


俺が電車に乗り込むのを見て、ざくろは手を振った。
俺らの、日常。
……この頃の些細な幸せを、俺は忘れてしまってたんだな。




あれから数ヶ月経って、ちょっとマンネリ気味の俺ら。
この頃の俺らは、よく些細なことで口論になって、面倒くさがりの俺は適当に話を切らせることが多くなった。
…今回も…。


「岳人!人の話聞いてんの?!」


「もういいじゃん、そんな話」


「そんな話!?私マジで怒ってんだけど!!」


「はいはい…」


いつもみたいにあしらった…筈なのに。


「もういい…」


それなのに、今日はざくろが自分の鞄を持って部屋から出て行った。




あの喧嘩から、数時間。
いつもなら…いつもは外に出ていったりしないけれど…そろそろ申し訳なさそうな顔をして帰ってくる筈。…なのに、一向に帰ってくる気配のないざくろ。
なんで、今日あんな怒ってたんやろ。
なんで、ちゃんと話聞いてやらなかったんだろう。


「あぁっもうっっ!!」


今更後悔しても始まらない。
俺は携帯だけを持って、家を飛び出した。


見つけたらちゃんと話聞くから
もう、面倒だなんて思わないから。
だから、もう一回俺の腕の中に帰ってきてください。

END




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